The Best Padawan | |||
午後の訓練を負え住いに戻ったオビ=ワンは、食事の下ごしらえの後、課題に取組んでいた。と、訪問者を告げる音がした。 「シーリー!?」 評議員メインバーでもあるマスター・アディ・ガリアのパダワンのシーリーは自他ともに認める優秀な弟子で、何度かマスターと共に共同任務をしたオビ=ワンもそれは良くわかっていた。強くて勝気で勇気もある、その上、薄いブロンドの髪と青い瞳の美女とくれば、オビ=ワンが一目おくこともままある。 いつもと少し様子が違うようだ。緊張しているというか、ためらっているような態度。 「やあ、何?今日の課題」 「――あなたの力が必要なの、オビ=ワン・ケノービ。今すぐ」 数分後、二人はアディとシーリーの住いにいた。シーリーの用事を聞いたオビ=ワンは勢いに押されて否応なく肯いたが、出かける前に、下ごしらえした材料をタイマーセットしたオーブンに入れ、急いでメッセージを残してきた。 それほど訪ねたことはないが、女性二人のフラットはさすがに自分達とは異なっていた。名門出身のアディらしく、上品で洗練されたインテリアに、さりげなく置かれた小物さえ由緒ある品だったりする。 が、オビ=ワンが通されたのはキッチンだった。彼女らも料理はするが、あまり手を掛けない。時間がもったいないし、家事はドロイドの役目と割り切っているという。 「これなんだけど」 シーリーがフリーザーから容器を取り出してオビ=ワンに見せた。 明日のマスター・アディの誕生日にケーキを作ろうとしたが、うまくいかないという。 「表面のゼラチンが固まらないって、ああ、そうだね。ゆるすぎる」 「分量も手順も全部レシピ通り。ゼラチンももしやと思って何度か水の量を変えてみたけど、うまく固まらない。でもこれ以上固くしたら、下のムースと分離しそう」 「う〜ん。土台がシフォンスポンジ、中身がレアチーズムースで表面がカシスゼリーか。難しいのにチャレンジしたんだね」 「だって、マスターに作るならこれぐらいでなきゃ……」 「――わかった。何とか見てみるよ。レシピ見せて。ちょっと味見していい?」 「これは練習用だから、どうぞ」 フォークを取り、スポンジ、ムースとひと口ずつ確かめるように味わったオビ=ワンは、口を開いた。 「確かに、表面のゼリー意外は基本通りきちんと出来てる。でも、というか、より美味しくするなら、粉をもう少しふるったほうがいい。何回ふるった?」 「1回じゃだめなの?」 「これは特に丁寧に3回くらいしたほうが、よりきめ細かいスポンジになるよ。それと、ムースのメレンゲは泡たて過ぎかな」 「よく泡立てたほうがいいんじゃない?」 「そうなんだけど、立て過ぎると空気の量が減ってふんわりとした感じがなくなるんだ」 「そう、なんだ」 「で、肝心のゼリーだけど、粉ゼラチンをふやかす分の水の量、あとで全体の水の分から引いた?」 「え、しなかった」 「多分、その分の水が多くなって、ちょうどいい固さにならなかったんじゃないかな。それと、最後にゼリーを流す時、ちゃんとあら熱をとって冷まさないとね」 「アラネツって何?」 シーリーは呟いた。 結局、オビ=ワンはシーリーにアドバイスしながら、そのケーキを一緒に作るはめになった。ただ、肝心な点は彼女にしてもらい、オビ=ワンが手を出すのは出来るだけ最小限に心がけた。 「信じられない……」 最後の仕上げにゼリーをフリーザーに入れたシーリーはダイニングテーブルに腰を下ろし、オビ=ワンを見た。 「1時間でできちゃった。私が何時間かかったと思う?」 「――慣れだからね」 そう言いながらもオビ=ワンの手は休むことなく、使ったボウルや器具を洗っている。シーリーが目を移すと、自分が広げた材料や食器や、調理台やテーブルの上いっぱいを占めていたもろもろが、いつの間にかオビ=ワンの手によってほとんど片付けられていた。 「このスプーンここでいい?小さいボウルはさっきと同じ場所?」 シーリーは黙って肯く。 「さ、あとは固まるのを待つだけ、多分うまくいくと思う」 「ありがとう、どれぐらいかかる?」 「タイマーをセットしといた。あ、これだ。あと15分だね。