The Mission | ※AU設定(マスター存命&オビはナイト昇進) |
その館は街外れの丘の麓にあった。周りに人家はほとんどなく、うっそうとした木々に囲まれ、目立たぬように建っていたがかなり年季の入った堅固な造りとわかる。 オビ=ワンは宇宙港に着くや、エアスピーダーを借りてクワイ=ガンから知らされた地点に直行した。乗物を建物近くの目に付かない場所に止め、かたく閉ざされた扉をフォースで静かに開ける。生き物の気配はない。ただ一人、オビ=ワンが姿を見ずともわかる元の師のフォースを除いては。 人の住む様子のない荒れた屋内を通り、2階の奥へ向かう。重々しい両開きの扉の前に立つと、音もなく開いた。 この部屋は主人が人を迎える場所らしく、一方にテーブルといくつかの椅子、反対側に天蓋から吊られた濃い色の幕に囲まれた堂々たる椅子があり、高貴な人物の謁見室のような趣があった。実際、古風な造りの肘掛け椅子に暗い色の長衣をまとってかけているクワイ=ガンの姿はジェダイのそれではなかった。 黒に染められた長髪は結わずに長く垂らされていた。やや高めに合わせられた襟や重ねられたアンダーウェアも濃い色、そしてジェダイのローブの代わりにまとっている床に裾を引くたっぷりとした長衣は深い闇色をしていた。よくみれば前の折り返しや袖の縁取りは刺繍や手のこんだ装飾がなされた豪奢なものとわかる。胸元で衣を止めた金具は本物の宝石が使われていた。 そして、クワイ=ガン自身の雰囲気そのものさえいつもと異なることにオビ=ワンは気付いた。 「マスター」 久しぶりの再開だが、オビ=ワンは側に駆け寄る事もせず、低い声で呼びかける。 「――少し早くついてしまったようですね」 開け放たれた窓から外を見ていたクワイ=ガンは顔をオビ=ワンに向け、鷹揚にうなずいた。 「お前は予想より早く着き、客人は予想より遅れている」 「申し訳ありません。何か私ができることはありますか?それとも――」 「手を出さずにその辺にいればよい。何、たいして待たせることもなかろう」 言葉を切ったクワイ=ガンは視線を窓に移した。と、かすかな物音がオビ=ワンの耳にも届いたその瞬間、クワイ=ガンの目が鋭く光り、長衣の裾を翻し身体が舞った。オビ=ワンの身体も宙に飛んだ。 二人のライトセーバーは既に起動しており、飛んできた弾は光刃にはじかれ床に落ちた。 それを見返る間もなく、空を切って鋭い電子鞭が襲った。目にも止まらぬ速さで繰り出される伸縮自在の鞭はクワイ=ガンの手元を狙っている。手を防ぎながらかわすクワイ=ガンのライトセーバーに鞭が当たり、火花が散った。 オビ=ワンが見た鞭の持ち主は暗灰色の装甲服に身を固め、ヘルメットとゴーグルで顔を隠したバウンティハンターの姿をしていた。右手で鞭を操りながら、中々ジェダイの剣を捉えられないハンターは腰のホルターから銃を取り、わずかな隙をついて発砲した。 オビ=ワンのライトセーバーがクワイ=ガンとの間に割って入り、素早く弾丸を弾く。ハンターの舌打ちがし、後ずさって体勢を立て直そうとする。 その時、ライトセーバーを持ち替えたクワイ=ガンのもう片方の手から、何かが宙を飛んでハンターの咽元に吸い込まれるように命中した。 一瞬何がおきたかわからない様子で立ちつくしたハンターは、次の瞬間呻き声を上げ、床にころげてのた打ち回り始めた。手足がけいれんを始め、次第に動きが鈍くなっていきいくばくもせず動かなくなった。 オビ=ワンは近寄って膝を折った。 「コントロールパネルの生存ランプが消えました」 覗き込んでハンターの首際にささった小さな矢状の物に目を止め眉を寄せた。 「これは?」 「猛毒だ。触れてはいけない」 クワイ=ガンが示した床には先ほどハンターが投げ、ライトーセーバーでおとした同じ矢弾が落ちていた。 「フォースで引き寄せて投げ返したんですか。手に傷は!?」 身体を起こし、息せき切ってたずねる元弟子にジェダイマスターはゆっくりと黒い手袋に覆われた両手を差し出した。 「今回は少し道具立てに凝ったのでな。それが幸いしたらしい」 惑星警察に連絡したクワイ=ガンは懐かしげなまなざしでオビ=ワンを振り返った。 「任務完了だ。待たせたなナイト・ケノービ」 「どういたしまして、マスター・ジン。お迎えにあがりました」 額に落ちかかる金褐色の髪をかき上げながら、オビ=ワンも笑みをうかべた。 「それにしてもごたいそうな扮装ですね。