Hot spring ※ 恋愛未満

 ある惑星での任務が済み次の任務地へ向かう途中、クワイ=ガンがこの近くにいい所があるから連れてってやろうと言い出した。降り立った場所は人里から遠く離れたところだった。山道を登ると次第に木々が減り、岩肌が現れてくる。

 こんな場所にいったい何がとオビ=ワンが思い始めた頃、前を歩いていたクワイ=ガンが振り返って、着いた、と告げた。

 張り出した木の枝の陰に隠れるように、回りを岩に囲まれた水面が見えた。
白く湯気が立ちこめている。広さは大きめのベッドくらいあろうか。

「温泉、ですか?」
オビ=ワンの問いにクワイ=ガンは岩に膝を付き、手で湯の熱さを確かめる。
「ああ。加減もちょうどいい。入るぞ」
言うなり、ローブを落とし、服を脱ぎ始める。
オビ=ワンもあわてて師につづいた。

 クワイ=ガンはそれほど深くはない湯の中で腰を下ろし、気持ち良さそうに長い手足を伸ばした。
オビ=ワンは湯に身体を慣らすかのように、周りの湯を手で胸や肩にかけながら、ゆっくりと身体を沈め、肩までつかると、クワイ=ガンを見てうれしそうに微笑んだ。
クワイ=ガンはそんな弟子の様子に満足そうに口を開く。

「いい所だろう?」
「はい、マスターはよくこんな場所をご存知ですね」
「眺めもいい」
湯につかりながら見下ろす先には、はるかに広がる緑の山並みが続いている。
クワイ=ガンは長い髪が濡れるのを気にする風もない。髪が湯に広がって揺れている。
片手で額にかかる髪やうなじをかき上げながら、気持ち良さそうに岩に背を預けている。

オビ=ワンはそんなくつろいだ師を眺めていたが、顔が可笑しそうにほころんだ。
「マスター」
「ん?」
「マスターとこんなことをしているパダワンなんて、きっと僕だけです」
「そうか」
オビ=ワンは小さく笑う。
「こんな山の中で露天風呂に入るなんて、マスターの他にいません」

 弟子の言外にこめられたもの。それは己の信じた事を成すためには、評議会に逆らうことも辞さない信念を持つ師の型破りさ。

 弟子になって数年、慣れてきたとはいえ、未だに戸惑うことや、驚かされることがある。それは、任務中やプライベートでも同じだ。

「湯が少し茶色がかっているだろう。これは硫黄が含まれている」
「そういえば、匂いもしますね」
「傷に良く効く」
クワイ=ガンは湯をすくって、数ヶ月前の任務中に負った傷跡が残るオビ=ワンの身体に軽くかけた。
「マスター…」
師がここに寄ったわけを知ったオビ=ワンの顔が歪んだ。

「マスターこそ、そんなに身体じゅうに傷跡があるじゃないですか」
「私は長いからな。お前はまだ17だ。パダワンが負傷するのはマスターの責任も一部ある」
穏やかな目でみつめられて、オビ=ワンはつっかえながら、精一杯声に出す。
「僕も、いつかきっと、マスターみたいになりたいと思います」

クワイ=ガンは無言で可笑しそうに見返してくる。
「とりあえずは、身長だけでも追い付ければ…」
ちらと師の身体を見て、オビ=ワンは湯の中の自分の身体にも視線を落とす。ついで、溜息が漏れた。
「トレーニングはちゃんとしてるんですけど」
それを聞いたクワイ=ガンが堪え切れずに笑い出した。

 そんなに笑わなくっても、と憮然とした顔の弟子を見ながら言う。
「いや、すまん。だが、お前の身体だって捨てたもんじゃないぞ」
クワイ=ガンは目を細めて弟子を見た。

 少年から青年へとさしかかるオビ=ワンの肢体は、しなやかな瑞々しさにあふれている。
よく鍛え上げられた細身の体は、無駄のない筋肉にバランスよく覆われている。
木漏れ日から射し込む光を、なめらかな肌をすべる水滴がはじく。
普段衣類に隠されている肌は白く、サテンのような光沢を持つ。

 どんな美女もうらやむだろうその肌に、しみや、傷ひとつ付けるのさえはばかられるのに、およそ似合わない傷跡が増えていく。ジェダイであるが故に。
「いずれ、大人になるんだ。急ぐことはない」
クワイ=ガンは湯から上がり、岩に腰掛けて膝から下を湯に入れ、風に当った。

 オビ=ワンも反対側の岩に腰掛けた。師は濡れた髪を軽く梳くようにしながら、眼下の景色を眺めている。オビ=ワンにとってクワイ=ガンは目標であり、それ以上に憧れであった。
秀でた額、やや窪んだ眼窩から発せられる眼光はすべてを見透かすように鋭い。
かと思うと、時にたまらなく優しい眼差しになる。

 均整のとれた長い手足。決して筋骨逞しい訳ではないのに、無駄のない筋肉は、年齢を感じさせない驚くほどの強靭さを持つ。オビ=ワンがいくら力を込めたパンチを打ち込んでも、びくともしない。

 オビ=ワンは濡れたブレイドを吹き渡る風に当てて、かわかすように持ち上げた。
「もう少し、伸ばさないか」
急にこちらに向きを変えてクワイ=ガンが言う。
オビ=ワンが、これですか、とブレイドの先を摘み上げる。
「それは、マスターがそう言われるなら伸ばしますが」
「お前がパダワンのうちは、好きなだけ引張っていいのはマスターの特権だ」
「そんなマスター、いませんよ」

 又、おかしな事を言い出すという表情の弟子を、楽しそうに見ながら言う。
「さて、もう一度暖まったら、出るか」
クワイ=ガンは湯に身体をすべらせ、目を閉じゆっくりと身を沈めた。
それを見たオビ=ワンも湯に入り、同じように目を閉じ、岩に頭の後ろをもたれさせて、足を伸ばした。言葉のない二人の間を心地良い風が吹き抜けていく。

 師弟になってから数年、互いに側にいることが息をするように自然になった。
急ぐことはない、とクワイ=ガンは思う。いずれ、弟子は一人前になって巣立っていく。 
オビ=ワンにとって、自分は師であり、父がわりだ。
まもなく青年へとなろうとする少年は、まだ異性を愛することも、恋も知らない。
けれど、今はまだ、それを気に掛けることもない。
ただ互いが側にいる心地良いひと時を感じていたい。

 充分に暖まった二人が衣服を着け、露天風呂を後にしたのは、日がかげり出した頃だった。
「まだ身体が温かいです」
「ああ」
帰りの下り坂の歩みは速い。やがて、傾斜が緩やかになり、草原に止めてある宇宙船が見えてきた。
オビ=ワンは船に乗り込む前に振り返り、下りて来た道を見上げた。

「いい所でした。マスター」
感謝を込めて師を見上げる。
「また、来られたらいいですね」
クワイ=ガンはやさしく弟子の肩に手をかけた。
「そうだな。さて、行くか」
オビ=ワンが微笑む。
そうして、師弟は仲睦まじげに船に乗り込んでいった。



End


 山中に二人きりなのに、露天風呂なのに、オールヌードなのに、こんなの腐女子向けじゃないっ!とお怒りの方、私もそう思います…。基本がラブラブなこの二人からラブを抜くとどうなるかと思ったのですが、親ばかとファザコン!?いえ、健全な普通の仲の良い師弟でした。
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