Trivia | ― 伝説の男(ひと) ― | ||
銀河の中心、都市惑星コルサント。惑星ジオノーシスの戦い以来、きな臭い噂がそこここで耳に入るようになっていた。が、住民の日常に変化はなく、永遠の繁栄を享受しているように見えた。日が落ちると繁華街はいよいよ明るさを増し、あらゆる人種が刺激と娯楽を求めてさざめく。 眩いデコレーションに縁取られたとあるショー劇場の前にローブ姿の二人の男が立っていた。 「ここですね、今日の案内では間もなく始まるようです」 「この店でショーのトリをやれるのはかなりなものだな」 「ええ、最初場末の劇場でショーの前座をやっていたそうですが、評判になって瞬く間にここでトリを張れるまでなったそうです」 「かなり芸たっしゃらしいが、ジェダイがネタというのは前代未聞だな」 「――ひょっとしたら、どこか裏の繋がりがあって漏れているのではと」 「とにかく見てみよう」 ジェダイだとて、一人前のナイトになれば特に干渉される事も無く用事やプライベートでシティに出かける。パダワンは一応マスターに許可を得ることになっている。が、アナキン・スカイウォーカーは子供のときから師のオビ=ワンに内緒でこっそりと下層階のパーツ屋や怪しげな店に出入りし、今では独自の情報網を持っていた。オビ=ワンも師のクワイ=ガンゆずりの情報源があるが、いつもはエリアが異なるはずの師弟の情報網から同じ人物の噂が浮かび上がった。つまり、それだけシティで知られているということだ。 入場料を払って中に入ると、舞台前のテーブル席は込んでいた。ドリンクを頼み、二人は舞台からは遠いが、出入り口に程近い全体が見渡せる席に腰を降ろした。フードをはずし、客席に視線を走らせる。薄暗い劇場内ではジェダイと気づかれる心配はなさそうだが、オビ=ワンは必要な時は、どんな人込みでもとりたてて姿を隠さなくても気配を感じさせない技を見につけていた。テンプルだろうが任務先だろうが、強烈な存在感のアナキンは、オビ=ワンほど自然に気配を消すのは簡単でなかったが、ここでは、言われなくてもオビ=ワンと同じように気配を隠した。 『――まあ、大丈夫だろう。そんな無理に背を丸めなくても大丈夫だ。アナキン』 『イエス・マスター。しかし、あなたはともかく、クワイ――、あなたの師はあの大きさだから苦労してたんじゃないですか?』 『いや、マスターはどこでもゆったりとくつろいでいたよ。それでいて必要な時は完璧に気配を消せた』 『ふうん……』 『始まるぞ』 ショーは進み、賑やかな音楽とおおげさな司会の紹介の後、話題のコメディアンは最後に姿を現した。 ミスター・エッグはずんぐりした体躯で一見ぱっとしない小柄なヒューマノイドの男。大きな目のやけに強烈な視線が印象的だ。派手な色合いの衣装に身を包み、手ぶらで中央に進み出て、おおげさな仕草で恭しく観客に挨拶する。 「これはこれは本日も素晴らしいお客様がお見えだ。――実は大きな声ではいえないが、そこに」 と中央のテーブルを指さす。 「某元老院議員」 そのにいた老人は周りの注目を浴び、目を白黒させる。 「そしてそこに、某大企業のオーナー」 と別の席。 「銀河の歌姫」 と別の席のトワイレックの女性。 「さあさあ、今夜もお忍びでこのようなお歴々が、日頃の憂さを忘れにお見えだ。いやいや、娯楽に人種や肩抱きは必要ありません。今夜もたぁっーぷり、皆様の共通の感心事。コルサントのうわさ話で盛上がりましょう」 あ、と指を口にあて、小声になる。 「議員、オーナー、歌姫、後で楽屋へ着てくれれば、貸衣装代とサクラ代は払うからね」 どっと笑い声があがる。 「ああ、そうそう忘れてた」 前のテーブルの一組の若い男女を指す。 「今日もジェダイがお忍びでお見えだ」 白っぽい服装のなかなか見目の良いカップルは、心得た様に微笑んで軽く手を振った。 「いやいや皆様、この二人は本当にあの、御高い聖堂にお住まいのジェダイなんですよ。その証拠に――」 エッグは声をひそめた。 「顔がいいんですよ。なんせ、ジェダイは、赤ん坊の頃にかっさらってくるようなもんですから、フォースがあるかなんていうより、可愛いのが一番ですからね」 笑い声。 「そりゃあ、訓練だって小さい頃からマンツーマンだからひと通りは誰だって見につく。