ご 注 意 !!!

 この話はAUどころか、かなりご都合主義の設定、さらにマスターがおもいっきりへたれです。有能で大人のクワイ=ガンのイメージ(!?)をもしお持ちの方は、きっとがっかりされると思うのでおすすめいたしません。
そんなことないわ、情けないマスターもいいじゃないと思ってくださる勇気のある方のみ、のぞいてくださいませ。

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どれどれ、とおもってくださったあなた、とにかくパカップルで甘々で、へたれ夫にしっかりものの妻というクワオビにどっぷり浸かりた〜いというあなたは、「夜のジェダイ」様の砂漠新婚夫婦物語シリーズ、必見でございます。
桜さまの描かれたオビ=ワンの晴れ姿はこちら、サムネイルをクリックしてこの上なく麗しい姿を堪能いただけます♪

                                  ↓本分はもすこし下
























それでは「砂漠新婚夫婦物語〜初夜の後〜編」  どうぞ










Breakfast with you ― 二人で朝食を ―   



 やわらかな朝の光がオフホワイトのリネンにおおわれた広いベッドに射しこむ。
オビ=ワンは身支度をきっちりと整え、つまり、チュニック・ベルト・ブーツ姿。さすがにローブとライトセーバーは身に着けていないがいつものジェダイの装束でベッドの側に立ち、中を覗き込む。ベッドの中には寝具にすっぽりとくるまった大きな塊。わずかに白髪混じりの亜麻色の髪の先が見え、軽く鼾さえかいている。

「朝ですよ」
返事はない。
「起きてください。マスター」
一瞬、もぞもぞっと塊が動いたが、やはり返事はない。

 オビ=ワンの眉間にすっと縦皺がきざまれる。
両手を腰にあて、――いわゆる仁王立ちという格好で、大きく息を吸い込む。
そうして、静かにベッドに身を屈め、僅かにのぞく髪の先から見当をつけた耳とおぼしきあたりに口を寄せ、一声発した。
「ダーリン……」

 その甘い囁き声の効果はてきめん。ぱっと寝具が引き下げられ、寝乱れたというか要はぼさぼさの寝起き髪のクワイ=ガンが顔を現した。気だるそうに額にかかる長髪をかきあげ、ゆっくりと瞼を開く。瞳はいつもは深い蒼い海の色、がどんよりと曇っている。
「もう起きてもいい時間ですよ」
クワイ=ガンは目をこすりながら身体を起こし、物憂げにそうに額を抑えた。上半身には何も身につけていない。
「――少し頭痛がするんだが」
ぼそぼそとこもった低い声で、いかにもすっきりした風情のオビ=ワンに話し掛けた。

「二日酔いですか。だからほどほどにしてくださいとあれほど――」
「昨日は特別だ。断りきれずに飲まされてしまったんだ。お前だってずいぶん飲まされていたはずだぞ」
「私は事前に料理も食べましたから。あなたのようにすきっぱらで酒だけ飲んだら効くに決ってるでしょう」
「――っ、大きな声を出さないでくれ」
クワイ=ガンは顔をしかめて頭を抑えた。
小さく息をもらすとオビ=ワンは軽く手を振った。すると、空中に水を入れたグラスと白い錠剤が表れた。
クワイ=ガンはしかめっつらのまま、薬と水を飲み、大きく息を吐き、再び枕に頭を沈ませようとした瞬間、身体に巻きつけていたリネンが消え失せた。
でかい身体から無理に引き剥がすような無駄なことを、さすがに今のオビ=ワンはやらない。
目に見えない力をもって瞬間移動させたリネンはベッドの脇にきちんと畳まれていた。
「……何も着ていないなら好都合ですね。シャワーを浴びたらいかがですか」
「おい、これはやりすぎだろう!」
「ほーお」
にこやかに笑顔さえ浮かべ、ことさらおだやかな口調でオビ=ワンが言う
「新婚初夜に酔いつぶれ人がそんなこと言っていいんですか?」
「オ、オビ=ワン」
この一見丁寧な物言いが実は、危険の前兆ということをさすがに長年の経験でクワイ=ガンは知っている。
たいていは物分りのいいオビ=ワンだが、ほんとに怒らせたら、――恐かった。
「シャワーを浴びてくる。薬もすぐ効きそうだな」
急いでベッドから抜け出したクワイ=ガンを見て、オビ=ワンはにっこりと笑う。
「シャワーの後、朝ごはんにしましょう」
「あ、ああ。もう薬が効いてきたかな。頭痛も軽くなった」
いくぶんホッとして歩き出そうとしたクワイ=ガンに、くるりと背を向けながらオビ=ワンが言いはなった。
「家事を全部やるから結婚してくれって言ったのはどなたでしたでしょうね」
クワイ=ガンの足が止まった。



