Cool!          ― 夏のお楽しみ ―
 
 その日、住いに戻ったクワイ=ガンは、一見、いつもとかわらぬオビ=ワンの笑顔に迎えられた、ように思ったが、顔をあげた瞬間、弟子の眉間に刻まれた皺の跡を見逃しはしなかった。

 ローブを受け取り、普段通りいといそと食事の支度をする態度も特に変わりはない。食事はなごやかにすすみ、デザートにカットフルーツの盛り合わせをすすめながらオビ=ワンは言う。

「申し訳ないんですが、課題がたまっているので、これからとりかかります」
「パダワンの本分は学ぶことだ。そんな時は食事のしたくなどしなくていいんだ」
「いえ、むしろ気分転換になります。新しいメニューを試すのも楽しいですしね」
「ほどほどにな。手伝えることはあるか?」
「ありがとうございます。下調べは済んでますので、あと少しで何とかなりそうです」

 椅子から立ち、食器を片付けはじめた弟子に近寄り、クワイ=ガンはその手を制した。
「私がやろう」
「マスターがそんなこと。すぐ済みます」
「お前が優秀で、たいてい自分でできることは承知しているが、私にも手伝えることをさせてくれ」
「――では、これをウォッシャーに入れていただけます。後はもう済んでますから」
と、言いながらも結局は二人で運び、片付けはすぐ終わった。

 自室に行こうとする弟子の肩にクワイ=ガンは軽く手をかけた。
その手をやさしく頬から額にすべらせ、そっと眉間に触れ、癒しをこめたフォースを弟子に送る。
「あまり根をつめ過ぎないように。パダワン」
「イエス、マスター」
クワイ=ガンはこんどは弟子の顎に手をかけ、軽く口付けを落とす。
「おやすみ。オビ=ワン」
「――おやすみなさい」
弟子は微笑んで、部屋に入っていった。


 翌朝、クワイ=ガンがリビングへ行くと、既にオビ=ワンは出かける支度を終えていた。手に何か果物を持っている。
「すみません、マスター。少し早めにでます。朝食は用意してあります」
「ああ、お前は食べたのか?」
「はい、軽く。――では、行ってきます」
かじった果物を呑みこみながら、弟子はあわただしく出かけていった。


 食事の後、クワイ=ガンはメイス・ウィンドゥの所へおもむいた。予想はしていたがある懸案について、互いに忌憚のない意見、――言いたい事を言いあい、何らかの妥協点、つまり互いにどこかで折れ、話し合いは終わった。
その後、メイスが煎れてくれた茶を飲みながら、先ほどとうった変わり、くだけた友人どうしの話にうつる。

「朝方オビ=ワンを見かけたが、深刻な表情をしていたぞ。いささかはりつめたフォースだったな。勿論きちんと挨拶していったが」
「課題の提出があると言っていた。緊張していたんだろう」
「お前そっくりの皺が寄っていた。眉間に」
クワイ=ガンは苦笑しながら、指で軽くそこを揉みほぐした。

 昼に食堂へ行ったが、オビ=ワンの姿はなかった。食事を終え回廊を歩いていると、バントとすれ違う。オビ=ワンの親友は礼儀正しく挨拶した。
「こんにちは。マスター・ジン」
「ああ、バント。その、オビ=ワンの課題の提出がどうだったか知っているかな」
「ええ、午前中に全部終わったって、さっきはごきげんでしたよ。昼は用があるので部屋に戻ると言ってました」
「ありがとう」

 クワイ=ガンが住いにむかいかけると、向うから当の弟子が歩いてきた。が、遠目にみると少し前かがみに早足で歩むその表情には、くっきりと縦皺が寄っている。

近くまできて、オビ=ワンは師のフォースに気付き、顔を上げると目を輝かせた。
「マスタッー!」
「ああ、オビ=ワン。――何かあったのか?」
「いえ、課題は皆提出しました」
「それならいいが」
「少し考え事をしていました。でも何も問題はありません」
「そうか。私は一旦戻るが、夕方用がある。食事までには戻る」
「わかりました。マスター」



 夕暮れ、クワイ=ガンが帰宅すると、珍しく弟子は迎えに出なかった。室内にオビ=ワンががいることはフォースでわかる。普段なら気配をさっするや、何をおいてもとんでくるオビ=ワンが。

 リビングに入ると、オビ=ワンが急いでキッチンから姿を現した。クワイ=ガンは思わず弟子の顔を見下ろした。眉間に皺は、寄っていなかった――。が、微かにただよう鼻をくすぐるきつい香り。
「おかえりなさい、マスター。すぐ食事にしますか?」
この香りは、と言いかけてクワイ=ガンは止めた。
料理にアルコールをつかったなら、食べる時に誉めたほうがオビ=ワンは喜ぶだろう。
「ああ、今日は何かな」
クワイ=ガンは肯きながら言った。


 オビ=ワンが運んできた料理は、数種類の材料を使った大量のサラダ。冷したじゃがいものスープ。あっさりした味付けのチキンソテー。パンとチーズ。
課題を全て提出し終えたオビ=ワンは終始、機嫌よく食べ、笑い、師の話に楽しそうに相槌を打った。が、料理のどれにも酒はつかわれていなかった。

