The Minority 普通じゃない!? 
 何気なく棚を見たとき、オビ=ワンの目にそのタイトルが飛び込んできた。
「Sexual Behavior in the Human being」
――人類の性行動だって……

 銀河系宇宙の膨大な情報と叡智を集めたジェダイアーカイブ、任務の情報収集やパダワンの課題の為にジェダイはしばしばここを訪れる。
次の任務の資料を集め終えたオビ=ワンは一息ついてあたりを見渡し、ふと、人気のない奥まった一角に目をやった。分類は動物行動学及び統計学。
本は保護の為に透明扉の棚に収納されている。端末から閲覧を請求すると、間もなくドロイドが厚い本を持って現れた。

 発行年はおよそ50年前、著者はA.キンスキー博士主催の研究チーム。そういえば何かの講義で、当時この本がベストセラーになり物議をかもしたと聞いたことがあった。

 アーカイブでデータを集める時は、デジタルデータが圧倒的に多い。必要なものを自分のデータパッドに移す。紙で出来た本はほとんどが古いもので、手にとって見ることなどめったにない。オビ=ワンは今その本を手に取り、今一度、表紙の題名を見つめた。

 今までもあったはずなのに、何故今日に限ってこれに気付いたのだろう?答えはわかっている。自分が最近当事者になったからだ。人は、目の前にあっても自分が興味のないものは無に等しく、一度興味が湧けば、たちまちそれに目ざとくなる。

 オビ=ワンは師のクワイ=ガンに気持ちを打ち明け、師も応えてくれ恋人同士になった。有体にいえば、同性同士のセックスをするようになって数ヶ月がたっていた。同居しているとはいえ任務もあるし、それほど回数は多くない、と自分では思っている。

 それまで経験のなかった弟子を、師は慎重に未知の世界に導いてくれた。身体に負担を感じることもあるが、愛する人に抱かれる精神的な喜びは大きかった。今はまだ肉体的な喜びを覚え始めたというところか。

 但し、執着を禁忌とするジェダイオーダーはジェダイ同士の恋愛を良しとしないし、師弟間ならなおさらだ。精神的に充実していても、オビ=ワンは誰にも打ち明けることは出来なかった。
そんなわけで、自分達のセックスが果たして通常の人類とどれだか相違があるか見当もつかなかった。


 50年前の調査ではたいして参考にならないかもしれないけど――。
オビ=ワンは表紙をめくった。

性欲を感じる対称が異性間、同性間、両方のどれかのデータだって?
初めて自慰をした歳!初めてセックスした歳!オーラルセックスの経験!!
脈拍が速い。鼓動が大きい。呼吸がせわしい。頁をたどる目線が落ちつかない。

完全に興奮してる。落ち着けオビ=ワン、これは統計資料だ。データなんだぞ。学術的な行動分析なんだ。

大きく息を吐き、一旦本を閉じた。顔を上げあたりを見回す。――誰もこちらを見ている者はいなかった。再び肩で息をする。

時刻をみた。ここにいられる時間はもうあまりない。この本は貸出出来ないし、明日から任務に出発する。

 オビ=ワンは意を決して立ち上がった。カウンターでこの本のデジタル版を検索しダウンロードを申し込むと、数日中にデータパッドに送られると回答があった。

 
 アーカイブを出ると通信機が鳴った。
「オビ=ワンです。はい、今戻ります。出発が早朝になった?早めに食事をして、そのあと支度を。了解、このまま食堂に行きます。ではあちらでマスター」

 何気ない連絡も、師が名前を呼んでくれるのがうれしい。低いややこもった声で用件を伝える声も耳に心地良い。通信を切って、オビ=ワンは又も大きく息を吐いた。先ほどの動揺を押さえて普通に話しが出来た。今頃クワイ=ガンは部屋を出て、ローブを翻しさっそうと食堂に向かっているだろう。オビ=ワンの口元に笑みが浮かぶ。そうして弟子は師に会うため足早に歩き出した。

翌朝、ジェダイの師弟はテンプルを後にした。


 一旦任務になれば、師弟は遂行に没頭する。ジェダイの任務は危険が多く一瞬の判断ミスが生死を左右する。フォースを高め五感を研ぎ澄ます。クワイ=ガンの場合は一見リラックスしているように見えても、あらゆることに神経を注いでいる。数多いジェダイマスターの中でもその集中力の強さは郡を抜く。
オビ=ワンは弟子になって以来、身近で師を見、自然と同じように行動するようになっていた。当然、任務中は恋人として睦み会うことなどまずなかった。


 いくつかの任務を遂行し、師弟は数ヶ月ぶりにテンプルに帰還した。評議会への報告、必要な事務処理、留守中の連絡確認など、二人がようやく一息つけるようになったのは、次の日も午後になっていた。

「評議会への報告の補てん送信完了しました。マスター」
オビ=ワンはデータパッドから顔をあげてクワイ=ガンを見た。二人は住いのリビングにいた。
「結構。どうでもいいような事まで記録に残したがるんだなあの連中は」
「そりゃ、どうして皇太子の護衛任務が賭博レースをするはめになったとか」
「壊れた宇宙船の部品を調達するためだ」
「難民救済の任務が早々に惑星退去を通告されたとか」
「黒幕連中の正体をしるため、無断でデータルームに侵入したからだ」
「ええ、結果としてどの任務も無事達成できたから良かったですけどね」