 ほどなくして、とにかくシャワーを浴び、濡れた長髪にも櫛を通して整え、さすがにベルトとブーツは帯びないチュニック姿でクワイ=ガンはテーブルに着いた。髭もあたろうかと思ったが、昨日の結婚式の前に注意深く整えたおかげで手入れの必要はなかった。
隠遁生活を送るタトゥイーンで挙げた結婚式は、今ではフォースとなったジェダイが数多く出席して盛大に祝ってくれた。何故か妙に張切って世話をしてくれたのはヨーダとメイス・ウィンドゥ。

 この夫婦、オビ=ワンはまだ生存しており、クワイ=ガンはいわゆる肉体の死を迎えたフォース体だが、修行により、ヨーダ同様オビ=ワンも自由にフォース体になる事が出来た。従って、オビ=ワンが現実のベン・ケノービとしてルークを見守る役目以外の時は、フォース体となって結婚生活をおくればいい。何とも都合のいい事だが、これを考えたのは他ならぬクワイ=ガン。
ナブーで師が亡くなって以来、アナキンの教育や優れたマスターとしてジェダイ騎士団をひっぱり、忙しく銀河中を飛び回っていたオビ=ワンがやっと暇になったのだ。これを見逃してはならない。

 今まで苦労ばかりかけてきた、――たいていは自分が生前した事がもとで、あとは苦労性の弟子の性格――、と思っているクワイ=ガンは、オビ=ワンにむくいたいを口実にプロポーズしたのだが、実はこの機を逃しては、又どんな邪魔が入るかもしれない為必至だった。
「買物も料理も掃除も洗濯も全部やるから結婚してくれ!」
拾い物をしないとか部屋は自分で片付けるとか些細な条件をつけたオビ=ワンだが、美しい湖水色の瞳を潤ませて承諾してくれた。

有頂天になったクワイ=ガンはこの喜びを誰かに分かち合いたい為、本音はおのれの幸運を見せびらかしたい為、ささやかなお披露目をしたいとヨーダとメイスに話を持ちかけた。

――準備に紆余曲折を経ながらも、昨日、おおぜいに祝福され無事に結婚式と披露宴が行われた。オビ=ワンの花嫁姿は予想よりずっと若く美しく、小花を散らした長いレースの衣装が、白い肌と青緑の瞳に良く映え、青空を背景に立つ姿は清楚な装いにもかかわらず輝くばかりに美しかった。

 ヨーダもメイスも長年二人を見知っていたジェダイ達も目を潤ませていた――、のはいい。オビ=ワンが美しいのは当然だ。なんたって私が手塩にかけて教育し、好みに育てあげたのだから。いけないのはその後だ、皆がお祝いだといって、酒瓶片手に新郎新婦に注ぎまくり、ついすすめられるままに飲んでいたら、途中からの意識がすっぽりと抜け落ちていた……。


 いささか緊張した面持ちでリビングに現れたクワイ=ガンを、オビ=ワンは先ほどの事などなかったかのようなすました顔で迎えた。
「おはようございます。気分はいかがですか?」
おだやかな口調だが、クワイ=ガンはまだオビ=ワンの機嫌が戻っていなこいとを察した。
ここはひとつ慎重にいかねば。
「最高の気分だ。おはよう、オビ=ワン」
新妻を抱き寄せ、額にやさしく口づける。たったこれだけのことだが、仮に他人がやろうとすれば実は意外とむずかしい。オビ=ワンの背か肩に片手を伸ばして引き寄せ、引き寄せる手の力も強すぎず弱すぎず、引き寄せ加減も互いの身体に近寄りすぎずかといって離れもせず、同時に少し身を屈め、身長差のあるオビ=ワンの額に、――もし前髪が額に落ちていたら唇ではらい――、じかに額に、強すぎず弱すぎず、長すぎず短すぎず、口づける。
口を離すとき、耳元に「今日もきれいだね」とか、低く囁く。これで完璧。
 時間にすればせいぜい2秒程度だが、すべてを流れるようにこなすのがクワイ=ガンのテクニック!若い頃はこれをすると大抵のマダムやお嬢さんたちをおとせたものだ。