「満腹だ。今日の料理は格別だな。ワインを開けたほうが良かったかな」
「ワインはいいでしょう。まだとっておきのデザートがあるんですよ」
オビ=ワンは料理の皿を運んでキッチンに消え、少ししてトレーを持って現れた。
ガラスの器の中には、フルーツを彩りよくちりばめた半透明のゼリー。


 ほう、とクワイ=ガンは目を見張った。

「お前がつくったのか?」
弟子は照れくさそうに笑った。
「見かけは成功なんですが、味はどうでしょう」


 フルーツゼリーはよく出来ていた。容器ごと冷してあり、すくうと甘味を押さえた冷たいツルリとした食感がのどを滑る。数種類のフルーツとの取り合わせも心地良い歯ごたえがある。味もさることながら、香り高いリキュールがいっそうの食欲をそそる。
「素晴らしい出来だ!」
「お気に召していただけて、苦労したかいがありました」
弟子は心底うれしそうににっこりした。

「涼しげなデザートをと思いまして、以前食べた店のを思い出してチャレンジしました」
「課題の提出もあったのに、無理をしたんじゃないか」
「あれは量が多いだけでたいしたことありませんでしたから。それよりゼリーの方が苦労しました。トラブル続きで――」
「どういうことだ?」

「慣れないもんで、うまく固まらないんです。レシピ通りにしても。それにアルコールを入れたんで分量がよくわからなくて。昨日から何回もやり直して――」
「お前……」
「今朝みたらやっぱりちゃんと固まっていないんです。課題の提出の後、アーカイブで調べて型に入れる前に冷ませでばいいとあったんで、うれしくて、昼に戻って再度試してみたらまだだめで、あの後、マスターにあったんでしたっけ。帰ってフリーザーをのぞいたら、驚いた事にちゃんと固まっていたんですよ。昼は時間がたりなかったんですね」

 一気にまくしたてる弟子を見ながら、ジェダイマスターは眉間に寄った皺をもんだ。
「――わたしの弟子の、料理にかける情熱は並ではないと思っていたが」
「マスター……?」
「最後まであきらめない事はよくわかった。失敗作もだいぶあるんだろ」
「ええまあ、実は別の種類もあるんですよ。味見していただけます?」
 
 師が肯くのを見た弟子はキッチンへ飛んでいき、大皿に持った色とりどりのゼリーの盛り合わせを持ってきた。

「いろんなフルーツジュースでつくった、シンプルなキューブゼリーです。香料の他にそれぞれワイン、リキュール、キュラソー、ショーチューも入ってます」
目を輝かせて説明する弟子を見ながら、クワイ=ガンは鮮やかなオレンジ色の半透明のゼリーを口にする。
「うまい。オレンジの香りと、アルコールもけっこうきいているな」
「それはコアントロー入りです」
オビ=ワンはうれしそうに、自分もキューブゼリーを食べ出した。


 結局、大皿の大半のゼリーはオビ=ワンの胃に納まった。
かなり度数の高いアルコールが含まれていたはずなのに、オビ=ワンの顔色はほとんど変わらない。屈託ない弟子の笑顔にクワイ=ガンの愁眉も開く。――まあ、取越し苦労だったわけだ。

 食事の後、弟子は自分がすると言いはり、後片付けを手伝わせなかった。いささか手持ち無沙汰で待っていたクワイ=ガンは、オビ=ワンがキッチンから出てくると立ち上がって迎えた。

 背に手を回して抱き寄せると、オビ=ワンはおとなしくされるままになっている。クワイガンは身を屈めてやさしく弟子の唇を奪った。

「酒くさいぞ」
「いろんな種類つかいましたからね。マスター秘蔵のブランデーもちょっと――」
「何だって!?」
しまったとばかりに、オビ=ワンは小さく舌を出して見せた。
真面目な弟子の、いつにないあっけらかんとした明るさにクワイ=ガンはまたも眉をひそめた。

「酔っているな……」
「そうですかぁ。別になんとも」
「どうしたものかな。いっしょにシャワーでも浴びるか」
長身の師を上目使いに見上げたオビ=ワンは、いやいやするように首を振った。
「オビ=ワン?」
「すっごく眠くて。すみません、マスター」
頬をほんのり染め、うるんだブルーグリーンの瞳で懇願するように見上げてくる。
クワイ=ガンはぐっと抱き寄せたい衝動を、無理やり押し込めた。

「今日は、早く寝なさい」
腕から話した手を背にあて、弟子の部屋へ促す。
オビ=ワンはおとなしく自室に入ろうとしたが、扉の前で立ち止まり振り向いた。
にっこり笑って、ふいにオビ=ワンは手を挙げ、師に投げキッスを送った。
「!!」
そのままくるりと背を向け、素早く扉を閉めて部屋に入っていった。唖然とする師を残して。
「――ったく心臓によくない」
クワイ=ガンの眉間の皺はいよいよ深くなった。



END

 クワオビ師弟、本編では眉間の縦皺!がおそろいのトレードマーク。ユ@ン自らクールな師弟だろ〜とか言ってました。このSSは、オビが天然というか、師匠がへたれというか――。って全然クールでも何でもないじゃん。あ、ゼリーはよく冷したほうがクールでおいしいですね。
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