ひょっとして悪役だったんですか?」 クワイ=ガンの片眉が可笑しそうに上がる。 「もちろん、闇の軍団の真の首領、という役柄だ。この惑星を仕切っていた組織を壊滅させるため目には目を、だ」 「あのバウンティハンターは敵方?」 「向うに雇われていたが、買収して寝返らせた。組織の壊滅後私の正体を知って仕返しにきたわけだ」 「敵を欺くには、ですか。見事な悪役ぶりで」 クワイ=ガンは薄く笑って、オビ=ワンの肩に手をかけた。 「さて行くか。この衣装を返さねばならん」 「卿、ゼカリア卿!」 開かれた扉から若い女性が足早に入ってきた。長い黒髪の巻き毛に大きな緑の瞳、身体にぴったりした白いパンツスーツを着ている。 と、その後から薄灰色の髪の痩せた青年が追うように入ってきた。 「待てよ、ケイト」 耳を貸さずに真直ぐにクワイ=ガンに近寄った娘は、さすがにすぐ側のオビ=ワンに気付いて足を止めた。 「ケイトか。レオも」 「無事だったんですね」 クワイ=ガンが顔を向けた先に仰向けに倒れたバウンティハンターを見てケイトの表情がこわばる。 追いついたレオが声をあげた。 「やっつけたんですか。すごいな!」 「警察には連絡済だ」 それを聞いたケイトとレオが思わず顔を見合わせた。 「――じゃあ、やっぱり」 「悪い人じゃなかったんだ。ゼカリア卿」 クワイ=ガンは苦笑しながら僅かに肯いた。 「私の役目は済んだ。こちらはオビ=ワン、私を迎えにきた」 二人は品のいい笑みを浮かべる見慣れない服装の青年を不思議そうに見つめた。 黒衣をまとった厳しい雰囲気の長身のクワイ=ガンと並ぶ、白っぽい装束に濃い金髪と明るい青い瞳の青年との取り合わせが、どうにも似合わなさそうに思える。 「迎えって、行ってしまうんですか?」 「連れてってくれるでしょ、卿」 「何言い出すんだ、ケイト!」 「前、確かに言った」 突然の若い娘の発言に、己の背後のオビ=ワンが微かなため息をもらす気配をクワイ=ガンは感じた。 「組織はもう無くなった。お前達も安全だ」 「だって、確かに言った」 「ケイト、僕たちもう危険はないんだよ」 「口はさまないで、レオ」 「命を狙われていた時、安全な場所に保護しようとは言ったが、全て済んだ」 「でも……」 オビ=ワン、とクワイ=ガンは背後の元弟子を脇に呼び寄せた。 片手を青年の腰に回し、ゆっくりと引き寄せた。訝しげに見守る二人にかまわず引き寄せたオビ=ワンをぴたりと身体を密着させ、高い鼻梁で青年の耳にかかる金色の毛を払いながら低くささやく。 「いつ出発できる?」 「すぐにでも」 「宇宙船は」 オビ=ワンが少し首を傾け、誘うような眼差しでチラリと見上げ、甘やかな声で返した。 「二人用の、高速船です、マスター」 「……結構」 クワイ=ガンはオビ=ワンの耳朶を軽く噛み、ついでこめかみに唇を這わせた。 二人のただならぬ様子を、若い男女はただ目を丸くして見つめるばかりだった。 「では失礼する。二人とも元気で」 オビ=ワンを離し、クワイ=ガンは長い黒衣を引いて優雅に軽く一礼した。 我に返ったレオがあわてて首を縦に振り、ケイトは未だ唖然とクワイ=ガンを見上げている。オビ=ワンは誰もが認める感じのいい笑みを浮かべて会釈した後、背を翻してクワイ=ガンの後に続いた。 「――相変らずですね」 「何が?」 素知らぬ風にクワイ=ガンが応える。 「又拾いものを……」 オビ=ワンはエアスピーダ―を発進させた。 「まあ、いいです」 かつてさんざん耳にした小言をオビ=ワンがひっこめたせいか、クワイ=ガンが機嫌よく言った。 「先に衣装屋に寄ってくれるか」 「通信中のホロを見た時は何を始めたのかと思いましたよ」 「任務の為の扮装はお前だって珍しくもなかろう」 「扮装はともかく、本当に悪役を演じていたとカウンシルが聞いたら――」 「あいつは目を向いて怒りそうだな」 クワイ=ガンはいかにも楽しそうに応える。 「まったくわざとやってるわけじゃないでしょうね。もう私がフォローするわけにもいかないんですから、マスター」 「そんなことは、わかっている」 「でしたら、ほどほどに」 「ああ、有能で忙しい若いジェダイナイトの手を煩わせてすまなかった」 「マスター」 「なりたてのパダワンではあるまいし、一人でテンプルに戻れる」 「あなたの宇宙船は到着時に爆破されたし、もともとカウンシルも単独は危険すぎると判断した任務です」 「私のやり方で進めたんだ。