Why? ※ オビ&アナ 
 日付が変わるほんの少し前、不夜城コルサントの空を猛スピードで走行してきた小型スピーダーが、ジェダイテンプルのポートにほとんど音もさせず正確に着陸した。ひらりと飛び降りた長身の青年は大またで、しかし足音を殺して自分の居住区へ向かった。

 部屋に付いたとき、まさにクロノメーターが0を示す。
アナキン・スカイウォーカーは満足げに口元をわずかに上げた。朝帰りではない。小言の多い師に見つかっても、言い訳はできる。

 アナキンの脳裏につい先ほど別れたのパドメの姿が浮かぶ。ナブーで密かに結婚して以来、二人は離れ離れを余儀なくされていたが、先ごろ、パドメは惑星ナブーの議員としてコルサントにやってきた。

 アナキンにとっては、愛しい妻が近くにいると思うだけで有頂天だった。が、ジェダイの掟を破ったことをひた隠しにしている為、師のオビ=ワンにも知らせなかった。つまり、これまで同様、ナイト間近と言われていても、パダワンとしてマスターと共に任務をこなさなければならない。

 しかし成人した今では、オビ=ワンもアナキンの夜間外出をあまりうるさくいうことはなかった。度を越さない限りは。

 いつもぎりぎりまで短い逢瀬を楽しみ、やさしく促されて、アナキンはパドメの住いを後にした。帰りの乗物で誰にも気付かれないよう強力なフォースで思念シールドを張る。今夜も完璧だった。

 と、その時、共有のバスルームから物音がするのにアナキンは気付いた。
最小限の間接照明だけのリビングを見渡すと、ソファに師のローブが置かれていた。
オビ=ワンも今帰ってきたばかりなのか。部屋の明りをつけ、何気なくローブを手に取ったアナキンは馴染みのない匂いに眉をよせた。

 これは香水の匂い、しかも女性用の甘い匂い。それどころか、甘ったるくきつ過ぎる。
今晩オビ=ワンはどこへ行くっていってたかな。えーと確かルミナーラと食事。でも彼女は香水などつけない。思わず、声をあげていた。
「マスター!オビ=ワン!」


「そんな大声を出さなくても聞こえる」
バスローブを着たオビ=ワンが、濡れた髪をふきながらバスルームから姿を現した。
「おかえりアナキン。――遅かったな」
咎める口調はなく、弟子の顔をみたオビ=ワンはタオルを肩に掛けたままキッチン行き、ミネラルウォーターをグラスに注いでリビングに戻って来た。

「12時には帰ってきましたよ。あなたこそ、帰ったばかりでしょう?」
「ああ、ついさっき」
「――少し酒くさいですよ。それに、これはなんですか!」
「何って?」
オビ=ワンは怪訝な顔で差し出されたローブを見た。
「私のローブだ」
「そんなことじゃない。この香水の匂いは何ですか?」
「!?」
ほら、と鼻先に突き出されたローブ。オビ=ワンは眉をひそめて匂いをかぐ。
「――これは香水の匂いか?」
「あなたのローブですよ。身に覚えがあるでしょう」
「さっきシャワーの時に脱いだ服も同じ香りがした。ローブにも付いていたのか。全部クリーニングが必要だな」
「だから、なんで付いたのかって聞いてるんです」
「何で付いたのかって?」
「そうです。隠しても無駄ですよ」
「多分クラブの中だ」
「どこのクラブ?」
「デカメロン」
アナキンも名前は聞いた事のある、政治家や特権階級がメンバーの高級クラブだった。

「誰といったんですか?」
「お前、私に尋問してるみたいだな」
「マスターが香水の匂いをぷんぷんさせていたら、弟子として放っておけません」
「ルミナーラとバリスとレストランで食事していたら、偶然、アミダラ議員やオーガナ議員と会ったんだ」
「え?」
「一緒にいた初対面の惑星ヒルトンの議員に紹介されて、ぜひ話したいことがあるので場所を変えてお茶でもと言われて」

