Flue and Sweets ― 風邪引きさんに甘いもの ― 
「どうだ、オビ=ワン」
「マスター……」
心配そうに声を掛けられ、応えたオビ=ワンの声はかすれていたが、身体を起こそうとする。
「ああ、起きなくていい」
ベッドに寄ったクワイ=ガンは熱で紅潮した弟子の顔をみて眉をひそめた。
「熱が下がらないんだな」
顔を寄せ、おおきな手でそっとオビ=ワンの頬をなでる。
「苦しいか?」
「大丈夫です。――それより、あまり近づくと移ります」
「かまわんさ」

 ある惑星での任務を終え、出立直前、猛威をふるっていたインフルエンザにオビ=ワンが罹ってしまった。高熱に体力も奪われ、やむなくホテルで回復を待つ事にした。

「もう何日も遅れてるのに、マスターまで罹ったら還りがもっと遅くなります」
「その時は仕方ない」
「私のせいで、すみません……」
「人のことはいいから自分の心配をすることだ」
掛け布団を引き上げ、肩口までおおってやりながら、やさしく言う。
「はい」
オビ=ワンは熱で潤んだ瞳で肯いた。

 ようやく寝入ったオビ=ワンを見て、傍らの椅子にかけ、データバッドを取り出す。その時、通信機が鳴った。小さく舌打ちし、取り上げたクワイ=ガンの耳に聞きなれた声が飛び込んできた。
「クワイ=ガンか、私だ」
「メイス!?何処にいるんだ?」
「下のロビーだ」

 クワイ=ガンがホテルのロビーに下りると、まぎれもなくジェダイ評議員のメイス・ウィンドゥがいた。
「ここで何をしている?」
「ご挨拶だな。この惑星の近くまで来たから寄ってみたんだ。オビ=ワンはどうだ?」
「熱が下がらん。疑うなら会っていくか。移るかもしれんが」
「悪性と聞いたので空港でワクチンを接種してきた。治るまでどれくらい掛りそうだ?」
「オビ=ワンなら一般人より早いかもしれんが、あと3、4日か」
「お前はまだわからんのだな?」
クワイ=ガンは肯いた。
「今さらワクチンを接種しても意味なさそうだし、ひいたら治ったオビ=ワンが世話してくれるだろう」
「還りがさらに遅れるな」
「ジェダイとて生身だ仕方なかろう」
「――提案だが、いっそ、船で治したらどうだ?」
「どういうことだ?」


 メイス・ウィンドゥの提案はこうだった。この惑星で回復を待つより、コルサントに向う宇宙船の移動時間をそれにあてるというものだ。ハイパースペースを使用しなければ10日程。クワイ=ガンが発病しても治る時間は充分ある。

「金持ちが余裕のある観光旅行に使うような船を提供しよう。広くて快適な内装、専門のドロイド装備、希望があればオプションも可能だ」
悪くない話だった。弟子の意向を聞いてもいいが、きっとマスターのいいように、と言うだろう。

「――見返りはなんだ?」
クワイ=ガンの問いを聞いたとたん、メイスの額に皺が寄った。
「人の好意を素直にとれんのか、と言いたいところだが――」
「なんだ?」
「その宇宙船を所有者の議員に戻して欲しい。降りた後に船内消毒してな。私はあといくつかの惑星を周らねばならんが、あの船のインテリアは趣味にあわん」
――結局、クワイ=ガンは承知した。

 話がまとまったメイスは、オビ=ワンを見舞い、快適な宇宙船でゆっくり治すようと親切に言ってかえった。

 翌日、オビ=ワンの熱が少し下がったので、師弟はメイスの用意した件の宇宙船に乗り込み、コルサントに向けて出立した。

 宇宙船の内装イメージはゴージャス&ロマンチックと所有者の女性議員は言ったそうだが、フリルとレースと花模様とピンクで統一されていた。船内はキングサイズのベッドのあるローズピンクで統一された寝室と、ツインベッドのあるラベンダーカラーで統一された寝室があった。

「――お前は広いベッドのほうがいいだろう」
「目を開けたらどれもピンク色、ていうのは画期的ですね」
だるそうに呼吸しながらもオビ=ワンの口調は楽しそうだ。
「マスターはどうぞあちらの部屋でゆっくりなさってください」
今さらとクワイ=ガンは思うが、病気を移したくないと思うオビ=ワンの気づかいを受け入れ、別々の部屋を使うことになった。