チャイムがなったら見て」 食器をしまう軽やかな友人の動きを頷きながら見ていたシーリーは、何かひらめいたように、ふいに立ち上がった。そのままキッチンを出、すぐに戻って来た。 「オビ=ワン、縫い物は得意?」 目の前に差し出されたのはペールブルーのサテン生地に、凝ったレースが施された美しいクッションだった。シーリーが指さす箇所を見ると、角のレースがほつれて、垂れ下がっていた。 「得意、じゃないけど、針と糸があれば、つけられるんじゃないか」 「やってみた。けど、どうしてもうまくいかない」 「――アディに頼んだら」 「マスターがくれたクッションなのに、そんなこと頼めると思う?」 「針目をそろえて丁寧にやれば、できると思う……」 「持ってくる」 シーリーは又もや部屋に駆け込んでいった。 すぐ戻ってくると思ったシーリーがなかなか来なかった。 「シーリー?」 キッチンを片付け終えたオビ=ワンは開け放した扉から中をのぞき込んだ。 シーリーの部屋はきちんと片付いており、すっきりしていたが、やはり家具など女性らしい好みだった。 が、その一角クローゼット前は服や小物がごちゃごちゃと散らばっており、しゃがみこんだシーリーが小声でののしりながら中をかき回していた。 「あった。ごめん、オビ=ワン。はい、針と糸」 きまり悪そうにシーリーは立ち上がってそれをオビ=ワンに渡す。 「それと、あの、これ前に借りたミュージックディスク。遅くなってごめん。縫い物、リビングのソファでやってくれる」 オビ=ワンは黙って肯く。 「このところ忙しくって、きちんと片付ける暇がなかったの。いつの間にいろいろたまっちゃって」 ドアを開けたまま、オビ=ワンはソファでなく脇のスツールに掛けてクッションを膝にのせた。そこからはシーリーがあい変わらず、どうやらクローゼットを開けた途端あふれ出して床に散らばった物の始末にてこずってるのが見える。 「――仕分けしてから、入れ直したらどうかな」 針に糸を通してしごきながら、オビ=ワンは控え目に声を掛けた。 「どういうこと?」 「その中身、よく使うもの、それとも只入れておくもの?」 「入れておくだけ、が多い」 注意深くレースを針ですくいながら、オビ=ワンは答える。 「服、紙、雑貨、不用品、その他と分けてごらんよ」 こうして、元通り、とはいかなかったが、顔を近づけないとわからない程度の縫い目でクッションのレースは元に納まり、シーリの部屋の床に散らばったものもかなり減っていた。 「残ったのは捨てる物だから、もうすぐ終わると思う」 「良かったね、はい。クッション出来たよ」 シーリーは滅多に見られない、感謝と感嘆の叫びをあげた。 「ありがとう、オビ=ワン!あなた、最高」 「それはどうも、ところで、さっきキッチンでタイマーが鳴ってたよ」 あわててキッチンに駆け込んでいったシーリーは又も声をあげた。 「完璧!見てよこれ」 たしかに、レシピの見本通りの見事なケーキがアディ好みの美しい白磁の皿にのっていた。 「君は素晴らしいパティシエだね。シーリー」 「ほとんどあなたのおかげだけど」 それでも誇らしげにシーリーは顔を輝かせている。 「助言したけど、作ったのは君だ」 「本当にありがとう、今度お礼するから」 「――なら、残った材料、少しもらえたらうれしいな」 確かに、周到なシーリーは試作も入れて、かなりのケーキ材料を用意していたのだ。 「わたし、もういらないから、どうぞ、全部持っていって」 「本当、うれしいな。少しアレンジして、うまく出来たら、お茶に呼ぶよ」 「オビ=ワン、いつか聞こうと思ってたんだけど、どうしてそんなに料理が得意。それに何でも出来るのよ?」 「適正と必要に迫られてだろ」 ごくあっさりと返されて、シーリーは目を見張る。 「美味しいもの食べるの好きだし。任務中はほっとくとマスター食べずに済ましたりするんで自分で自炊できるようにしたんだよ。テンプルにいるときは罪滅ぼしのつもりか結構食べに連れて行ってくれるんで、帰ってから自分で再現してみたりする」 「時間が惜しくない?」 「忙しい時は作らないけど、普段はいい気分転換になるんだ。マスターも喜んでくれるし」 「縫い物とか片付けも好きなの」 「それも必要にせまられてだなぁ。