With you イツモフタリデ 
 全身が温かい液体に包まれている感触でオビ=ワンは目を覚ました。
――バクタタンクの中だ。目をあけると、ぼんやりと白っぽい室内がみえる。
生きていたんだ――。オビ=ワンは呼吸器をつけた口で大きく息をした。

 カチャカチャと僅かな金属音がして光沢のあるグレーの医療ドロイドが、タンクに近づいて来た。と、その背後に立ち上がった人影が見えた、ような気がした。
『よく眠るんだ、パダワン』
『マスター?』
全身を包む液体の温度が少し上がった、と思う間もなく、オビ=ワンは再び意識を失った――。

 次に目覚めた時は、明りを落とした室内だった。ベッドに横たわり柔らかい寝具に包まれている。目に映ったのは天井や壁ではなく、寝台をすっぽり覆うクリーム色の、おそらくは病人のクリーンスペースを保護する天蓋のようなカーテン、だった。

 人工呼吸器ははずされ、身体には何のチューブもつけられていない。が、何か衣類より堅いもので右肩と、胴を覆われていることに気付いた。

 仰向けのまま、何度か呼吸をして息を整え、ゆっくりと寝返りをした。痛みが身体のそこここから湧きあがる。動きを止め、深く息を逃すと痛みも徐々に去っていく。オビ=ワンは左右の手先を動かしてみた。指先に感覚がある。ついで足の指。目も耳も正常らしい。喉にも異変は感じられない。

――どうやら、どこも失わずに済んだようだ。
再び仰向けの姿勢に戻り、意識を失う前の記憶を辿る。
他の機はどうなっただろうか?ここは、どこだろう?あれから何日たっているのか?マスターは――

『オビ=ワン?』
「マスター……?」
『気がついたんだな。今行く』

 ほどなくして、音を立てずに病室に入った長身のジェダイマスターは、ベッドを覆うカーテンをかきわけ、静かに姿を現した。

「気分はどうだ。無理に話さなくともいいぞ」
「――多分、大丈夫です」
オビ=ワンは擦れた声で答えた。クワイ=ガンの眉がひそめられる。
「水分をとったほうがいいな」
いったん天蓋の外に出たクワイ=ガンは傍らの医療ドロイドの計器を確かめ、やがてストローのついた容器を手にして戻ってきた。

 ベッドの角度を調節し、オビ=ワンがらくに上半身を起こせるようにした。
「自分で持ちます」
ドリンクの容器を口元に差し出され、オビ=ワンは掴もうとした手を制された。
「いや、まだ動かないほうがいい」
オビ=ワンは一瞬目を上げてクワイ=ガンは見たが、次いでおとなしく言われるまま、ストローでドリンクを吸い上げた。

「お前の知りたいことを言おう」
ベットの脇で椅子にかけた師は、ドリンクをサイドテーブルに置き、弟子の目を見ながら、平坦な口調で語りだした。

「身体に回復できない損傷はない。だが、骨折の治癒の為ギブスで固定してある。お前達が出発してから4日たっている。戦闘機の残骸はダルン領域間際の中立地帯で発見され、お前の身体は機体の外に投げだされていた。使者の安否は、乗っていた機体も含めて今現在不明だ」
オビ=ワンは一瞬目を閉じ、小さく息を吐き出した。
「――総攻撃は」
「予定通り、明後日の未明」
「申し訳ありません、マスター」
「オビ=ワン」
「何の役にもたてませんでした……」


 枕に頭を預けた弟子の肩が微かに震えている。クワイ=ガンは手を伸ばしでオビ=ワンの手をとり、両手で包み込んだ。

「私達は最善をつくした」
「任務を達成できませんでした」
「全面戦争を回避するためにきたが、どちらもその姿勢はほとんどなかった。回避にしろ、戦闘突入にしろ、我々の役目はこれまでだ」
「使者を無事贈り届けていたら――、ダルン領空に入った途端大群に囲まれ、機を守りきれませんでした。私がもっと……」
「もういい、パダワン」
クワイ=ガンは腕を伸ばして、瞼を伏せ唇をかみしめるオビ=ワンの肩をそっと抱き寄せた。

