The Lesson ※(誰とも)恋愛未満 | 「――こんな映画だったんだ」 「あぁ……」 クッションのきいた快適なシートに身をあずけ、顔より大きい特大サイズのポップコーンをほおぼりながらオビ=ワンが呟いたのは、映画開始後間もなくだった。 隣りの席には親友のガレン。 「……」 声にはださないが、二人の少年が見ている映画はどうも予想していた内容と違うらしいと双方とも気付いていた。 「だって、題名からして南の島で、宝捜しでもしそうじゃないか」 「スリリングなアクションものには違いなかったね。海賊は出なかったけど」 映画終了後、二人は感想を話し会いながら街を歩いていた。 「実際、クローンの研究てけっこう進んでいるんだろう?」 「ああ、家畜やペットはもう誕生してる。人間は共和国では表向きは禁止だけど、密かに研究されているという噂もあるそうだ」 「いろいろと問題が多いからね。あ、ここがいいんじゃないか」 オビ=ワンが足を止めたのは大きなファーストフード店。が、足を踏み入れた途端、店内がかなり混雑しているとわかる。 「――どうする。他にしようか」 「オビはここのメニューが好きなんだろ。テイクアウトにしようか」 うれしそうにうなずいたオビ=ワンは、同年代の友人が驚く量をオーダーする。 「クワイ=ガンの分も買ってくの?」 「マスターは今日は食べてくると言ってた。ガレンこそそんな少しで足りる?」 反対に問い返され、ガレンは目を丸くしてオビ=ワンの引き締ったしなやかな身体を見渡した。 金褐色の短い髪に、パダワンの編み下げ髪の長いブレイドが背の途中でゆれている。ジェダイ特有のチュニックとレビンスにブーツ姿。少し長めの丈のローブ。 一方、ガレン・ムルンは彼の師もそうだが、他のジェダイと違ってパイロットスーツを着ている。師のクリー・ラーラは優れた女性パイロットで、ガレンもパイロットの素質を認められ訓練生としてトレーニングを受け、マスター・ラーラの弟子となっていた。 ジェダイの中でもパイロットは伝統的なジェダイの装束にこだわらないらしく、パダワンの証ブレイドもない。ガレンは真直ぐな黒髪で丈も少し長めにしていた。 大きな包みをかかえ、パダワン達はテンプルに戻って来た。 「僕の部屋にくる?ガレン」 「オビのとこはいごこちがいいけど、けっこう人がくるよね」 「そんなことないと思うけど」 「前にいった時、バントはいいとして、クワイ=ガンに会いにメイスにアディだろ。ヨーダからもコムがあるしさ。リビングにいたから僕はびびっちゃったよ」 「君のとこはそうじゃないの」 「うちのマスターは自分からいくことが多いんだ。今日もいないしさ。僕のとこへおいでよ」 ガレンの住いは師と共有のリビングはともかく、自室に無駄な装飾はいっさいなかった。 「――久しぶりだけど、かわらないね」 「寝に帰るだけだから、これで充分」 小さいテーブルの表面はずらりと並んだハンバーガーやポテトに占領された。がそれも一時でオビ=ワンはピッチャーほどもある大きなドリンクパックを片手に、次々とおいしそうに好物を平らげていく。 「あいかわらず、よく食べるね」 「育ち盛りだから」 友人の呆れ顔にもオビ=ワンはおくすることなく、にっこりと笑う。 ただね、と一息つきながらオビ=ワンは言う。 「任務になると、うちのマスターは寝食を忘れることがあって、食いっぱぐれるなんてしょっちゅう。で、僕もいつも間にかテンプルにいるときは心残りがないよう好きなだけ食べるようになったみたいなんだ」 「オビも苦労するね」 「そんなんじゃないけど。最近はマスターも前よりよくなったし」 「オビ、ソースがついてる」 「え?」 「口の下」 オビ=ワンは舌で唇を舐めた。油の混じった光沢のある赤味がかったソースの せいで、少年の唇は鮮やかな色に染まっている。 ガレンは目を細めて、オビ=ワンを見た。 「拭かないとだめだよ」 オビ=ワンがナプキンをとりあげようとするより早く、ガレンは手を伸ばしてオビ=ワンの口の端の下を人差し指でぬぐった。 そのまま、自分の口に運ぶ。 「けっこういけるな」 「だろ」 ガレンはオビ=ワンの口元を見つめ、それから友人のブルーグレーの瞳を正面から見つめた。 「オビの口、すごくおいしそう。味見していい?」 「このソースのハンバーガーならもう一個あるよ」 オビ=ワンは目をぱちくりさせ、ついで目をそらし、その包みを取り上げようと手を伸ばした。 