The Summer Camp           ※ 恋愛未満
 
 岩山を登りきった見晴らしの良い高台にたどり着いたオビ=ワンは、思わず歓声をあげた。
「川があります!マスター」

 クワイ=ガンは傍らの弟子になったばかりの少年に興味深げに目を向けた。正式に弟子にする前からいくぶん知ってはいたが、任務中はこんな生き生きとした姿をみることは少なかった。

 辺境の任務の後、乗り継ぎまで数日要することになり、その間、自然にあふれたこの惑星の山地へ足を伸ばすことにしたのだった。もよりの農場まで送ってもらい、そこから徒歩で山裾の森をここまで登ってきたのだった。

 この惑星はいま短い夏を迎えており、長身の師に続いて、荷を担いで数時間山道を歩き続けたオビ=ワンは、だいぶ汗をかいている。短い前髪をかき上げながら額を袖口でぬぐい、オビ=ワンは師にたずねた。やっと肩に届く長さの金褐色のブレイドが小さくゆれている。

「川のあるところまで行くとおっしゃってましたが、どのあたりですか?」
「下におりて、野営に適した場所をさがそう」
オビ=ワンは大きくうなずいて、元気に師のあとに続いた。


 上流の川幅は狭く、歩いて渡れる深さ。雪解け水が流れ込む川の水は澄んでいた。クワイガンは早速野外訓練を始めた。野営の場所を決め、弟子に燃料用の木を集めさせる。

オビ=ワンが木の下で赤い実を見つけ、師にたずねた。
クワイ=ガンは成分を調べる簡易キットを取り出し調べた。
「これは食べられる野いちごだ。熟れたのを選んでとれ」
「イエス、マスター」
オビ=ワンは目を輝かせて服の裾をひろげ、摘みはじめた。

 次いで川の水の成分を調べ、飲料はできるが、念のため、中和剤を入れて飲むことにした。
ブーツを脱いで、慎重に川に入ったオビ=ワンは、始め水の冷たさに驚いていたが、すぐに気持ち良さそうに師を見習って顔や身体を洗い出した。

「川に入るのは始めてか?」
「はい、テンプルの泉ではよく泳ぎましたが、川はありませんから」
「滑りやすいから、歩く時はしっかり足裏をつけるように」

「はい、うわっ!」
「どうした?」
「何か足にさわったんです。――魚ですよ」
「あの岩の下あたりにけっこういそうだな」

 クワイ=ガンは口の前に人差し指を立て、静かにと合図して、ごくゆっくりと川をさかのぼり始めた。例の岩に近づくとしばらく流れに目を凝らしていたが、やがて戻って来た。

「魚獲りをしようか。うまくいけば魚といちご付きの豪華な夕食になるぞ」
「どうやって獲るんですか?」
「そうだな……」

 クワイ=ガンは岸にあがり、森を見渡していたが、ナイフを取り出して、側の繁みに入っていった。間もなく、数本のまっすぐな木の枝をかかえて戻って来た。

 岩に腰掛け、ナイフで余分な葉や小枝をはらい、枝の先に鋭い角度をつけ切り落とした。
出来上がった枝はライトセーバーほどの長さで指より細い。クワイ=ガンは親指と人差し指でそれを掴み、何回か目標を射るしぐさをした。
師の側で目を凝らして見つめる少年を振り返り、僅かに口元をあげて応えた。
「これで魚を突く」


 オビ=ワンは目を丸くして、師になって間もない名高いジェダイナイトが、木の枝で魚を次々と狩るのを見ていた。

 膝近くある深さの川面に立ち、手製の木槍をやや高めに構え、じっと水面に目を凝らす。一瞬、目付きが鋭くなったかと思うと、目に止まらぬ速さで鋭い槍は既に水の中に突き刺さっており、水中から引き上げた時には背を貫かれた魚がぴちぴちと跳ねていた。

「こうやるんだ」
クワイ=ガンは狩った魚の口とえらによくしなる細い小枝を通して弟子に渡した。オビ=ワンは肯くと、次に渡された魚を同じように小枝を通して吊るした。それが数匹になったころ、クワイ=ガンが向きをかえ岸に近づいて来た。