 とまあ、無事に朝の愛情表現は済み、クワイ=ガンは椅子に腰を下ろした。
二人の住いはこじんまりした簡素で機能的な造り。リビング・キッチン・ベッドルーム・バス・クローゼットetc.――インテリアは、二人が以前暮したジェダイテンプルのユニットに模してある。何故、辺境の砂漠惑星でこれが可能かというと、フォースのなせる業だった。
つまりフォースの世界の出来事なので、現実の3D世界とちがいすべては実体のないバーチャルリアリティ。何もかも自分好みにあつらえる事が可能、のなんとも都合のいい話。もちろん、普通の人の目には何も見えない。
――但し、長年修行をつんだフォースの使い手でなくてはできませんので念の為。


 二人用の小ぶりなテーブルの上にはティーポットと2つのカップ。食事の用意はなかった。
「どうぞ」
オビ=ワンがお茶を注いたカップをカチャリとクワイ=ガンの前においた。
「頭がスッキリするカモミールティーです」
――やっぱり、まだ怒っている。まあ、無理もないが。
「……夕べはすまなかった」
「何度そんなことをいわれたことやら」
「昨日は特別だ。せっかく久しぶりに会った奴等がお祝いしてくれたんだ。すすめられたら断れないじゃないか」
「私だって呑まされましたよ。でも限度ってものがあるでしょう」
「お前はうわばみで、胃袋は宇宙空間並だ」
「何ですって?」
「――い、いや、とにかくもう二度としない。悪かった」
大きな身体をかがめ、眉をさげて謝る姿をみてはオビ=ワンはそれ以上いえない。
これが、あの伝説の偉大なジェダイマスターだなんて誰が信じるだろう。
オビ=ワンの表情がふっとなごんだのを見て、クワイ=ガンはもう一押しとさらに詫びを入れた。
「とにかく、途中から記憶がないんだ。メイスがそろそろおひらきと言ったあたりまでは覚えているんだが」
「何ですって?」
「――私は人前で何かまずいことをしたのか?」
「いいえ、大丈夫でしたよ」
「そうか、お前が部屋まで連れてきてくれたのか?」
「あなたは自分の足で歩いてきました」
「じゃあ、服を脱いだのは?」
「それも自分でしました」   
クワイ=ガンは心底安心して息をはいた。
「――習慣で無意識にやったんだな。とにかく、初夜に酔いつぶれて寝てしまったのは本当に悪かった」
オビ=ワンの片眉が上がり、実に複雑な表情を浮かべて目の前のクワイ=ガンを見ていたが、長い溜め息をついた。
「わかりました……」
「許してくれるのか?」
「済んだ事は仕方ないし、本当に反省しているようですから」
「愛している。オビ=ワン」
オビ=ワンの手を取ろうとクワイ=ガンが身を乗り出すと、オビ=ワンはすいとたちあがって身をかわした。
「さ、食事にしましょう」
「いや、食事の支度は私がする!約束だからな」
クワイ=ガンはあわてて声をあげた。


と言ってもクワイ=ガンがキッチンに立つ必要はない。
オビ=ワンはもともと家事が好きで、食事も手作りする。(フォースで用意した)材料を刻んだり、焼いたり、煮込んだりして、味付けや出来上がる過程を楽しむ。おいしそうな匂いがただよってくるのかぎながら、待つのも悪くない、とクワイ=ガンは思う。
 一方クワイ=ガンが用意するときは、作るわけではない。出前やテイクアウトがあるわけではないので、ストレートに出来上がりを目の前に出現させる。まさに魔法使い、いやフォースのなせるわざ!
 但し、クワイ=ガンは趣味人のマスター・ドゥークーに師事したせいで、雰囲気や道具立てに気を使う。いつも同じテーブルセット、インテリアというわけにはいかなかった。
新婚の一日目、まして、新妻オビ=ワンの機嫌をなおすため、力がはいる。