任務中はそんなに着替えもできないから、ちょっとした補修用に針と糸は持っていくし、マスターはあんな大きいなりでもけっこう器用なんだよ」 「クワイ=ガンが?」 「細かい機会修理もお手のもんだし、なんでも直す。あ、一度、怪我した人の傷を縫い針で縫ったこともある。マスターを見習っていつの間にかするようになったかな。片付けは、うちのマスター、任務の時に拾い物とか多くてね。ちょっとだけだといいながら、どんどん増えるもんだから、不用品はきっぱり処分して、仕分けしないと、部屋に収まりきらないだろ」 ケーキの材料を袋にいれながら、シーリーは、無言でオビ=ワンの話に耳を傾ける。あの、いかにも悠然としたクワイ=ガンからは想像しがたい事だが、当の弟子はごくあたりまえのように語る。 密かにライバルと思っているオビ=ワンだが、普通のパダワンが学ばない事を自然に習得している事は、少しうらやましく、少しくやしい。もっとも自分は家事の達人になる気はないし、なれないが。 シーリーが詰め込んだ大きな紙袋を下げたオビ=ワンは、時刻を見、声をあげた。 「マスターが帰ってくる。じゃ、こんなに、たくさんありがとう、シーリー」 「――オビ、明日の午後のセーバーの練習忘れないで」 「もちろん、持久戦ならいただきだよ」 「手加減しないから」 包みを振りながら、オビ=ワンはみるみる遠ざかっていった。 「セーバーは負けられない……」 シーリーは見えなくなった友人に呟いた。 オビ=ワンが帰り着くと、美味しそうな匂いがして、ちょうどクワイ=ガンがオーブンから中身を取り出していた。 「すみませんっ、マスター、遅くなりました」 オビ=ワンはあわてて側に飛んでいった。 「シーリーのところへ行っていたんだろう。ちょうどお前が帰ってくるのがわかったんでな」 「ええ、実は――」 二人で食事のしたくをし、テーブルに運んで、食べ始める。いつのことから師弟にとっては空気のように自然な流れ、そうして、その日起こった事などを話し合うのもやはり自然のことだった。 「腕をあげたな、パダワン」 食後の茶を飲みながら、クワイ=ガンが満足げに呟く。 「マスターの指導のおかげです」 「マスターは基本的な身の回りのことは教えるが、それがどれだけ上達するかは、各自の適正だな」 「そうなんでしょうか。誰でも出来そうな気がするんですが」 さらりと返す弟子の言葉にクワイ=ガンはちょっとばかり眉を下げ、目を細めた。 「どのマスターも己の弟子が最高と思いたいものだが――、私の目の前にいるパダワン同様、家事全般堪能という話はめったに聞いたことがない」 「そんなもんですか?」 目の前のパダワンからは、やはりあまり気乗りのしない答えが帰ってくる。 クワイ=ガンは、苦笑をもらしながらゆっくりと立ち上がった。 「今日の課題は済んだのか?」 「終わりました」 「捜している資料があるんだが、見てくれるか?」 クワイ=ガンの後について師の部屋に入ったオビ=ワンは、たいして時間もかからずに、つめこまれた棚からそれを探し出した。 「ありました」 オビ=ワンは取り出した薄い冊子をすぐ後ろに立っている師に手渡した。 「ありがとう、よく覚えていたな」 「いえ、マスターが使いそうな分野別に仕分けしてあるだけです。ある意味マスターに鍛えられたおかげです」 「なるほど」 「これから調べ物ですか」 「急ぎではないから明日にしよう」 受け取った本を脇に置き、クワイ=ガンは背後からオビ=ワンの胴に手を回し、弟子のうなじに軽く唇を落として、鼻を耳元に摺り寄せた。 「マスター……、これから別の訓練をしてくれるんですか?」 「いや、訓練ではない。これは共同エクササイズだ。そう思わないか、マイラブ」 「そうですね……」 「次はどうしたらいいと思う?」 大きくて器用な指先がベルトをはずしにかかりながら、吐息が感じやすい耳朶をくすぐるのを感じて、オビ=ワンはようやっと擦れた声で応えた。 「キスから、始めませんか……」 クワイ=ガンは返事をすぐさま行動で示した。 End マスターのおっきな手が好きです。雰囲気のある良いシーン、その時あの器用な指先はさりげに相手をおさわりしていたりする(笑) |
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