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肩の近くで密やかな吐息がし、触れた肌から感じる温もりが離れた。と同時に、柔らかな生地が擦れて動き、クワイ=ガンの隣りでベッドに横たわっていた弟子が身体を起こした。 ベッドに片膝をつき、もう片方のつま先を床につけて軽く腰をひねり、何も着ていないオビ=ワンは同じく裸で横になったクワイ=ガンを見下ろすよう声をかけた。 「シャワーを浴びて、自分の部屋に戻ります」 「ここで寝ないのか?」 「課題の続きをしないと。マスターに助言をいただきに来たんですけど、予想外に時間がかかってしまいました」 オビ=ワンは愛しあった余韻の残る薄く色づいた目元で、からかう様に軽く師をにらんだ。 「私のせいか?」 片肘を曲げてその手を後頭部にあてがい、オビ=ワンの濡れたような青い光を放つ瞳を見上げるようにしながら、クワイ=ガンは口元を軽く上げて返す。 確かに、今晩オビ=ワンがここに来たのは、ベッドをともにする為ではなかった。修業中のパダワンは、テンプルに戻ればさまざまなトレーニングや講義の課題をこなさなければならない。 成人したオビ=ワンは上級コースをとっており、レポート作成もなかなか手がかかる。 師に助言を受けに来たオビ=ワンだったが、頭を寄せてデータバッドを覗き込んでいるうち、間近に吐息を感じ、ふと上げた目と目が合い、絡んだ視線に、どちらともなく頬が近付き、唇が重なる。 そこで済ませることも出来たはずだが、顔を離したオビ=ワンが肩で息をしながらクワイ=ガンをちらりと見上げ、胸に顔を埋めて広い背に腕を回した。 その意味することは、フォースに訊ねるまでもなく恋人ならわかる。 クワイ=ガンはオビ=ワンの腰に手を回して、ベットにいざなった――。 「お互い様でしょう」 つい先ほどの事を思い出したのか、オビ=ワンは恥ずかしそうに目をそらす。 そうして手を伸ばし、クワイ=ガンの額におちた長い乱れ髪をやさしく払った。 「では、おやすみなさい。マスター」 羽のように軽く、クワイ=ガンの秀でた額に素早く口づけを落とした。 「これから課題の続きをするのか?」 「――ひと眠りして早起きします」 「起きられるか?」 「大丈夫です」 脱いでおいた服をかき集め、テーブルに置いたデータパッドを取り上げて、オビ=ワンは出入り口に向う。 薄暗い照明の元、裸の背が仄白く浮かんだ、と思ったのも束の間で、扉でオビ=ワンは一瞬振り返りかえった。 「お休みなさい、マスター」 「おやすみ、オビ=ワン」 白い裸身は一瞬で扉の向うにかき消えた。 それから数日間、オビ=ワンは師の部屋に来る事はなく、夜遅くまで課題に没頭した。ある朝、眠そうな顔で終わりました、とクワイ=ガンに告げた。 「これでゆっくり寝られそうだな」 「ええ。あ、でも、今日が提出期限なので、終わったら皆で食事に行くかも知れません。宜しいですか?」 「ああ、私も少し遅くなる」 案の定会議は長引き、クワイ=ガンが食事を済ませて住いに戻ったのは、夜遅い時間だった。 弟子のフォースが感じられるのでオビ=ワンが自室にいることはわかる。寝不足だったオビ=ワンが寝てしまっているなら邪魔をしたくないが、新たな任務の予定を告げる必要があった。 『オビ=ワン』 扉を開けて中に入ると、師のフォースに気付いたオビ=ワンが掛けていた椅子から振り返った。 「お帰りなさい、マスター」 くつろいだチュニック姿のオビ=ワンが立ち上がり、伺うように師を見、ついで視線を部屋の中に走らせた。 その視線を追ってベッドを見ると、見慣れた黒髪の青年が顔をうつ伏せ気味にしてぐっすりと寝入っていた。 「どうしたんだ?」 「皆で食事して帰る途中、ガレンがデータを借りに寄ったんです。私が探しているうち気づいたら寝てました。