 クワイ=ガンの大きな胸に収まった弟子の身体は、日頃の力強さはみじんもなく、まるで人形のように抱かれている。
「ジェダイと言っても、できることには限りがある」
「……」
クワイ=ガンは胸に抱いていたオビ=ワンの髪に頬を寄せた。これまでの淡々とした口調を捨て、万感の思いを込めて囁く。
「無事でよかった――」
「マスター……」
力強い鼓動、暖かく包み込むフォース、オビ=ワンは師の腕の中で何度も肯いた。



 オビ=ワンが落ち着いたのを見届け、クワイ=ガンは病室の近くに当てられた部屋に戻った。
通信設備を操作し、テンプルを呼び出す。
小ぶりなモニターに歴戦の勇士たる評議員の姿が現れた。

「プロ・クーンか。クワイ=ガンだ」
「ああ、お前の姿はよくわかる。惑星サマダンにいるんだったな」
「この惑星のサマダとダーンの紛争の調停にきたが、双方とも和解調停を拒否した。オビ=ワンが負傷した。致命傷はないが、動けない」
「惑星サマダンはどのジェダイでも無理だった。テンプルへの依頼も遅すぎた」
クワイ=ガンは肯いた。

「テンプルに調停を依頼した議員は我々が到着する前に更迭された。サマダもダーンもすでに開戦派が主流を締めていた」
「今さらジェダイが口を出す必要がないとでも言われたか?」
「――そうだ」
「お前の顔をみたらそのぐらいの見当はつく。オビ=ワンは何時負傷したんだ?」
「回避派が最後に極秘で使者を遣わす護衛に付いた。が、ダーンの領空に付いた途端、大群に囲まれ、使者は不明、オビ=ワンの戦闘機は落とされたが、かろうじて助かった」
「情報が漏れていたな」
「オビ=ワンの話を聞くとそう思う。罠だったかも知れん」
「どのみち戦争は避けられないな。紛争の根はそれほど深いのか?」
「もともと違う地域で住み分けていたが、数年来の天災で食糧危機がおこり急激に関係が悪化してきた。総攻撃は、明後日の未明」
「できればその前に脱出しろ」
「弟子の身体が回復すれば」
「では、出来るだけ早く。他の評議員も異存はないはずだ」
「わかった。又連絡する」
「注意しろ。クワイ=ガン」
「ありがとう、プロ」


 数日後、動けるようになった弟子を連れ、ジェダイは密かに惑星を脱出した。
戦闘は始まっていたが、まだ中心都市まで戦禍はおよんでいなかった。が、連日郊外の基地からあわただしく軍の飛行艇が飛び立っていく。住人にもそろそろ都市が危険だという噂がとびかい、避難する者も現れはじめた。

 当初から予想していたとはいえ、和平調停のテーブルさえ開かれず、護衛した使者の安否もわからない。師弟にとっては不本意な結果だったが、既に留まる意味もない。

 民間機の操行もすべて検閲が行われる中、クワイ=ガンは手配してくれた政府の係りに礼をいい、船を発進させた。通常はオビ=ワンがする操縦を今はクワイ=ガンが行い、オビ=ワンは隣りにすわり、無言でモニターから遠ざかっていく惑星を見ていた。

 飛行が順調なことを確かめ、目的地をセットし終えたクワイ=ガンが立ち上がった。
「惑星パテオンまでは約半日だ。一休みしよう」
「テンプルへ戻らないんですか?」
「コルサントは遠い。少し補給と休養をとる」
「パテオン?どんな星ですか?」
「平凡な星だが、以前戦争があった」


 目的地に近づくに連れ、地上の様子が目に飛び込んでくる。なだらかな緑の丘陵に囲まれた首都は整然とした道路や新しい建物が並び、そこだけ俄かに発展したように見える。
「実際その通りだ。30年近く前の大戦で元の街は壊滅したからな」
「よくご存知ですね」
「私がナイトになる少し前、マスター・ドゥークゥーと任務で訪れた」

 クワイ=ガンが選んだのは、郊外に近いこじんまりしたホテルだった。豊かな自然に囲まれ、周囲には農園や森林が広がっている。

部屋に荷物を置き、師は弟子を誘って庭の散策に出た。オビ=ワンは一見普通に動けるほどに回復していたが、骨折した部分を保護するコルセットを服の下に装着せねばならなかった。