「やってみるか」
オビ=ワンに木枝を放ってよこした。
興奮と不安の混ざった瞳で師が渡した木枝を持ったオビ=ワンは、師のように槍をかまえ、何度か水を突き刺すしぐさをする。そうしてやや緊張した面持ちで水に入っていった。

 クワイ=ガンはゆっくりと濡れた足をふきながら、岩に腰掛けて弟子の様子をみていた。
魚のいる場所はわかっている。オビ=ワンは槍をかまえ、じっと水面をみつめている。やがて、それが魚めがけてくりだされた――らしい、が引き上げた槍の先には何もなかった。

 オビ=ワンは何度か、そうやって魚を捕えようした。が、そのたびに空振りに終り、がっかりした溜息と、礼儀を重んじるジェダイテンプル育ちらしからぬ悪態をつくのが聞こえる。


 クワイ=ガンは夢中になっている少年のそんな姿をおもしろそうに見ていたが、声を掛けた。
「そろそろ日が暮れる。川からあがるように」
少年はふりかえり、いかにもくやしそうに言う。
「もう少しで採れそうなんです。今惜しかったんです」
「魚の動きをよんで、一瞬前に突くんだ」

 弟子は軽く肯いて水面に視線を戻し、じっと水中を見つめる。やがて、短い気合で繰り出された槍は水に突き刺さり、両手を川に差し入れて慎重にそれを引き上げた先には、魚が付いていた。
「獲れましたっ!マスター」
師も笑顔で応えた。
「よくやった。あがってこい」
弟子は誇らしげに顔を輝かせ、自分の獲物をつかんであがって来た。

クワイ=ガンの前までくると、魚を見せようと差し出し、オビ=ワンは少しはにかんだ。
「少し小さかったですね」
「充分だ。さあ、火をおこして焼く準備だ」
「イエス、マスター」

 火をおこして焚火を燃やす。魚を獲るのも、串に刺してやくのも、実際、直火で魚を焼くなど始めて見る。オビ=ワンにはクワイ=ガンのする事、話す事の何もかも新しい体験だった。明るい青灰色の大きな瞳を輝かせ、師の表情や作業を見つめる。

 クワイ=ガンはオビ=ワンの何倍もありそうな大きな体躯で手も大きい。が、その大きな手でおりなすさまざまな動きは無駄がなく、流れるように優雅なしぐさだ。
オビ=ワンも師にならって木枝折ってを火にくべたり、魚に串をさしたりしたが、見ていると何の苦もなさそうにみえるが、なかなか難しかった。

「始めからうまくはいかないさ」
クワイ=ガンは笑っているが、オビ=ワンは自分がひどく不器用に思えて、師が内心がっかりしてるかもしれないと気になった。
が、魚が焼ける香ばしい匂いがしてくると、そんな心配もどこかに飛んでいった。

 水と魚と少しの携帯食と野いちごの夕食は、どんな食事よりうまかった。食べ終える頃にはあたりはすっかり暗くなり、星が出ていた。

 草をたっぷり敷き詰めた寝床はなかなかの寝心地だった。ローブを毛布がわりにバックを枕代わりにし、師弟は空を見上げて横になった。不夜城のコルサントでは見られない満天の星が頭上に輝いている。

「きれいですね。マスター」
「ああ、とてもぜいたくな寝室だろう。パダワン」
「はい、銀河中の星が全部僕達のものですね」
「あの星のひとつひとつの生き物の営みがあるが、こうしている分には素晴らしい眺めだ」
「マスターはずいぶんたくさんの惑星へいかれたんでしょう?」
「星の数に比べるとごく一部だが、お前もこれから一緒にいろいろは惑星へいくことになる。たいていはやっかいな任務がらみだ」
「マスターといっしょなら、どこへいっても多くの事を学べると思います」