優秀な弟子のさりげない口調にわずかにひっかかるものを感じ、クワイ=ガンは軽く片眉をあげる。
すると、オビ=ワンはそんなこと承知と言わんばかりにすました顔で師を見上げ、にっこりと微笑んだ。19歳にしては童顔のオビ=ワンがいっそう無邪気に少年のように見える。

クワイ=ガンは軽く口元を上げ、オビ=ワンのブレイドを手に取った。
「さて、今の言葉ですべて終わったということなんだろうな。パダワン」
オビ=ワンはブレイドを引かれたまま、データパッドを閉じた。
「イエス、マスター」
「少し早いが、食事に行こうか」
ブレイドを手にしたまま弟子を引き寄せ、クワイ=ガンはそっとオビ=ワンのこめかみに口づけた。
握っていたブレイドを離し、耳元で囁く。
「今日は私のベッドでやすもう」
「……イエス、マスター」
オビ=ワンは俯きながら小声で答えた。


 食堂から戻り、オビ=ワンは師の好みの茶をていねいに入れた。ただよう香りを楽しみながら言葉少なに久方ぶりの心地良い雰囲気を楽しむ。
オビ=ワンは師にバスをすすめた。
「明日からの講義の日程をチェックしますので、お先にどうぞ。マスター」
程なくしてクワイ=ガンが出ると、オビ=ワンは入れ違いにバスルームに入った。


 クワイ=ガンは自室でオビ=ワンを待っていた。が、さすがに手持ち無沙汰で待ちわびているわけにはいかない。任務先で手に入れた本を手にとりベッドに腰を下ろした。少し読み進んでみたが、オビ=ワンは現れない。先ほどドアの音がしたからもう出たはずだった。


遅すぎる。クワイ=ガンは立ち上がった。リビングにも弟子の姿はなかった。
「オビ=ワン」
弟子の部屋の扉を開けようとしたクワイ=ガンはオビ=ワンのフォースが通常と異なることに気付いた。なんと言うか、それはとても慌てふためいていた。最近では滅多にないことだった。
「どうした?」
オビ=ワンはバスローブ姿のまま、デスクに置いたデータパッドを凝視していた。


「マママッ、マスターッ!!」
「何をそんなに驚いてる?」
「あの、あのっ、大した事ではありません。トラブルとかじゃなくて、マスターが気にとめて下さる必要なありませんっ」
オビ=ワンはとっさにデータバッドに背をむけ、振り向いた。
「それにしては、お前の様子は普通じゃない」
「アーカイブから頼んでおいたテキストが届いていたんです。後で見ます。あ、全然急ぎではないので」
「何のテキストだ?」
「動物行動学と統計です。あの、本当にマスター」
「――オビ=ワン」
目を見つめられながら、ゆっくりと語尾を強めた口調で名を呼ばれ、弟子は観念した。姿勢をずらし、隠すようにしていたデータパッドを師の視界にさらす。

「ほ、お――」
クワイ=ガンはタイトルと要旨を目で追っている。
「……少しは参考になるかと思いまして、古いデータですが」
「キンスキーリポートか。古典だな」
「ご存知なんですかぁ!?」
弟子は甲高いうわずった声をあげた。
「私も若い時に読んだ。まあ、いろいろと興味深かった」
「そう、ですか」
オビ=ワンは気が抜けたように呟いた。


 数分後、二人はクワイ=ガンの部屋のベッドにいた。サイドテーブルに先ほどのデータパッドが画面を開いたまま乗っている。
「成人男性の37%、成人女性の13%が同性愛の経験がある。性交を伴わない悪ふざけの体験も含む、か。気になるか?」
「多分少ないほうだろうとは思っていましたが、誰かに聞くわけにもいかなくて」
クワイ=ガンは小さく笑うとオビ=ワンを抱き寄せた。
「私はお前だから好きなんだがな」
「私もあなただから好きになったんですよ。同性だなんて考える前に」
「偶々それが少数派というだけで、異常でもなんでもない」
「はい……」

 大きな手で頭の後ろをささえられ、深く口づけられる。舌を絡め互いの露が口の中で交わる。息を奪われ、息苦しさに胸がおおきく上下する。
口を開放された時も、オビ=ワンはクワイ=ガンの腕の中で、師を見上げながら空気を求めた。
「久しぶりだな」
「マスター……」
オビ=ワンは潤んだ瞳で愛しい人を見上げた。

「任務中はしいて抑えなくても、その気になることはないが」
クワイ=ガンの唇がオビ=ワンの感じやすい耳の下を通り首筋を這う。
「いったんプライベートになると、いくらでも欲しくなる。あのデータにはあったかな?」
「何がですか」
「一度の機会に最高何回できたか」
一瞬動きを止めたオビ=ワンは軽く眉をひそめ、低い声で問う。
「――何て、いわれました?」
「多分、私達の回数も少数派だろう」
「いくらあなたがお歳のわりに元気だからって、こちらの限度が、っく!」
オビ=ワンはそれ以上言葉を続けられなかった。



End

――二人のmake loveのどこが普通じゃないかって、こういうことだったのか(笑)
しっかし、この師匠じゃ弟子も鍛えられるわね、いろいろと……。

「KINZEY」ではリ@ムばっちり男性とキスシーン。やったー、マスター!特大サイズに違いないしましまパジャマ姿も可愛かったです(笑)。
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