――そういや、パドメはレストランでオビ=ワンに会ったと行っていたな。
「私は皆一緒だと思ったので、その議員に案内されてクラブに行ったんだが、アミダラ議員やオーガナ議員がいつまでも来なくて」
「ルミナーラとバリスは?」
「誘ったんだが、ルミナーラがバリスにはまだはやいといって先に帰った」
「で、あなたとそのヒルトンの議員と二人きり」
「――結果的にはそうなった」
「何されたんですか?」
「飲物を進められて、話をした」
「どんな話?」
お前、と今度こそうんざりと言う風にオビ=ワンは溜息をもらす。

「彼女の友人とやらの噂話とか、コルサントで開くパーティの話とか。その内、気分がよくない暑いとかいって服を脱ぎそうになったんで、酔ったんだろうと判断し、乗物を手配し、送り届けて帰ってきたんだ」
「それだけ?」
「それだけだ」
「――あい変わらず、ですね」
「どういう意味だ?」
「ヒルトンの議員って言ったら、富豪で社交好きで有名ですよ」

――何より男好きで、とアナキンは胸の内で舌打ちした。そういや彼女がジェダイと近づきたがって最近パドメにも寄ってくるって言ってたな。

「そうなのか。クラブで惑星ヒルトンの政治の事でも話すのかと思ったら、違っていたな」
「あそこの議員は有力者持ち回りの名誉職みたいなものですよ」
「お前のほうが元老院には詳しいようだな」
「情報収集のうちです」
「そうか、さて私は寝るぞ。思いがけなく遅くなってしまった」
「――今度から、知らない人には付いていかない方がいいですよ」

 オビ=ワンは複雑な表情で自分より背が伸びた弟子を見た。
「付いていく前に、お前に聞いてみるとするか?」
「オビ=ワン!僕は弟子としてあなたを心配してるんです」
ありがとう、とオビ=ワンは小声で呟く。
「どういたしまして。お休みなさい、マスター」
「お休み」
と、ソファから立ち上がったオビ=ワンは弟子を見て、何か気付いたように眉を寄せた。

「あ、アナキン」
「なんですか」
「キスマークを隠すには襟をもう少し高くあわせてほうがいいぞ。3日もすれば消えると思うが」
「え?」
「まあ、夜遊びもほどほどにしろ。じゃ、お休み」
オビ=ワンは弟子に背を向け、自室に消えていった。

 あっけにとられた弟子は、意味を悟るとバスルームに飛んでいった。
確かに、首筋にポツリと赤い印、パドメがベッドの中で――。とたんに青年の頬にカッと血がのぼった。
あわてて、言われたように襟を両手でかき合わせる。

 こうすれば、隠れるな。3日で消える?そんなにかかる?何かもっと早く消える方法。こするのは逆効果か。オビ=ワンは消す方法を知らないかな?

 アナキンは服を脱いで点検を始めた。愛しあった後であわただしくシャワーを浴びた時は気付かなかったが、胸元にもいくつか赤い印、それに背中にいく筋かの爪の跡――。

 バドメに言わなくっちゃ。でもきっと夢中だったんだな。僕だって、多分もっと彼女に付けてる。
少しばかりにやけて点検を終えたアナキンは、脱いだ服を持ってバスルームを出ようとし、はたと気付いた。

 なんで、なんで、オビ=ワンはこれがキスマークだってわかったんだ!?パドメとのことがばれた。いや、そんなはずない。僕が繁華街あたりで遊んでいると思ってるんだ。
でも何故、キスマークが3日で消えるなんてわかるんだ!?

 オビ=ワンがキスマーク付けてるなんて見たことない。遊んでる様子も見たことない。メイクラブなんて気配もない、微塵もない。むしろ、鈍いはずだ。今日だって――。

 アナキンは上半身裸のまま、オビ=ワンの部屋の扉を睨んだ。
今、入っていって起こして聞いたら、間違いなく足蹴りか張り倒されるな。

「なんでそんなこと知ってるんですか!?」
そう叫びたくてうずうずする気持ちを、アナキンは必死に押さえ込んだ。
部屋の中からは、安らかに眠るオビ=ワンの気配がフォースを通じて伝わってくる――。



End


 ほのぼの師弟風(?) 世慣れたつもりのアナキンでも、最後は師匠にかなわない(笑)
マスター・オビ=ワンは奥が深いぞ〜。
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