「さ、オビ=ワン何が食べたい。何でも好きな物を言ってくれ」
「いつもと同じでけっこうですよ」
そっけない返事に一瞬へこみそうになるが、めげてはいられない。なんと言っても今後の結婚生活がかかっているのだ。
「そうか。では、飲物はお茶だな。食器はロイヤル・ダルトンのセットにしよう。ミルクとホイップした生クリームもいるな。あとでアイリッシュコーヒーもいれようか?トーストはやっぱりベーコンの脂でカリット焼いたほうがいいな。5枚でいいか?卵はベーコンエッグがいいだろう。2個の両面焼きだな。ソーセージも添えよう。野菜が少ないかな。そうだフィッシュアンドチップスのポテトを添えよう。オートミールも好きだったな」
 たちまち、テーブルの上は埋め尽くされ、それとともにいつしか、テーブルセットは落ち着いた木製に変わり、タータンチェックのテーブルマットはクッションとおそろい。室内はブラウン系の装飾。サイドボードには飾り皿が並ぶ。ドレープをとった二重カーテンの窓から見える景色は美しいハイランド地方の緑の山並み。

「さあ食べよう。どうした?気に入らないか?」
「いえ。只さすがにボリュームが多いような気がして」
「んー、さすがに塩分と脂質がおおいか。もっとヘルシーがいいか」
クワイ=ガンが手をかざすと、食卓は一変した。

「フランス風に軽めにしようか。クロワッサンとカフェオーレ。少し物足りないな。ブリオシュとマフィンも付けよう。バタの他にラズベリーとアプリコットのジャムとマーマレード。卵はボイルドエッグ。お前の好みは半熟だったな。フルーツはメロン、ぶどう、もも、いちご、いちじく。そうだ、生のオレンジジュースもいるな」
 目の詰んだ上質のクリーム色のクロスはたっぷりと丸テーブルを覆い、食器は優美なアビィランドの磁器とクリストフルの銀製品セット。さらに淡いピンクのバラとかすみそうが低い花瓶にたっぷりと生けられている。
顔をめぐらすと、室内の家具はすべて優雅なカーブを描くばら色のロココ風。白いレースのカーテンがゆれる窓からは、幾何学的に刈り込まれた木々が整然と並ぶ広い庭園が見渡せ、どこからともなくモーツァルトのピアノ曲が聞こえる。
マスター何もそこまで、と口に出す代わりにオビ=ワンは思わず、軽く息をもらした。

「これもだめか?」
「いえ、素敵ですよ。――ただ、朝食にはすこし豪華すぎるような気がして」
「ふむ、ジェダイの本分は何事も質素にだからな」
クワイ=ガンは少しばかり顎に手を当て思案する。
「そうだ!これはどうだろう」
名案とばかりにクワイ=ガンが手を打つ。
「太陽系弾第3惑星にジャパンという地域があって、サムライとニンジャの発祥の地なんだ」
「はあ……」
「お前はまだ行ったことがなかったな。私は一度だけいったんだが。サムライの暮らしは質素で無駄が無いが、精神的に豊かでジェダイの教えにも通じる。お前も気に入ると思うぞ」
クワイ=ガンが手を振ると雰囲気は再び一変した。