 模範的は言い方だな、と内心思いながらクワイ=ガンはオビ=ワンを見た。闇の中で弟子の表情はうかがえない。
けれど、その口調で弟子が本心からそう言っているのはわかる。弟子になって間もない少年とは少しずつ慣れてはきたが、たいていはジェダイの弟子らしく、師に礼儀正しい。もちろんそうあるべきだが、もう少し打ち解けられないかとふと思うことがある。

 ときおり見せるいきいきした少年らしさや、変わり易い大きな瞳の輝きは忘れていた過去を思い出させる。オビ=ワンとなら、多分、いい関係を築いていけるだろう。今は少年の保護者同然だが、成長すれば信頼できるパートナーや友人になれるかもしれない。
今は素直な少年らしさを私が楽しんでいるのかも知れんな。

規則正しい寝息が聞こえてきた。
今日は動きづくめだったからな。
少年は少し横向きの姿勢で、こちらを向いて眠っていた。クワイ=ガンは口元に笑みを浮かべてそっと弟子の短い頭髪に手を触れた。

 そのとき、何か空気がゆらいだような不思議な感覚をクワイ=ガンは感じた。
すると、オビ=ワンがゆっくりと目を開けた。その瞳はクワイ=ガンが初めてみる色をしていた。暖かい愛情に溢れた青緑色の瞳が僅かに潤んで輝いている。薄い唇がかすかに開いて美しいカーブを描き、笑みを浮かべている。クワイ=ガンは衝撃を受け、息をのんだ。

弟子の頭に置いた手を引き、名を呼ぼうとしたとき、又、空気がゆらいだ。
ハッとして見ると、オビ=ワンは先ほどと同じく目を閉じて眠っている。

 今のは、確かにオビ=ワンだった。が、子供ではない、あの顔立ちは少なくとも青年だった。この子の将来の姿を垣間見たのだろうか。しかし、あの瞳はなんだろう。

――あれは、普通に人を見る眼差しではない。ごく親しい人、友人、いやあれは――。
豊富な人生経験はもつクワイ=ガンはジェダイでありながら、ヒューマノイドの人情や愛情表現を知っていた。

あれは、愛しい人、恋人を見つめる瞳だ。
オビ=ワンは誰を見つめていたのだろう?数年後にあの青年はあの瞳で恋人をみつめるのだろうか。

クワイ=ガンは頭を振った。自分はリビングフォースに長けていると言われてきた。予知能力はない。しかし、稀に、未来のビジョンを感じることがある。

オビ=ワンの将来のビジョンを感じたのは初めてだった。
師弟の絆が深くなっているのだ。

思いがけず、フォースによって選ばれた新しいパダワン。忍耐がなくて頑固で、そして勇敢で誠実な小さな少年。

 クワイ=ガンは再び手を伸ばし、弟子のブレイドを手に取った。
私の弟子の証。だが、あの青年の年頃にはオビ=ワンは自分の手元にいるだろうか。それとも一人前のナイトになって、愛する人ができるだろうか。

クワイ=ガンがしばらく眺めていると、オビ=ワンは軽くうめいて寝返りを打った。ずれたローブを掛けなおしながら、クワイ=ガンはそっとオビ=ワンの髪に顔を近づけた。

お休みオビ=ワン。
未来はわからないが、当分お前はわたしの弟子だ。そして、いつかあの瞳で見つめる人が現れたら――
クワイ=ガンは空を見上げた。自分はとうに真の家族を持つことはあきらめている。執着も恋もジェダイオーダーは認めていない。が、自然に芽生えた人を愛する心を否定するつもりはない。

 ――もし、成長したお前が誰かを愛したなら、師として祝福できるような間柄でいたい。

視線を戻すと、弟子の少年は無邪気な笑みをうかべぐっすりと寝入っていた。



END  


 ほのぼの師弟がかきたかったので。マスターは絶対アウトドアが似合います。それも野宿に焚火、タイプ(笑) ある映画雑誌でみたユ@ンのアップ、必殺上目遣い!あの瞳でマスターのみならず、宇宙中の腐女子のハート捕えちゃったんですね〜。
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