ガレン、夕べは徹夜したそうです」 「クリーはアディ達と外へ食べに出たからまだもどっていないだろう」 「では、もう少し寝かせておいてもいいですか。ひと眠りした後で起こしてみます」 「かまわないが、お前も眠いんじゃないのか?」 「――ええ、まあ、その時はソファでも寝られますし」 「同じベッドで眠る気にはならなかったのか?」 「狭いし、蹴飛ばされたりしたらいやです」 クワイ=ガンは小さく笑いをかみ殺した。 ガレンのマスター、クリー・ラーラに連絡してみるとあっさりと、かまわないから、部屋の外へたたき出してちょうだい、と言う。 「そうもいかんだろう」 「弟子は厳しくしつけているつもりよ」 「では起こして、部屋に送っていこう」 「そんな迷惑はかけられないわ。帰りに拾いに寄るからそれまでおいてくれるかしら」 「ガレンのマスターは、厳しいんだか甘いんだかわかりませんね」 ブランケットとクッションを持ってリビングのソファに沈み込んだオビ=ワンは眠そうに目をこすっている。 「飴と鞭の使い分けがうまいんだろう」 「そんなもんですか――」 「お前も寝たらどうだ。眠そうだ」 「大丈夫です」 「クリーがきたら私が相手してやる」 「でも……」 そう言いながら、オビ=ワンの瞼はいまにも閉じそうになっている。 クワイ=ガンは手をオビ=ワンの額にかざし、フォースを送った。 すぐに寝入った弟子の身体をソファに横たえ、ブランケットをかけると安らかな寝息が聞こえてきた。 ほどなくして現れたクリー・ラーラは、ソファで眠っているオビ=ワンを見て、何か言いかけた口を閉じ、声を落とした。 「迷惑をかけたわね」 「かまわんさ」 「オビ=ワンがここにいるということは」 クワイ=ガンの返事を待つまでもなくクリーはオビ=ワンの部屋に向かう。 開けた扉からクワイ=ガンは室内を目で追った。さっきうつ伏せだったガレンは寝返りをうって仰向けに寝ている。 「ガレン、ガレン起きて」 クリーは掌で軽く弟子の頬をはたいている。 だがそれではとうてい目覚めるはずもなく、ガレンはむにゃむにゃと何か呟き顔を背けようとする。 すると、よく手入れされた小さな手がガレンの顔面にすっと伸びた。 「うっ!がっ?!」 容赦なく鼻をつまみあげられ、ガレンは声にならない叫びをあげ目を見開いた。 「マ、スター?!」 「ガレン、どこにいるかわかる?」 口許に笑みを浮かべて見つめる己のマスターの口調に危険を感じたガレンはあわてて頭を起こし、周りを見渡す。 「……オビの部屋」 「そうよ。あなたそんなに彼のベッドに潜りこみたかったの。残念ながら逃げられちゃったようだけど」 「え?」 「オビ=ワンはソファで寝てる」 「ああ――」 「さ、帰るわ。ブーツをはいて」 まだはっきりしない頭を何とか起こしてクリーに促され部屋を出たガレンは、リビングのソファで寝ている友人と、その傍らでこちらを見ているクワイ=ガンの可笑しそうな瞳に出くわした。 「すみませんでした、マスター・ジン」 「いや、我々はさしつかえないんだが」 そんなクワイ=ガンの寛容な返事をクリーがぴしゃりと押さえつけた。 「クワイ=ガン、私の弟子の無断外泊を防いでくれて感謝するわ。卒業させるまですべての責任はマスターにあるんですからね」 「無論だとも、クリー」 「オビ=ワンは起こしちゃ悪いから、あとで謝るのね、ガレン」 「イエス、マスター」 「邪魔したわ、クワイ=ガン」 弟子より背の低い女性マスターは振り返って弟子を見上げる。 「ガレン、歩ける。エア・ストレッチャーを用意してきたんだけど」 「必要ありませんよ!なんでそんなもの」 扉がしまった。 かみ合わない様で通じている、あれがあの師弟のペースなのだろう。遠ざかっていく二人のフォースのなごりを感じながら、笑いをもらしたクワイ=ガンの肩が小さくゆれる。 「マスター……?」 オビ=ワンが薄く目を開け頭をクッションにつけたまま、猫のように目元をこすりながらクワイ=ガンを見あげていた。 