 走行は順調で、用事はドロイドにまかせれば、時間はたっぷりあった。食事は冷凍の機内食だが、所有者の好みで贅沢なものがたっぷりと用意されていた。
オビ=ワンは回復に向かい、食事はベッドから出てリビングでとれるようになっていた。

「だいぶ良くなりました。操縦はもう大丈夫です」
「少し良くなると動きたくなるのは良くない癖だ。パダワン」
「マスター……」
オビ=ワンは不服そうな目でクワイ=ガンを見る。
「我慢しておとなしくするのも治療のうちだ」
「――じゃあ、ちょっとだけ好きな物を料理してもいいですか?」
「ドロイドが用意してくれるだろ」
「少しあっさりしたのが食べたくなって」
確かに、こってりめの料理が多かった。
「少しだけだぞ」

 銀河標準時間の翌朝、オビ=ワンは気持ちよく目覚めた。眼に映るのはあい変わらずピンク色の室内だが、身体のだるさが抜け、軽くなったような気がした。
手早くシャワーを浴び、禁止されている操縦室を横目でみながら、キッチンスペースに向う。ドロイドをオフにして、まず、食糧庫を入念にチェックし、食事の仕度を始めた。

 最後の仕上げを残して、クワイ=ガンの船室に向かう。
「おはようございます、マスター」
寝ているベッドに寄って、再び声をかけようとしたオビ=ワンの足が止まる。
クワイ=ガンの様子がおかしい。
「……あぁ、オビ=ワン」
しわがれた声で、気だるそうに額の髪をかき上げる。
「罹ってしまったんですね、マスター」
クワイ=ガンは力なく肯いた。

 インフルエンザはオビ=ワンとほぼ同じ経過をたどった。
高熱、全身疲労、喉の痛み。ほとんど治った弟子が今度は看護する立場に変わる。が、生来のかいがいしさは師とだいぶ様子が違う。
水分補給、薬、食事、着替え、もちろん食事はドロイドまかせにせずオビ=ワンが作る。
高熱でもうろうとしながら、時に目を醒ますと、側にはいつも弟子がおり、やさしい笑みで用事はないかと聞いてくるのだった。オビ=ワンはクワイ=ガンの発病依頼、同じ部屋の隣りのベッドで寝ていた。

結局、10日程の移動の間、師弟はほとんどインフルエンザの療養回復に努めることになった。

「――あいつの言うとおりになったな」
カップを運んできた弟子が師の呟きを聞きつけ、小さく笑う。
クワイ=ガンは漸くベッドから起きてリビングで食事できるようになっていた。

「治るまでホテルにこもるよりは、早くテンプルに戻れるし、環境も良かったですからね」
「――この環境がか?」
クワイ=ガンは皮肉っぽく室内を見渡す。
「マスター・ウィンドゥは耐えられなかったようですが、私達は半分は寝てたようなもんですから。お茶をどうぞ、マスター」
礼を言ってひと口飲んだクワイ=ガンは微かに眉をひそめた。
「私の舌のせいかな。少し濃いようだ」
「濃いめにしたんです。あの、口直しはいかがですか」
「――おすすめがあるのなら、いただこう」

 オビ=ワンは嬉しそうに取って返し、もって来た皿をテーブルに置いた。
「チョコレートトリュフか」
口に入れるクワイ=ガンの表情をオビ=ワンが心配そうに伺う。

「美味い」
「甘さをおさえて、形も小さめにしました」
にっこりとオビ=ワンは微笑む。
「手作りか?」
「ええ、今日は何日かご存知ですか?マスター」
思いがけない問いに、クワイ=ガンはクロノメーターに眼をやる。
「2月14日か?」
「ささやかですが、私から愛をこめて」
「ありがとう、オビ=ワン」
クワイ=ガンは弟子の肩を引き寄せ、やさしく額に口づけた。

「しかし、よく材料が揃っていたな」
「――実は、マスター・ウィンドゥが来てくれた時、食材に入れるよう頼んだんです」
クワイ=ガンの目が楽しそうに輝く。
「バレンタイン用とは思いもしなかっただろうな」
オビ=ワンのブレイドを手にとり、指で弄ぶ。
「だが、内緒にしておこう」
恋人に啄ばむような口づけをひとつ落す。
「口封じだ」



End

 私の頭の中では、この師弟いつもこんなことしていそうで、ごくありふれた光景です。今さら書くまでもないじゃんかと思うほど(笑) 一家に一人オビがいたら絶対いいだろうな。
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