頂きもの 柊みそか様4万打到達記念 「Bentornato!」― おかえりなさい!(伊語) ― |
データパッドに打ち込んでいた手を止め、机の上の資料に目をやる。 膨大な紙のメディアが机を埋め尽くす中、捲ったり引っくり返したりしてみるが、目的のものは見つからず。 キョロキョロと辺りを見回し、無造作に重ねた本や、机から溢れて床に積まれた資料や本の山を漁るが、やはり見つからず。 クワイ=ガンは溜息ひとつ吐き出すと立ち上がり、自室のドアを開けながら声をかけた。 「パダワン、赤いカバーの本を」 知らないか、と続く言葉を途中で止めると、先程よりも大きな溜息をつきながら、戸口にもたれかかった。 ガランとしたリビングには人気はなく。 閑散とした光景にまたひとつ溜息をこぼすと、キッチンに向う。 気分転換に、茶でも淹れて休憩することにした。 キッチンにも人の気配はなく、食器棚からポットを取り出すと、適当に茶葉をいれ、湯を注ぐ。 立ち上る香気。 芳ばしい、馴染みの香りに心を癒されながらカップに茶を移し変え、リビングのソファへ。 どさり、と腰を下ろし、茶を一口。 「……不味い」 眉を顰めると、カップをテーブルに置いた。 もう飲む気もしない。 口内に残る強い苦味に辟易しながら、溜息をついた。 パダワンが居ないと、茶のひとつもまともに飲めないとは…。 彼の弟子、オビ=ワン・ケノービは今、コルサントの遥か上空、宇宙空間にいる。 まだ起きるには早すぎる時間にジェダイ聖堂に飛び込んできた通信がそもそもの発端であった。 通信先は、コルサント宇宙港。 寝ているところを起こされてややご機嫌斜めな褐色のジェダイマスターは、通信内容を聞くと、クワイ=ガンの通信機をけたたましく鳴らし続けた。 「メイス、今何時だと」 『4時だ、クワイ=ガン。それよりもこれを見てくれ』 たった今起こされましたと言わんばかりの乱れ髪のまま、憮然とした顔で苦情を言おうとしたクワイ=ガンの先手を封じたことで若干の憂さ晴らしをしたミスター・カウンシルは、宇宙港から送られてきたホロ画像をクワイ=ガンに送りつけた。 朝方の冷えた空気に身を震わせながら歩み寄ってきたオビ=ワンがホロ画像を覗き込む。 「これは…なかなかにレトロなエンジンですね」 「レトロというよりは、これで飛んでいられるのが不思議だな。それで、これがなんだというんだメイス」 クワイ=ガンが話を振ると、メイスは小さく頷いて先を進める前に、オビ=ワンにむかって微笑。 『おはよう、オビ=ワン』 「おはようございます、マスター・ウィンドゥ」 『さて、そのエンジンなのだが、修理することは可能か否か?』 謎掛けのような質問だが、答えないわけにはいかない。 が、ここまで旧式なものを修理したのは、いつの話だったか…。 腕を組んで考え込む師の横で、オビ=ワンが口を開いた。 「修理箇所を見ない事にははっきりとは言いかねますが、おそらく可能です」 「オビ=ワン?」 オビ=ワンは、師を見上げて言葉を続けた。 「マスター、前回の任務先で僕が修理した船に積んであったエンジンと同系のものだと思います。それなら、内部構造もそう変らないはずです」 クワイ=ガンは記憶を探る。 確かに、前回の任務でちょろまかし、否、事後承諾で拝借した船に搭載してあったポンコツエンジンを見事に直して見せたオビ=ワンだが…。 ひとまず、その問題を脇において、クワイ=ガンは再びメイスに向き合った。 「メイス、詳しい話を」 『ああ。先ほど宇宙港から連絡が入ってな。なんでも宇宙港から出て暫くいった所で、このエンジンを積んだ船が立ち往生しているらしい』 「…退かせられないのか?」 『それが、乗っているのが「某元老院議員」でな』 某、を一際強調する、その口調。 『船に傷ひとつ付こうものなら首を飛ばす、と喚き散らしているらしい』 「牽引ビームは?」 『宇宙港ではカバー出来ん距離な上に、万が一届いたとしても、それも却下されたそうだ。