画家&モデル?&スパイ 「夜のジェダイ」百谷桜樣の素敵絵付きです!
「もう、よろしいでしょう、先生?」
長時間、じっと同じ姿勢でいるなど、まだあどけなさが残る大公の姫君には無理な話で、いつものように少し椅子に座ったきりで、立ち上がってしまった。

 筆を握っていたクワイ=ガンは鷹揚に肯く。キャンバスには既に肝心のモデルの顔は描かれていた。招かれて諸国の宮殿を訪れるクワイ=ガンにとって気紛れな貴族の相手は心得たもの。姿勢と顔さえ初めに素早く映しとってしまえば、肖像画の進行にそう障りはない。

 姫と侍女が出ていった後、クワイ=ガンは傍らの弟子、オビ=ワンに視線を移す。と、オビ=ワンも心得たもので、姫の座っていた椅子に腰を下ろし、肖像画用の衣装に似た生地を肩にはおり、ポーズをとる。手の込んだ織の光沢ある長い布の端はドレスのように床に裾を引く。

「首をもう少しこちらに向けて。右腕はもっと下。ああ、それでいい」
背筋を伸ばして座り、膝の上でゆるく腕を組み、顔は正面に向けているが、目線はやや斜め前方を向く。口許に僅かに笑みをたたえ、オビ=ワンは静かにクワイ=ガンを見たまま、動かずにいる。


 ふいに、入口にざわめきがおこり、侍女を従えた大公妃が姿を見せた。
「これは奥方さま」
クワイ=ガンが腰を折って礼をし、オビ=ワンも頭を下げた。
「そのまま、続けてくださいませ、先生。わたくしのほうが邪魔をしているのですから」
画家が肯くと、大公妃はキャンバスの後ろに向ってくる。
「姫は本当に落ち着きがなくて、せっかく先生のような偉大な方に描いていただけるのに、申し訳ないことですわ」
「御気になさらずに。あのお年ではまったく当然の事。こちらに障りはありません」
丈の高いクワイ=ガンの横に並んで描きかけ娘の肖像を見た大公妃はまぁ、と感嘆の声をあげた。
「素晴らしいわ!天使のよう。我子ながら我が子でないような」
「お気に召していただけましたか?」
「勿論、先生にやっとこの宮殿に来て頂いたかいがありました。さぞ、許婚の王子も満足されるでしょう」
大公妃は満足げに言って、絵と姫の代わりに青い布をまとって椅子にかける青年を交互に見比べた。

 オビ=ワンという画家の弟子は整った顔立ちをしていた。濃い金褐色の髪、つややかな頬、秀でた額、形の良い眉、神秘的な澄んだ青い瞳。どこか中性的な雰囲気を漂わせた青年は、侍女達のおしゃべりに頻繁に話題になっていた。たしかに並の女性より、正直にいえば、自分の愛娘より、ずっと器量がいい。オビ=ワンがまとう姫の衣装に似た深みのある青い生地が瞳にはえて、薄く微笑む姿は思わず見とれてしまう。大公妃は我知らず、息を漏らしていた。
「何か?」
「いえ、姫も成長すれば、これぐらい――、この絵ぐらい綺麗になるかと思いましたの」
「無論、奥方様の生まれた姫君であらせられますから」


 一行が去った後、しばらく仕事を続けたクワイ=ガンは漸く筆を置いた。
「今日はこれまでにしよう、お前も疲れただろう」
「もう慣れましたから」

 二人はアトリエの隣りの滞在している部屋に入った。バルコニーからの眺めは広場や町並み、教会の尖塔や、街の城壁を越えた先には、豊かな緑の農地が広がっている。

「許可は得てある。少し身体を動かすよう遠乗りにでもいったらどうだ」
「先生はどうされます?」
「教会に行って来ようと思う」
「わかりました。ここにはあとどのくらい?」
「一月もいれば充分だろう。街の西の川沿いの眺めがいいそうだぞ」
「では、おすすめの方角へ」
肯いた青年の肩に、クワイ=ガンは優しく手をかけた。
「気をつけて、日が落ちる前に戻るように」
「わかりました。あなたこそ」

 弟子が出て行った後、クワイ=ガンも濃い色の長いローブを着て、街へ出た。


 一月後、師弟は大公夫妻の遣いに送られ、大公領を後にした。引き止められたが、次の行き先が決っていると丁寧に断った。懐には充分な報酬。初老の男と一見頼りない青年の二人きりの道中だが、盗賊に襲われても二人の剣にかかっては賊のほうがさんざんな目に合うだろう。

 多くない身の回り品と画材の他、厳重に梱包してあるさして大きくない荷物。木材に布を張ったキャンバスに描かれた肖像、それはクワイ=ガンが弟子を映したものだった。未完成のその絵は、二人がこういった旅を続ける限り完成することはない。

 何故なら、キャンバスと木の隙間に大公国の地図や暗号化された情報が巧みに隠されているのだ。
淡く色彩されたオビ=ワンの肖像は、次の滞在先でもほとんど手を入れられることもなく、只湖水色の瞳で微笑みながら、クワイ=ガンを見つめているのだった。


End
      

  画家とモデル、しかしてその正体はスパイ!?の桑井さんと帯、2枚も描いていただけるなんて、思わずガッツポーズです。
 桑井さんの髪型、流して毛先でゆるく編んでるんですか。いつになくいろっぽくてすてきです。肩をさらした帯も美しいです。なんて贅沢だ!
今、シアワセをかみしめています。桜樣どうもありがとうございました。

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