 クワイ=ガンはオビ=ワンの歩調に合わせるようにゆっくりと庭を歩む。まだ収穫には早いらしい小さな実をつけた果樹園を過ぎ、ゆるい坂を登ると低い丘の頂きに出た。
見下ろす先には緑の盆地と、遠くその先に尖塔を頂いた建物が見える。

「周りに何もないのにあの高い建物はなんでしょう」
「昔の首都だ。今はメモリアルパークになっているそうだ。――そのうち行ってみるか」
後の言葉にこめられた口調に常とは異なるものを感じ、オビ=ワンは師を振り向いた。
静かに遠くを見るクワイ=ガンの横顔に変わった様子は伺えない。が、ほんの一瞬口調にひっかかるものを感じた。

オビ=ワンは向き直って再び正面の風景を眺めた。なだらかな田園、遠くにそびえる塔。平和な光景が続く。
「マスターのよろしい時に」
オビ=ワンは答えた。


 次の日、二人はエアスピーダーでメモリアルパークへ向かった。尖塔を中心に放射状に回廊がめぐらされ、周辺は色とりどりの花が咲く花壇になっている。小さな噴水のある池から水路が歌壇の脇を通り、そこここにベンチがある。子供を連れた家族やカップルなどくつろぐ市民の姿が見えた。

 尖塔に近づいて塔の先を見上げると、先端は焼け焦げた剥き出しの金属とわかる。その土台は円柱形の建物になっており、入口がある。

クワイ=ガンはオビ=ワンの顔を見、前へ向き直るとそのまま無言で入口へ向かった。建物の内部は明るく、シンプルだった。中心に壁を向いたベンチが並んでいる。壁は透明で外の様子が見える。まるで、只の休憩所のようなつくりだった。

すると、天井から女性の声が聞こえた。
「メモリアルパークへようこそ。ここは大戦を記録する為に残された場所です。大戦時の映像をご覧になりたい方はアナウンスが終わりましたら、入口の壁にあるパネルのボタンを押してください。壁がスクリーンとなり、映写が始まります」

 クワイ=ガンはアナウンス通りパネルボタンを押した。
透明だったスクリーンが暗色に変わり、やがて映像が浮かび上がった。

「これは大戦前の首都の様子です――」
アナウンスが響く。
政府庁の高層建築の先端はここの尖塔だとわかる。賑わう商店街や市場、華やかな劇場や娯楽施設の賑わい。住宅街、学校、公園。お祭りやパレードの様子。平和で楽しそうな市民の暮し。
「銀河連邦暦××××年、戦争が勃発しました。首都を攻撃され、空爆と新型爆弾で壊滅しました――」
一転して瓦礫と化した街。以前の面影はない無人の光景が果てしなく続く。
「戦争終結から10年、隣接地に建設された新首都が開設10年を迎えたのを機に、この地を大戦の記録を残すメモリアルパークにすることが決り、建設がはじまりました」
焼け残った残骸を片付ける作業の後、計画的な公園の道路作りが始まった――。
記録映像は時間にすれば、十数分でおわった。再びスクリーンは外が見える透明な壁に戻った。

 クワイ=ガンは映像が始まった際にベンチに腰を下ろしていた。オビ=ワンも師にならって隣りに腰掛けた。そのまま、クワイ=ガンはすわっている。

「私とマスター・ドゥークーは戦争を回避する任務でここに来た」
「――そうだったんですか」
「始めはうまくいきそうに思えた。双方の司令官や高官達と交渉したときも調停に応じる様子だった。ところが」
クワイ=ガンは前を見たまま淡々と話す。

「調停会議を目前にして、突然一部の将校が敵地を空爆した。私は急遽そちらへ向かい、マスターは何とか調停会議を開こうとしたが、会議場は敵側から攻撃されそのまま戦争が始まった」
「……」
「私が首都に戻った時、マスター・ドゥークーは負傷していた。私達の任務は失敗に終り、ここを脱出した」

 クワイ=ガンは、目を大きく開き無言でこちらを見ている弟子に向かって続けた。
「パダワンになって以来、あんな風に任務に失敗して逃げ出したことはなかった。勿論残念だったが、マスター・ドゥークーも衝撃を受けた」
「あの方がですか?」
クワイ=ガンは肯いた。