ただし、エンジンを直すことが出来る腕を持つものがいるなら、直させてやってもいい、と』 呆れた言い様に、クワイ=ガンが鼻で笑う。 『それで、送ってきたエンジンのホロがコレだ。あまりの旧式に、宇宙港の技術スタッフもお手上げらしい』 「…ドロイドは?」 『ドロイドを船に乗せるのはお嫌だそうだ』 肩を竦める友の姿に、クワイ=ガンは呼びかけた。 「なあ、メイス」 『なんだ』 「2・3日放っておいたらどうだ?」 『ああ、そう言いたい所だが…議長からのお達しが来ては仕方ない』 これだから、政治家は。 クワイ=ガンは心中で悪態をついた。 師の背後から覗いていたオビ=ワンが、メイスには見えない角度でクワイ=ガンの背をそっと撫ぜる。 『そういうわけで、クワイ=ガン。正式な任務として赴いて欲しいのだが』 「他は居ないのか?」 『生憎、直せるような腕を持つジェダイがお前達しか思いつかなくてな』 褒め言葉なのだろうが、どうにも素直に受け入れがたい。 「何時に行けばいいんだ?今すぐか?」 『今すぐにでも。ところで、クワイ=ガン。申し訳無いが行くのはオビ=ワンだけだ』 クワイ=ガンの片眉が跳ね上がる。 「何故だ」 『これも先方様のお達しだ。手伝いがいるなら船のクルーを使えばいい、だから技術者は一人でいいと』 流石に、メイスの顔にも申し訳無さが現れてくる。 クワイ=ガンが断ってしまうよりも早く、オビ=ワンはメイスに告げた。 「わかりました、マスター・ウィンドゥ。準備出来次第宇宙港に向います。船に向うまでの足として、スターシップかそれに順ずるものを宇宙港側で用意して貰えるでしょうか?」 『了解した、…念のため、複座機で用意させよう。宇宙港には連絡しておく。詳細は追って連絡する。すまない、オビ=ワン』 「いえ。では、すぐに向います」 淡々と会話を進めると、通信を切る。 傍らの師を仰ぎ見ると、クワイ=ガンは憮然とした顔で弟子を見つめていた。 「申し訳ありません、マスター。勝手なことを」 深々と頭を下げるオビ=ワンの心がわからないでもなく、クワイ=ガンは苦笑した。 彼のパダワンは、まわりの目を気にしすぎるのだ。 彼の優秀な弟子は、師の評判に傷がつくのを酷く嫌がる。 クワイ=ガンとしては、自分自身の評価なぞ、昔はともかく今現在は然程気がかりなことではない。 寧ろ、彼の弟子が己の為に無理をするのではないか、傷を負ってしまうのではないか、ということの方が何十倍も重要だ。 メイスが似つかわない褒め言葉なぞいうから、オビ=ワンは断るという選択肢を捨ててしまったのだ。 余計な言葉を、とクワイ=ガンは小さく悪態をついた。 師の無言をどうとったのか、オビ=ワンは頭を上げると、言葉を続けた。 「無理はしません、直せなさそうだったら丁寧に陳謝して他の人を派遣して貰います。それに、マスター・ウィンドゥが複座機を用意してくださるそうですから、一人じゃありませんし。だから、その…」 一旦言葉を切ると、オビ=ワンはおずおずと続けた。 「怒ってらっしゃいます?」 無意識に傾げられた首と、伺うように見上げてくる瞳。 そんな仕草は彼の幼い頃を連想させ、思わずこみ上げる笑いをクワイ=ガンは噛み殺した。 「いいや、怒ってないとも。まあ、怒るならメイスに、だな。早く支度しなさい、オビ=ワン。私は、そうだな…溜まっていたレポートでもこなしておくか」 「また溜め込んでらっしゃるんですか?」 「溜めてるんじゃない、メイスが受け取らないだけだ」 「成る程。では、出来るだけ早く帰ってきてお手伝いしますね」 苦笑するパダワンに、クワイ=ガンは頷いた。 「ああ、待ってる」 オビ=ワンが出かけて既に一日と半。 窓の外は再び薄闇に染まり始めていた。 カップをさらに遠くに押しやると、クワイ=ガンは行儀悪くソファの上に寝転がる。 そして目を閉じた。 静寂が、彼を包む。 そういえば。 