「いや、もう充分」 ガレンは苦笑して身をひき、ナプキンをとってオビ=ワンに渡した。 オビ=ワンがごしごしと口をぬぐう。 「さっきの映画でさ、キスのシーンあったろ」 「ああ、クローンのカップルが」 「見かけは大人なのに、キスもセックスも知らないなんてあると思う?」 「あれは、隔離されて育てられたクローンだから」 「――ジェダイだって似たようなもんだと思わない」 「ジェダイオーダーは多分認めてないよ」 「でも僕たちは情報を遮断されてるわけじゃない。オビ=ワン、キスしたことある?」 「バントとか、マスターもたまに。それと――」 ガレンは友人のとまどった様子に笑った。 「それは、友人とか、親しい同士だろ。額とか頬にさ。そうじゃなくて、恋人みたいなキスのこと」 「……多分、ない。ガレンはどう?」 「僕も残念ながらない。だから映画の二人が興味津々でキスして、すごくいいって言うのが本当かなって思った」 「お互い経験ないから仕方ないよ。マスターに聞くわけにもいかないし」 ガレンは笑い声をあげた。 「オビ、いくら尊敬するマスターだからって、クワイ=ガンがキスの仕方教えてくれると思う」 「見たことはある」 「え?」 「ずっと前、タールと。その、ちゃんと見たわけじゃないけど。あとになってあれはキスしてたんだなと思った――」 うつむき加減で話すオビ=ワンは心持ち頬を赤らめている。 ガレンは肯いた。 「タールが生きてたら、二人はどうなってたかな」 「わからない。考えてもしかたないし」 「そうだね。でもとにかく、クワイ=ガンは大人のキスを知ってそうだ」 「ガレンのマスターは?」 「うーん、うちのマスターは任務で必要があればいくらでも愛想をふりまくけど、キスしてるのは見たことないな。僕がキスなんて言い出したら大笑いされるか、張り倒されるかどっちかだ」 今度はオビ=ワンが大笑いする番だった。 ひとしきり笑い合った後、ドリンクでのどの渇きを潤すオビ=ワンの口元にガレンの視線が注がれる。 「オビの口って薄くてきれいで、キスしやすそう」 「え」 「どんな感じか試させてくれない」 「――そんなこと言われたって」 「試すのにお互いこれ以上の相手いないだろ」 「説得してるわけ?」 「うん、いいだろ」 オビ=ワンは友人の濃い色の瞳を上目遣いで見た。 何かに熱中してるときに見せる、本当に好奇心いっぱいの子供のような目をしている。 正直オビ=ワンはイエスでもノーでもなかった。ジェダイが決断にまよっちゃいけないな。 ぼんやりとそう思ったとき、両肩を腕でつかまれるのを感じた。 「オビ、目、閉じてくれる?」 意味を考える間もないまま、オビ=ワンが目を閉じると、ガレンの頭が近づく気配がした。 頬に一瞬温かい肌が触れ、そして何か、やわらかい感触が唇に押し当てられた。 それは、触れたかと思うとすぐ離れ、又、唇に温かく当てられた。 ――乾いていてやわらかいな。 オビ=ワンがそんなことを思うと、表面に触れるだけだった唇の感触が、少し唇に押し当てられ、何度もオビ=ワンの唇を味わうように、僅かに位置をずらして、キスを続ける。 やがてガレンの唇は、最後にちょっと強くオビ=ワンの結んだ唇の合わせ目に押し当てられ、離れていった。 「目を開けていいよ」 「……」 「どうだった?」 「――どうって」 「悪くはなかったろ」 オビ=ワンは反射的に肯いたが、ふいに恥ずかしさがこみあげてきた。 「想像していたより良かった。オビの口ってすごくキスしやすい」 「そんなこと」 「恥ずかしがりやだね、以外と」 「ガレン」 「可愛いっていったら怒る?」 「ガレン!」 「ああ、ごめん。でも僕らは男だから一応キスするほうだな。こんどはオビから僕にしてみる」 「――いい」 「機会があれば何でも試してみるのはいいことじゃないか。マスターもいつも言ってる」 「意味が違うと思う」 「深く考えないで。今のは触れるだけの親愛のキスだよね、子供がするみたいな。それじゃ、大人のキスってわかる?」 「大人のキス?」 「映画でも二人がしてただろ。始めは軽い触れるだけのキスから、口を開けてもっと深い舌を使うキスに」 「――舌、を、使う!?」 「うん、見るだけじゃわからないよね。やっぱりどういう具合が試してみないと」 オビ=ワンはまたもや目を見開いて、平然と口にしたガレンを見つめた。そういえば、ガレンの部屋に入るとき、少しいやな予感がした――。 