「いく度も経験してきた交渉術で調停は順調に進んでいた。突然の裏切りさえなければいつも通りに任務は成功していたと思う。が、裏切りを阻止できなかったのはジェダイの失策だ。さらに負傷、誇り高い彼にとってはかなり堪えた」
「どうなりました?」
「帰りの宇宙船でずっとふさぎこんでいた。私はその姿を見て、むしろ親しみを覚えたな」
「え」
「誇り高くいつも余裕ありげに見える。剣も交渉も一流。パダワンになって以来手ひどく失敗した姿などみたことがなかった。普段ははるか高みにいたマスターににわかに人間味を感じた、と無論口には出さなかったが」

 クワイ=ガンは口元に微かに上げ、オビ=ワンの肩に静かに手を回し引き寄せた。
「スキンシップでなぐさめた、というところか。最初で最後。普段なら絶対なかったことだ」
引き寄せられ、包み込むように優しく背中から抱きしめられる。
「マスターも始めは驚いたが、そのまま何もいわなかった。たしか後で、お前のフォースは暖かいとか言ったかな」

 弟子になって数年、始めは誇り高く厳しいと感じたクワイ=ガンの、人間味に溢れた面やときに驚くほどの思いやりや優しさも、もうオビ=ワンは知っている。

 全てを受け入れ、癒してくれるクワイ=ガンのフォース。芳しい風や心地よい水の流れのような慈しみと暖かさに溢れたフォースに包まれ、オビ=ワンは目を閉じた――。



 数日後、コルサントに向けて出発した宇宙船に乗り込んだオビ=ワンの表情には生気が戻っていた。

「コルセットをはずしたのか?」
「はい、もう動いても痛みがありません。勿論、トレーニングはヒーラーの許可が出てからにします」
「結構。食事など簡単でいいぞ。暖めればできる」
「大丈夫です」
弟子はにこやかに手作り料理を運び、湯気の立つシチューを取り分ける。
「デザートはチーズと果物です。どうぞ、マスター」
「食欲は戻ったようだな」
はい、とオビ=ワンは微笑んだ。

 なごやかに食事は進み、食べ終えた皿を手にして立ち上がったオビ=ワンが、ところで、と切り出した。
「この前の話でふと思ったんですが、マスター・ドゥークーもかなり背が高いですよね」
「ああ、同じ193cmだ。今の体重は知らんが」
「お二人並ぶとそれだけでかなり迫力ですね。あなたがマスター・ドゥークーを慰めた時も後ろから抱きしめたんですか?」
「多分、マスターは腰掛けていた。立っていたらどうにもやりにくいだろう」

 そうですね、と小さく笑いながら食器を近くのウォッシャーに入れたオビ=ワンはすぐに戻り、クワイ=ガンの肩に手を掛けた。もう一方の手を後ろからそのまま師の首に回し髪に頬を近づける。
「私はこうでもしないと届きません。慰める時はマスター腰掛けてくださいね」
クワイ=ガンは回されたオビ=ワンの手を取り、口元に運んだ。
指先を口に含み、一本一本にいとおしむように口づける。

「パダワン」
「はい?」
「お前が行方不明と聞いたとき私がどんな思いがしたかわかるか?」
「マスター……」
「おいで」
手を引かれるまま、オビ=ワンは師の膝の上にすべりこみ横向きに腰を下ろした。

「もう一度この手に抱けるなら、何を失ってもいいと思った」
力強い腕がしなやかなオビ=ワンの身体を大事そうに抱きしめる。
「私はお側を離れません」
「そういっても数年すればナイトになる」
「そうですね。でも今だけはこのままいさせてください」
クワイ=ガンの肌の温もりを感じながらオビ=ワンは広い胸に頭をあずけた。

「ベッドを共にするのは少しお待たせするかもしれませんが」
ん?とオビ=ワンの耳元に鼻をよせていたクワイ=ガンがささやく。
「この姿勢なら怪我したところに負担がかからないで大丈夫かもしれんぞ」
マスター、とオビ=ワンは溜息をついた。
「回復したら私からお誘いします」
「本当か?」
「ええ」
オビ=ワンはクワイ=ガンの唇に約束した。



End

 偶には任務に失敗しておちこんだり怪我したり、そんな時慰めてくれる人がいてほしい。
実は、「KINZEY」ネタです。ラスト近く失意の夫を妻がなぐさめる感動的なシーン。毒伯爵とマスターは二人ともデカイのでスキンシップは想像しがたいです(笑)
やはり体格差のあるオビと師匠なら絵になりますね。
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