 明るいが狭い部屋だった。建具も天井もすべて木で、窓ならぬ戸には白い紙が貼ってある。床はほどよい弾力の厚い植物製らしいマットが敷き詰めてある。
テーブルはなく代わりに一人用の四角い台がそれぞれの膝の前にある。初めて見る光景にオビ=ワンは目をぱちくりさせた。
「ジャパンの住いはほとんど木製でな。紙を張った窓はショウジ、履物を脱いで入る床はタタミという」
オビ=ワンは只相槌を打つ。
「食事はめいめいオゼンでとる。主食は米を煮た飯だ、いい匂いだろう」
おおぶりの取っ手のないカップに盛られた白い飯はいい匂いがしてつやつやと光り、湯気がたっていた。
クワイ=ガンが二本の木製の細い棒を取り上げる。
「茶碗を片手で持ち上げ、もう一方の手でこのハシを使って口に入れる。何、慣れればすぐ出来る」
オビ=ワンも師にならって箸を取り上げてみる。おぼつかないながら箸の先でご飯を押すようにして口に入れた。
「アツッ!けど、おいしいですね、何ともいえない香ばしさとほどよいかたさです」
「越後魚沼産のコシヒカリだからな。米の飯の他はねぎと豆腐の味噌汁、ミソスープだ。江戸湾でとれた天火干しアサクサノリに一夜干しのアジの干物、紀州梅、煮豆に御新香。お変わりも自由だ」
「――ところで、何時の間にこんな格好をしてるんですか?」
確かに、ジェダイの服装から、クワイ=ガンは黒っぽい着流しに、袖なしの羽織。オビ=ワンは薄紫の小袖に細めの帯。そしてお膳の前に正座していたのだった。
「ジャパンの夫婦というのはこんな風だったと思う」
「この姿勢、足が痛いんですけど」
「そうだな」
次の瞬間、お膳は消え失せ、二人のまえには布をかぶせた低い角型のテーブルが現れた。
「コタツだ。中は暖かくしてある。足を伸ばせるので楽だぞ」
言われた通り膝を曲げて足を入れてみるととても温かい。
隣りでいささかきゅうくつそうに同じ格好をしているクワイ=ガンの大きな肩が触れそうに近い。
「あれ、さっきの食事は?」
見ると、こたつの上にはみかんが山盛りの籐籠と二つの湯飲み茶碗があるきりだった。
「はて、コタツは食事用ではなかったかな……」
少し眉を下げ、困惑気にクワイ=ガンはつぶやく。
オビ=ワンは、思わず笑ってしまった。

「もうけっこうですよ。朝ごはんは私が仕度しましょう、マスター」
「オ、オビ=ワン」
又しても新妻の機嫌をそこねたかとクワイ=ガンが不安気な声を出す。
「怒ってなんかいません。でもこのままではいつになったら食べられるかわからないでしょう」
でも、とオビ=ワンはクワイ=ガンを見上げにっこりと微笑んだ。
「私のために、一生懸命朝ごはんの仕度をしてくれたのはとてもうれしいです」
言いながら軽く手をふると見慣れた二人の住いに戻った。


 朝食の後、二人はゆっくりとコーヒーを楽しんでいた。
「頭痛はどうですか?」
「もうすっかり良くなった。お前の朝食のおかげだ」
クワイ=ガンはあくまで低姿勢を続ける。
「それは良かったですね」
「ああ、ところでオビ=ワン」
「何ですか?」
「今日は何か予定があるのか?」
「そうですね。日課の他はこれといって――」
「ハネムーンに行きたいとか、実家に帰りたいとか、友達を招きたいとか、何でも好きなことをしていいんだぞ」
「ハネムーンは特に行きたい所もないですし、実家も家族もないし、友達を招くのはまだ早いでしょう」
「本当にいいのか?」
「そんなに気を使ってくださらなくてもいいのに。あたならしくもない」
「私はお前の機嫌が直れば――いや、喜んでほしいだけなんだ」
「もう、怒っていませんよ」
「本当か?」
「ええ」
「だったら……」
クワイ=ガンがためらいながら口ごもる。
「なんでしょう?」
「……て、……くれ」
「え?」
大きな図体で突っ立っているクワイ=ガンははっきり言わず口をつぐんだ。
と、オビ=ワンはひらめくものがあった。
近寄ってやさしく腕に手をかけささやく。
「ダーリン……」

 オビ=ワンの甘い声を耳にした瞬間、クワイ=ガンは腕を伸ばして新妻を抱きしめ、キスの雨を降らせる。
艶やかな金褐色の髪に、額に、瞼に、頬に、耳の下に、そして柔らかな唇に。時間をかけオビ=ワンの芳しい吐息をぞんぶんに堪能して、ようやっとクワイ=ガンは妻を解放した。といっても膝の上にしっかりとしなやかな身体を抱きしめている。
「今日初めてのキスだ」
「そうでしたっけ」
クワイ=ガンは大げさにため息をついた。
「なんてつれないマイラブ」
「だっていつもあなたは――」
「ああ、側にいればいつもこうしたくてたまらない。だが夕べのことは――、まったくすまなかった」
「――だからもういいです」
「埋め合わせさせてくれ」
「え?」
「お前さえ良ければ今すぐでも」
その瞬間、オビ=ワンの眉がよった。
「クワイ=ガン、あなた本当に、何も、覚えていないんですか?」
「う〜ん、思い出そうとしてみたんだが――」
「披露宴で記憶がなくなってから、今朝起きるまで、本当に何一つ?」
「ん〜、おぼろげにいい夢をみたような気もするが」
「いい夢?」
「お前がやけに色っぽかったような……」
ドンッ。