クワイ=ガンはふと思った。 こんなに静かなことは珍しいのではないだろうか。 普段ならこうやって横になっていても、何らかの音が聞こえてくる。 オビ=ワンの静かな足音、課題をこなすためデータパッドと向かい合っている時のキーパッドの音、キッチンから聞こえてくる心地よい音と食欲を刺激する香り。 なによりも、オビ=ワンの、声。 オビ=ワンが講義で部屋に居ない時でも、残っている彼の気配を感じられる。 そうか、オビ=ワンがこんなに長い間居ないのは初めてだ。 「ああ、そうか、なるほど…」 そんなにあの子に依存しているとは。 今となっては、オビ=ワンを弟子にとるまでの一人身生活が嘘のようだ。 たどり着いた結論に苦笑。 突然、静寂を破るように電子音が鳴り響く。 クワイ=ガンは目を開けると、ガバリと飛び起き、懐からコムリンクを取り出した。 『マスター?』 薄暮に染まる室内に響く柔らかい声に、思わず息を飲む。 『あの、マスター?聞こえてらっしゃいます?』 少し困ったような声が再び聞こえ、クワイ=ガンは慌てて返事をした。 「あ、ああ、聞こえてるぞ、オビ=ワン」 『すみません、お取り込み中でしたか?』 「いや、大丈夫だ」 『良かった』 ほ、と安堵するオビ=ワンの顔が目に浮ぶ。 「それで、どうした、パダワン?」 『あ、すみません。今し方無事に任務を終えました。今は宇宙港に戻っている所です。それで、もしマスターがお食事をすませておられなければご一緒に、と思いまして』 「ああ、まだだ。メイスに連絡は済ませたか?」 『ええ、真っ先に。宇宙港のスタッフからも連絡がはいっているはずです』 「そうか。…ところでオビ=ワン、複座機ではなかったか?」 『ええ、ちゃんと聞こえないようにしてますから大丈夫です、マスター』 「まあ、ジェダイの通信を盗み聞きするのは命がけだからな」 『ええ』 コムリンク越しに、クスリ、とオビ=ワンが笑う声が聞こえる。 クワイ=ガンもつられて笑みを浮かべた。 「では、パダワン。宇宙港まで迎えに行こう。外で食事だ」 『イエス、マスター!』 弾む声が、オビ=ワンの喜びを伝えてくる。 きっと、彼は今、満面の笑みを浮かべているはず。 「では、あとでな、オビ=ワン」 『お待ちしています、マスター。では』 「ああ」 微かな電子音と共に、再び室内に静寂が戻る。 クワイ=ガンは立ち上がると、あ、と間抜けな声を出した。 「本の在り処を聞き忘れた…」 が、しまった、と思ったのも一瞬のことで、まあいいか、と戸口でローブを羽織る。 オビ=ワンに直に聞けばいいのだ。 彼の優秀なパダワンは、部屋の散らかりように文句を言いながらも本を見つけ出し、そして小言を言いながらもなんだかんだと片付けてくれるだろう。 マスター、一体なにをどうやればこんなに散らかるんです?出したその手で仕舞えばいいじゃないですか。レポートはどこまで書いたんですか? すっかり御馴染のオビ=ワンのお小言とそれを言う姿を思い浮べ、クワイ=ガンは笑みを浮かべた。 「賑やかになるな」 鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌で、クワイ=ガンは宇宙港へと向った。 クワイ=ガン、惚気る。 いつも二人で一緒もいいけれど、時にはひとりになってみると愛しさが倍増したり。 前に留守番オビ「I'm back ! おかえりなさい」をかいたとき、うろうろそわそわして周りに心配されるオビになってしまい、自分でかいて苦笑。反対の立場だったら、マスターは絶対へたれ&のろけだろうだあ〜と想像していのですが、柊様はまさに想像通り!のマスターを表現してくださいました。や〜、これだからクワオビは止められないんですよv 感謝、感謝でございます。 |
TOPへ |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||