「ガレン、まさか……」 「キスついでにしてみようよ」 「う、それはちょっと」 オビ=ワンは身体を引き、無意識に椅子ごとあとずさっていた。 「いやだったらすぐ止めるから。僕だって初めてだからゆっくりするよ」 「――次の機会にでも」 「次なんていつ会えるがわからないだろ」 ガレンが身を乗り出し、両手をオビ=ワンの肩に掛けた。 「ガレン……」 「目を閉じて。それともここにもキスしていい?」 思わず息を止め、目の前の友人の濃い色の瞳を見つめる。 その瞬間、ふいにマスターの顔がオビ=ワンの頭に浮かんだ。ガレンの顔が近づいてくる。オビ=ワンは観念し、瞼を閉じた。 温かい息が、まさにもうひとつの息づかいと交わろうとした時、聞き覚えのある電子音がそれを遮った。 とっさに二人の身体は離れ、目を開けたオビ=ワンはガレンと目を見交わす。通信機の音はベルト付近で鳴っている。オビ=ワンは手を伸ばして、それを取り上げた。 「――オビ=ワンです。マスターッ!あ、ガレンの部屋です」 オビ=ワンは通信を終えて、少しばつが悪そうに上目遣いで友人を見た。 「マスターが帰ってきたんだ」 「戻ってこいって?」 「そうは言ってない。でも、ケーキを買ってきてくれたって――」 ガレンはさっきオビ=ワンが平らげた包装紙が残るテーブルに目をやった。 「これだけ食べた後でまだ入る?」 「――多分、この前僕が食べたいっていったケーキだし」 ガレンは今度はわざと大げさにため息をついた。 「すごいタイミングだね、クワイ=ガンは。ひょっとしてオビの危機を察した?」 「まさかそんな、危機とかじゃないだろ」 「じゃあ、いいところで邪魔がはいった」 「ガレン!」 「まあ、今日はオビとキスの練習ができたので良しとしとく」 「練習って、君が一方的に――」 「何か言った。オビ=ワン?」 「ううん、じゃあ、失礼する。ガレン、明日は講義にでる?」 「多分無理。昼頃出発する予定なんだ。又、連絡するよ」 「うん、僕も連絡する。じゃあ又」 ドアの閉じる音、そして軽い足音が素早く遠ざかっていく。 ガレンはベッドにもどり、ついで仰向けに身を投げ出し、呟いた。 「可愛いかったな……」 オビ=ワンは茶を入れ、カップをリビングのテーブルに運んできた。側にはケーキの包みが置いてある。 促され、礼を言って弟子はケーキを食べ始めた。普段ならぺろりと平らげる量だが、さすがにクリームがたっぷりのケーキは今は重い。 「どうした。全部食べていいんだぞ」 「さっき食べたばかりなんで。すごくうまいんですけど」 「いつもは甘い物は別腹と言ってるくせに。まだ育ち盛り、食べ盛りだろ、パダワン」 「ええ、食べるのはいいんですけど、身長の伸びが前ほどじゃないんですよ」 「たくさん食べればまだまだ伸びるさ。オビ=ワン、クリームがついてる」 「え?」 クワイ=ガンは笑って手を伸ばし、紙ナプキンでオビ=ワンの口元を拭いた。 「すみません……」 オビ=ワンは笑みを描いたクワイ=ガンの口元を見た。先ほどの記憶がよみがえる。 マスターのキスはどんなだろう。 「さて、とれたぞ」 オビ=ワンは我に返り、あわてて言う。 「――子供みたいで、恥ずかしいです」 「さっきは何に困ってたんだ?」 「え?」 「何だか、ずいぶん困惑してる気配がした」 「――感じたんですか、それでコムを」 「ああ、とっさに鳴らした」 「映画の感想を話してたんです。ガレンが僕が知らないことを教えてくれて、それで驚いて――」 「ほお」 「あの、内容を話したほうがいいですか?」 「いや、友人とのプライベートは私の指導の他だ」 「すみません」 「あやまることはない。お前も17だ」 弟子の少年は少し目をそらし、テーブルの上を見つめた。が、頭に浮かぶものはその瞳にうつる光景ではなく、友人と垣間見た未知のふれあい。 「本当の大人になるまで、学ぶことが多そうです……」 クワイ=ガンは弟子のブレイドを手にとった。 「急ぐことはないんだ。お前はゆっくり大人になればいい」 師の深青の瞳が穏やかなな色をたたえて、見つめている。 「イエス、マスター」 オビ=ワンは目を合わせ、笑顔で応えた。 END ユ@ンの映画「アイランド」より、クローン同士の初々しいファーストキスを思い出して。オビは友人とのキスでも受けになってますが(笑) JAやJQに登場するオビの親友ガレン・ムルンはけっこうナイスガイです。。 |
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