 なにが起きたかわからず、気付いたときにはクワイ=ガンは床に腰を付いていた。
そこはオビ=ワンが、タトゥイーンではベン・ケノービとして、隠遁生活を送る荒野の
質素な住いだった。目に入るのはフォースの仮想世界ではなく現実の世界。
クワイ=ガンはあわててオビ=ワンを捜した。が、狭い家の中に人影はない。外に目をやると、すたすたと家から遠ざかっていくローブの後姿が見えた。

「オビ=ワン!」
フォースのクワイ=ガンが一瞬で追いついて名を呼ぶと、オビ=ワンは目深にかぶったフードからちらりと目線をあげた。
必殺上目づかい。だが、その緑の瞳は今は明らかに怒っていた。
「いったい、どうしたんだ?というか、何所へ行くんだ?」
オビ=ワンは歩調を変えずに歩き続ける。現実の身体に戻ったオビ=ワンにフォースのクワイ=ガンは触れても突き抜ける為、力づくで止めることはできなかった。口による説得しかできない。

「……ルークの様子を見に。このところあわただしくて行けなかったから」
「この炎天下にか、いくらお前だって徒歩では無理だ」
「何とかします」
「っていうか、なんでそんなに怒ってるんだ?私が何をした?」
「……」
「ちゃんと言ってくれなければわからん」
「――マスターのバカ」
「は?」
「全部忘れたなんて、あんまりです」
「だから、何度もあやまってるだろう」
オビ=ワンは始めて足を止め、クワイ=ガンを見た。

「さっきは何が気にさわったんだ。――今すぐ埋め合わせに誘ったことか?」
おそるおそる切り出した言葉にオビ=ワンは首を振った。
「ではいったい」
「――確かにあなたは酔ってましたけど、すぐ眠ったわけではないんです……」
「というと?」
「皆にちゃんとお礼の挨拶もしたし」
「そうらしいな」
「部屋に入るときはちゃんと私を抱き上げてくれたし」
「無意識にか、それは良かった!」
「ベッドに入る前は私の服を脱がそうとするし、破かれてはたまらないので自分で脱ぎましたけど。あなたはさっさと服を脱いでベッドに入るし」
「それも、無意識、だ、な……」
「で、私が服を脱いでベッドに入っていよいよ――と思ったら、あなたはもう眠りこんでいて」
「そうだったのか」
「もう、私は呆れて。でもまあ、仕方ないからそのまま隣りで寝たんです」
「すまない」
「肝心なのはその後です」
「ん?」
「急にあなたが抱きしめてきたんで夜中に起こされたんです」
「何だって!?」
「一眠りして起きたのかと思って、一応初夜だし、とても、その、情熱的で、私もうれしくて、いつもより大胆に……」
語るにつれ、オビ=ワンの言葉は次第に小さくなり、しまいにはうつむいてしまった。
深くかぶったままのフードから見える白い頬が薄く染まっている。
「お前……」
「その後あなたは又すぐ寝てしまって、少し物足りなかったけど嬉しかったのに……」
「オビ=ワン」
「それなのに、な〜んにも覚えていないなんて、あんまりです!」
クワイ=ガンは口を開けたが、何も言葉が浮かばなかった。
オビ=ワンはうっすらと涙のにじんだ翡翠色に輝く瞳で見上げてくる。
ああ、この瞳で見られたら、星でも月でもとって来て捧げたい。できない事など何も無い。
そして、クワイ=ガンは自分も周りもとうてい不可能と思っていた言葉を口にした。
「悪かった。もう、酒は呑まない」
「又そんな」
「本当だ。きっぱり止める」
「無理でしょう」
「結婚したんだ。お前の為にも止めてみせる」
「マスター」
「お前を悲しませたり怒らせたりするくらいなら、もう酒は呑まない!」
「クワイ=ガン、あなた」
オビ=ワンの表情が一変し、花がほころぶようにあでやかな笑顔に変わる。
たまらず、力いっぱい抱きしめる――わけにはフォース体のクワイ=ガンはできなかったが、顔を近づけささやく。
「家に戻ってくれるか?もちろん、ルークの所へはいつでも好きなときにいけばいい」
オビ=ワンはクワイ=ガンと目を見合わせてから、肯いた。
イエス、マ、といつも通り言いかけたオビ=ワンは、あ、と気付き小さな声でいいなおす。
「ダーリン」