でもねぇ、ご面相は生まれつきでしょ。だったら、交渉事にあたるジェダイはやっぱり、ムービースター並がいいにきまってる。たいていの王様や元首だって、み〜んな同じですよ」 聴衆の笑いの後、エッグはカップルに言う。 「君達も後で楽屋にきてくれ。隠しもってるライトセーバーのレプリカ返してくれよ。明日も一番顔のいい客捕まえて、渡さなきゃならないから――」 こんな風に始まったエッグのトークはジェダイばかりでなく、コルサントの有名人や 最近の話題を皮肉って、軽妙に続く。 師弟は言葉を交わすことも無く、トークに耳を傾けていた。オビ=ワンはテーブルに軽く肘を着いてくつろぎ、時には可笑しそうに声を立てて笑い、拍手をしたりと、他の客同様いかにも楽しそうにしている。 アナキンはそんな師の様子を横目でみながら、とりあえず、ジェダイと言われた男女のフォースを探るが、当然、何も感じられないし、室内にも、不穏な様子は見当たらなかった。 「――ジェダイとお付き合いしたい。ああ、もちろんできますよ。なんたって共和国は自由恋愛ですからね。ジェダイは結婚しないからその点でもおあつらえ向きですよ。何せ、余計なこと考えないで楽しくお付き合いだけすればいいんです」 クスクス笑いが広がる。 「但し、高潔な方々だから、物には執着しません。身の回りもしかり。彼女がジェダイでもデートの費用や豪華な贈物の心配はご無用。彼氏がジェダイなら、まあ、庶民的な娯楽を楽しまれたらいかがでしょうか。もちろん、ワリカンで」 オビ=ワンが嬉しそうに笑っている。 アナキンは新妻のバドメを思って、少し心が痛んだ。愛のみで契りを結んだ二人は結婚を堅く秘していた。アナキンはパドメに何か記念になるような贈物をしたかったが、全てを持っている彼女に贈る物を思いつかなかったし、パダワンの身では充分な金もない。それで自分の唯一の持ち物、C-3POを妻に贈ったのだった。パドメは喜んで、変わりにR2−D2を夫に贈った。 「え、あっちのほうはどうかって?」 一瞬、注意がとぎれたアナキンの耳にエッグの声が入ってきた。舞台に視線を戻すとエッグが耳に手をあてる仕草をする。 「ここにいる皆様、実はそれを聞きたくてうずうずしてるんでしょ。そう、ジェダイのアレは――並じゃない、らしいですよ」 一本立てた指を口にあて声を落す。 「ここに本当にあの聖堂の方はいませんね。後でうしろからばっさり、なんてのはご免ですからね」 観客の低い笑い。 「ここからは又聞きですよ。見たわけじゃない。いくら私だってそれはできません。ただね、情報収集かご自分の好みか知りませんけど、ある特定の職業の、夜仕事をする愛想のいい女性たちと仲良くするジェダイがいるんですな。そう、ここより少し下層にそういったところがたくさんありますがね」 もちろん、有名な色街がある地区だ。 「そこにはいろんな伝説がありましてね。隠していても只者じゃないからプロのお姉さんたちにはわかるそうで、とにかく若いジェダイはもてる。金はないが、知性も教養もある。交渉事が多いから口もうまい、会話のテクニックもばつぐん。イケ面の上、鍛えた肉体だから脱いでもすごい!相手をしたお姉さん方が口を揃えるのはスタミナだそうですよ!そのすごい事――」 爆笑と拍手で、トークは終了した。 「いくぞ」 オビ=ワンはざわめきと興奮が残る室内の席を立ち、さっさと出口にむかう。アナキンも後に続いた。劇場を出、二人はフードをかぶる。 「なかなかおもしろかったな」 「そんなことより、どう思います?」 「ジェダイのことがどこかから漏れているか、か?」 「まあ、下らない噂ばかりですが、やけに詳しいところも若干ありましたね」 「ふむ……」 オビ=ワンは歩き出した。 「寄り道していくか」 オビ=ワンが向ったのは、色街だった。 「ちょっとマスター、聞き込みでもするんですか?」 さすがにアナキンも、オビ=ワンが考え無しにここに来るとは思わない。 「いや、一杯飲んでいこう」 外に出て秋波を送る商売女や、呼び込みの客引をあしらいながら、――ひと口にあしらうと言っても、実はかなり強引でしつこく、この時間では通り中それが続くので、男二人連れにはけっこう大変だった。が、オビ=ワンはテンプルの回廊で知合いにでも挨拶するように笑みを浮かべ、すいすいと通り過ぎてゆく。