「何かありました?」 「クリーが来てガレンをつれて帰った」 「え、いつ?」 「今帰ったところだ」 オビ=ワンはゆっくりと身を起こし、ソファの背にもたれて腰掛けた。 「起こしてくださればよかったのに」 「いやクリーがお前を起こさないよう気を使ったんだ」 開けたままの扉から自室を眺めると、確かにからっぽのベッドが眼に入った。 「泊まっていっても、さしつかえなかったのに」 「私もそういったが、クリーはむやみに外泊させない主義だそうだ。マスターの鑑だな」 「マスターはどうなんですか?」 「私がお前を無断外泊させたことがあったか?」 「パダワンになってから、プライベートではないですね。その逆はともかく――」 クワイ=ガンの片眉が上がった。 「……オビ=ワン?」 手を伸ばしかけたクワイ=ガンをかわすようにオビ=ワンはソファから素早く立ち上がった。 「まだ夜中ですね。では部屋に帰って寝ます」 そそくさと背を向けようとするオビ=ワンにクワイ=ガンの声が掛かった。 「これからシーツを変えるのか?」 え、とオビ=ワンは振りかえって師を見る。 「汚れてないし、まだいいでしょう。どうせ、あと数時間寝るだけです」 「お前のベッドに他人が入っていたというのが気に入らん」 マスター、とオビ=ワンは呆れた声を上げた。 「他人って、ガレンがたまたま眠っただけです。何もありませんよ」 「わかってはいるが、私の息があるうちにお前のベッドに誰かが入り込んだままにして置けると思うか」 オビ=ワンは頭痛をこらえるように額を抑えた。 「では、シーツを全部取り替えればいいんですか?」 「どうせあと少しだ。私のベッドで眠ればいい」 「いったい、どういう理屈ですか?」 「お前、この前は私のベッドで眠らなかっただろう」 「あれは早起きするのにマスターの邪魔したくなくて。あれを気にしてたんですか?」 「私のベッドは寝心地が悪いか?」 「いいえ、快適ですよ」 「では、私の隣りではぐっすり眠れそうもないか?」 オビ=ワンは、今度は盛大に溜め息を吐いた。 「――ひょっとして、明日から任務ですか?」 「ああ」 「場所と出発時間は?」 「コルサントの衛星βVだ。出発は午後。基地のセキュリティ訓練と新型飛行艇のテスト操行だから、準備も荷物も必要ない。アディとクリーと私、それに各パダワン達もだ」 「わかりました」 オビ=ワンは行く手を塞ぐように立っているクワイ=ガンを上目遣いでみた。 「では、ひと眠りして任務に備えましょう」 手を伸ばし、クワイ=ガンの長い髪に触れる。 「髪を解かれます?」 「そうだな、お前はどうする?」 「眠いはずなんですけど、変に目が冴えてしまいましたからね。ベッドに入ってすぐ眠れたらそのまま、寝付けなかったら、ブレイドを解きます」 「はっきりしないやつだな」 「誰のせいだと――」 「何かいったか?」 「いいえ、とにかくベッドに入ってみないとわかりません」 寝支度をし、優しい口づけを交わしてクワイ=ガンの大きなベッドに並んで横たわる。一人のときのように好きなだけ手足を伸ばせはしないが、互いの肌の温もりを感じ、何ともいえない心地良さに包まれる。 「……眠れそうか?」 オビ=ワンは小さく欠伸をもらした。 「まだ、わかりません……」 「まあ、寝る前か寝起きかの違いだけだ」 「え……!?」 「髪をとく順序」 「そう、ですね……」 そこで、オビ=ワンの声は途切れ、二人のベッドは闇に沈んだ。 End 前か後かって――(爆!) before after (邦題『判決前後』) そういえば、この映画、マスター(父親)の名前、ベン・ライアンでした!! 今だ解明されないオビの変名の秘密を解くキーはここに(笑) |
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