End      

    おまけつき……
        ↓
     




























































【おまけ】

 二人で過ごす静かな部屋、窓辺に目をやると二つの太陽が砂漠を紅く染めて沈んでいく。
再びフォース体もどったオビ=ワンは、テンプル風の住まいのリビングで夫に声をかけた。
「そろそろ夕ごはんにしましょうか?」
「そうだな。よし、私が」
オビ=ワンは笑みをうかべてクワイ=ガンの肩に手をのせながら言う。
「今日だけは私に用意させていただけます?」
「ああ」

 オビ=ワンが整えたのは、普段通りの夕食だった。
「考えてみれば――」
クワイ=ガンが感慨深げに言う。
「お前が食事をつくるようになってから20年以上たつんだな」
「任務がなくてテンプルにいるときはそうでしたね」
「優秀なジェダイが、家事の達人とは誰も思わないだろうな」
「いい気分転換になります。それに周りは皆知ってましたけどね」
「それがようやく私の妻だ」
しみじみとしたクワイ=ガンの口調にオビ=ワンもくすぐったそうに口元を緩める。
「私は宇宙一の幸せ者だ」
「そんなこと言われても何もでませんよ」
と言いながらオビ=ワンが人差し指で示す先に2個のワイングラスが現れた。
一瞬クワイ=ガンの顔が輝く、が、すぐに表情を引き締め言う。
「いや、もう私は酒は止めると誓ったんだ」
「私がつきあってくださいとお願いしたら」
「断ったら――」
「少し、悲しいかもしれません」
「妻を悲しませるわけにはいかんな」
オビ=ワンはにっこり微笑んでワインを注いだグラスをクワイ=ガンに差し出した。


 うまそうにワインを味わったクワイ=ガンが満足そうに言う。
「お前はじつにいい妻だ。オビ=ワン」
「2杯目はありませんよ」
「手強いな。――いや、悲しませない、それと喜ばせると誓った」
「そうでしたね」
「信じないのか」
「勿論、信じています」
「夕べは悪かった」
「それはもう――」
「いや、だから私はこれからの行動で反省していることを表したいと思う」
「……いやな予感が」
「何かいったか?」
「い、いえ、それでどうするつもりですか」
「バスルームでお前の身体をよく洗いたい」
「はあ……」
「差し支えなければ、服の脱ぎ着も身体を拭くのも全部私がしよう」
「……」
「寝室へ連れて行って、よければマッサージもして、お前が望むどんなことでも――」
「わかりました」
「嬉しくないか」
「それは嬉しいですが、そこまでしていただかなくても」
「では、どうしたら喜んでくれる?」
クワイ=ガン、と名を呼びながらオビ=ワンは夫の側に寄った。
「夕べのことはもういいのに」
「だってお前」
クワイ=ガンは膝の上に妻を抱き上げた。
「それは少し腹が立ったけど、私達が初めて結ばれたのはずいぶん前だし」
「そうだったな」
「あれから愛しあうたびに、私は……」
「私は――?」
そっと口の端に口づけてクワイ=ガンはオビ=ワンの次の言葉を促す。
「……いつも初めてのような気がしていました」
言い終えたオビ=ワンの顔が朱に染まっている。
顔をあげようとしない妻を、夫は黙って胸に抱きしめた。



END

 で、このあとエンドレスでバカップル夫婦暮しが続き、いつしか愛の結晶(!?)もでき大家族に(笑)




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