オビ=ワンがだめなら後ろの若い男、と引きとめようとする者もいたが、アナキンは笑みよりも、剣呑な眼つきで黙らせ、師のあとを追った。 オビ=ワンが入ったのは、通りを過ぎた奥にあるこじんまりしたバーだった。 「年季がはいってそうですね」 「ああ、私も久しぶりだ」 クラシックな造りの薄暗い室内に入り、カウンターに腰を降ろすと、エイリアンのバーテンが注文を聞く。 「マダム・ジャニスは元気かな?」 飲物を受け取りながら、オビ=ワンが愛想よくチップをすべらせた。 表情の伺えないバーテンダーは二人の顔を眺め、振り向いて何か低い音をたてた。すると、奥の闇から浮かび上がるように、年齢不詳の小柄な女性が姿を現した。 外見はヒューマノイド似だが、長寿種のエイリアンだ、と小声でオビ=ワンが弟子に告げる。 「ほう、お若いジェダイなど久方ぶりだね」 「ごきげんようマダム、お変わりなくてなにより」 「近頃は聖堂の客もとんとお見限りと女達が言っていたが、お前さん達も遊びにきたんじゃなさそうだ」 「近くまできたんで懐かしくなってね。評判のエッグのショーを見にきたんだ」 オビ=ワンはホロプロジェクターを出し、芸人の姿を浮かび上がらせた。 「これに見覚えないかな?」 「ふうん、ノックだね。芸人をやってるのかい?」 「有名人のゴシップを売り物にする芸人だ」 「昔聞いた噂だろう。あることないこと」 「話がうまくて、けっこう楽しめた。エッグはジェダイにでも知り合いがいるのかな?」 「あるわけないさ。皆受け売り」 「この店で聞いた女達の話を仕入れたってことか」 「ここいらの女のいうことなんか、自分に都合のいい自慢に決ってるさね」 ぴしゃりと言い捨て、マダムはオビ=ワンの隣で黙って話をきいているアナキンを探るように見た。 「女達が歓迎してくれそうなタイプだね。口をきいてやろうか?」 アナキンがあわてて被りを振る。 「最近のジェダイは皆むずかしい顔してお役目に忙しそうだけど、昔、あたしが置屋をやてたころはもっと余裕があったね。遊び上手な客もいたし、若くっていきのいいナイトも良く来てくれたもんだ」 え、と身を乗り出す弟子のみぞおちにオビ=ワンの肘鉄が正確に決る。 苦痛に、一瞬息を止め身をよじるアナキンに気づかず、マダムはしみじみと言う。 「身体はでかいが何とも愛嬌があって、女の子達は争って相手をしたがった。あたしももう少し若ければねぇ。一人前のジェダイになってからは、ここにときどき飲みにきてくれてたが、何年も前に死んだそうだ」 「その話、ノックにしたんですね」 「ああ、したかもしれないね。もうあんなジェダイはいなくなったから――」 勘定を済ませ、二人はバーを出、元きた道をたどる。 「エッグはかまわないでいいだろう」 「ネタ元に、やばい繋がりはなさそうですね」 「噂をおもしろおかしくするのはエッグの芸だろう。針小棒大というか」 「なんですかそれ?」 「大げさに誇張する意味だが、過ぎると嘘くさくなる」 「はあ、そうですね」 「お前、ジェダイのナニがミネラルボトルのサイズ並だなんて信じられるか?」 「ヒューマノイドでは無理でしょう。いくら体格が良くたって、あ、え、まさか……?」 オビ=ワンはじろりと弟子を見た。 「自分と比べてみたらわかるだろう。寝起きかデートの時でも」 「オビ=ワンッ!!」 「さて戻るぞ、私はここで新たな伝説を提供する気はないからな」 夜も更け、先ほどより人通りは減ったというものの、色街はまだ賑わっている。人込みを難なくかき分けて歩いていくオビ=ワンの背をみながら、アナキンは、何かひっかかるものを感じる。 あの時のナニのサイズなんて、さすがに身近のジェダイ達とも比較した事はない。 ――パドメは、いやこんな事持ち出しただけでも後が怖い。今だに謎が多い亡きクワイ=ガンとオビ=ワンの師弟時代、純粋のテンプル育ちじゃない自分は一生理解できないかもしれない。 アナキン・スカイウォーカーは呟いた。伝説は伝説のまま――。 End あなたは信じますか?(って何を……) 真実を知ってるのはオビ=ワンのみ(笑) |
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