とにかく遂行したんだから黙ってもらおう」 いらだたしそうに語調を強めて言い切った元師の言葉に、オビ=ワンは口をつぐみ、ややあって頭をたれた。 「……申し訳ありません。マスター・ジン。若輩の私が出すぎたことを申しました」 クワイ=ガンが肯いた。 オビ=ワンは前を向き、黙ったまま操縦を続けた。 しばらく無言の時がすぎ、そろそろ街中にさしかかったころ、クワイ=ガンが低く呟いた。 「――ちょうど、いなかったんでな」 「え?」 「お前は任務中だったし、他に組めそうなジェダイが見当たらなかった」 「――それで、単独に」 「誰にでも隣りをまかせられるわけではない」 「マスター……」 オビ=ワンの頬に色がさし、隣りの席のクワイ=ガンを振り仰ぐように見る。 「店は中央公園の前の通りにある。もう間もなくだ」 「イエス、マスター」 声を弾ませ、元の弟子は答えた。 二人を乗せた宇宙船はコルサントに向っていた。 通信モニターに姿を見せたメイス・ウィンドゥは、始めクワイ=ガンの元気な様子を見て安堵の色を浮かべたが、詳しい報告は後で聞くと言った後、大きな目でクワイ=ガンをじろりと眺め、髪も元に戻しておけとそっけなく告げた。 通信を終え、二人は操縦席から立ち上がった。 「なにがおかしい?」 含み笑いをするオビ=ワンにクワイ=ガンが問う。 「いつもあなたはあの人に一言多いんですよ」 「この歳でも髪の量が多いから手間だと言ったことか?」 「それだけでも充分なのに、あなたって人は」 クワイ=ガンはにやりとした。 「最後に、誰かと違ってな、と付け加えたことか?」 「ああ、マスター・ウィンドゥのあの顔!」 オビ=ワンはこらえきれず笑い出し、シャワーブースへ向うクワイ=ガンの後を追いながら声を掛けた。 「失礼、あ、髪を洗うなら手伝わせてください」 ほどなくして、シャワーを終えたクワイ=ガンは船室のベッドに腰掛け、オビ=ワンの手に洗い髪をまかせていた。二人ともバスローブ姿だった。 いかにも気持ち良さそうにくつろぐ元師の長い髪を持ち上げ、元の弟子は丁寧にブラシをかける。 「だいぶ傷んでますね。でもあと何回かトリートメントすれば戻ります」 「トリートメント?」 「入り用かと思いまして、良質の物を用意してきました。ジェダイの嗜みですから、マスター」 軽く片眉をあげたクワイ=ガンにかまわず、オビ=ワンはすまして続ける。 「黒髪もお似合いでした、ずいぶん若返って。というか年齢不詳でしたよ」 ふいに、オビ=ワンは一房の髪をやや力を込めて引っ張った。 「!?……」 「ケイトはあなたが幾つだと思ったんでしょうね?」 「何を又」 「私が染めたならそれらしく自然にしたんですが、実年齢相当に」 「どうでもいいだろう」 「――そうですね。さて、このくらいでいいでしょう」 クワイ=ガンの白髪まじりの豊かな髪は本来の亜麻色を取りもどし、今は艶をおびて胸のあたりまでゆるく波打っている。 オビ=ワンはクワイ=ガンの正面に向きを変え、満足そうな笑顔を浮かべた。 「おきたら、髪を結わせていただけますか、マスター」 「ああ。いや、そうだな……」 クワイ=ガンは枕を背にゆっくり身体を傾けながら片手をオビ=ワンのうなじに掛けた。 そのまま、指先で青年のはえぎわの金褐色の髪をまさぐる。 「やっと、ブレイドのないお前に慣れた」 「マスター……」 「パダワンの時は引く度に私一人のものだと思えたものだが」 オビ=ワンは自ら首を傾け、そっとクワイ=ガンに口づけた。 顔を離し、青緑の瞳を輝かせてささやく。 「外見が変わっても私は前のままです」 クワイ=ガンの深い青色の瞳が細められ、口元がほころぶ。 「結ってもらうのはいいんだが、ベッドにいるほうが長くては必要ないかもしれんぞ」 その手はオビ=ワンのバスローブの紐に伸びている。 一瞬、言葉に詰まったオビ=ワンは、自分も肩からローブをすべらせながら応えた。 「では、テンプルに着く前にでも――」 オビ=ワンが軽く手を振ると、あたりは闇に沈んだ。 End 長い黒衣をまとったダークな雰囲気のマスターを思い浮かべながらかきました。オビはEP2.3どっちでも可(笑) あの、はらりと落ちる前髪がたまらなくキュート、オビはいくつになってもラブリィv |
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