Rescue ※ AU設定(マスター存命&オビは騎士昇進)
 遠くで爆発音がした。一拍おいてこの古い建物の地下にも振動が響いた。ややあってブラスターの音、さっきより近い。おそらくこの建物の回廊あたり。

 クワイ=ガンは瞑想を止め、目を開けた。ブーツの音を響かせ足音が近づいてくる。階段を駆け下りこちらへ向かっている。
姿を見ずとも、それが誰かクワイ=ガンにはわかる。長い間側にいてあの頃は自分の一部ともいえた彼のフォース。

 扉の前で足音が止まった。
「クワイ=ガン、マスター?」
「ああ、私だ」
「一人ですか?今、開けます」
戸の隙間からライトセーバーの青い光が一瞬射し込み、ガチャリと金属が外れる音。
片手にライトセーバーを構え、足で重い金属の扉を蹴って男が姿を現した。

 男の顔に安堵の表情と笑みが広がる。もう、若者とは言えない年齢のはずだが、その輝くような笑顔は、男のパダワン時代を思い出させるほど若々しく、クワイ=ガンは一瞬目を見張った。

 クワイ=ガンは硬い粗末なベッドに腰掛け、瞑想していた姿のまま、顔を上げてジェダイナイト・オビ=ワン・ケノービを見上げた。

「ご苦労だったな」
オビ=ワンは素早くクワイ=ガンを一瞥し、両手首とくるぶしに金属の枷がはめられ鎖でつながれているのを見て眉をひそめた。
「すぐ外します」
オビ=ワンは前により、屈んでクワイ=ガンの手を取り手枷を確かめた。
「この金属ならライトセーバーの出力を調整して切れます。手を広げていただけますか」
「その必要はない」
「え?」

 けげんな顔で聞き返すオビ=ワンに、クワイ=ガンは口元に笑みを浮かべ、片手でもう一方の手首の手枷を軽くひねった。あっけなく金属の輪ははずれ、音を立てて床に落ちた。ついでもう片方の手。それから足枷と、見る間に枷を外し終えた。

「フォースですか…」
「いや、ちょっとばかり手を加えていつでも外せるようにしておいた。牢番に見つかると面倒だから付けていた」
さて、とクワイ=ガンは立ち上がった。
「ブーツを取ってくれるか。ああ、その角だ」
「――マスター」
「私のライトセーバーはオビ=ワン?」
オビ=ワンはあわてて、ベルトからもう一本のライトセーバーを取り出した。

「牢番の部屋にありました。あ、ところでマスター」
「もう、マスターじゃないだろう。ナイト・ケノービ」
「今はそんなことどうでも――、とにかく、あなたの身体の具合を確かめさせてください」
「見ての通り、若干運動不足だが歩くのに差しさわりはない」
「わかっています。只――」

 オビ=ワンはそれ以上言わずに、クワイ=ガンの両腕に腕に掛けた。立ち上がった長身のクワイ=ガンを少し見上げるようにしながら、眉間に軽く皺を寄せ己のフォースを集中させ、元師のフォースを確かめる。

「食事はとっていたんですか?」
「身体がもつほどにはな」
オビ=ワンがクワイ=ガンがまとっていたローブを外すと、滲んだ血で汚れたチュニックが現われ、いっそう眉間の皺が深くなった。

「弾が貫通してますね。見せてください」
「化膿はおさえてある。それよりここを出よう。お前一人できたのか」
クワイ=ガンの袷に手をかけ開けようとしていたオビ=ワンは、それを聞いて我にかえったように肯き、あぁ、と息を吐き出した。

 こちらです、と先に立って足早に先導する。
「建物全体が古くて、元々敵を捉える目的なので、ごていねいに迷路になっています。いたるところに罠や隠し扉がある」
「――静かだな」
「警備ドロイドと数人の牢番だけ、ここは手薄でした。今頃大統領府はかきあつめられた兵であふれかえっているでしょう」
「誰かいっているのか、ジェダイは?」
「ナイト・ムランが調停書を届けにいっています。いくら兵を集めても政府は調停に応じるしか道はありません。人質もいませんしね」
「では彼らは無事逃げられたのだな」
「ええ、あなたが身代わりになってくれたので、共和国使節の代議員は全員無事に脱出しました」
「けっこう」
「おまけに、あなたがわざと時間かせぎをしてくれましたからね」
「――そう強調するほどではないと思うが」
「いいかげんに無茶をしないでください」
「オビ=ワン」

 あ、こちらですとオビ=ワンは向きを変え、横の階段を上り始めた。
「あのまま進めば、床が沈む罠になってます」
「何ともクラシックな造りだな。残念ながら中を見て回る機会はなかった」
そうでしょうとも、とオビ=ワンは振り返ってクワイ=ガンに言う。
「脱出してきた代議員から連絡がきたのが5日前。あなたが拘束されてから3日後です」
「ここにいたのが8日間だから計算は合うな。10日もして動きがなかったら脱出するつもりでいた」

 オビ=ワンはクワイ=ガンの顔をまじまじと見、吐息を漏らした。
「――では、これ以上面倒になる前に何とか間に合いましたね。おかげで私は辺境から帰った足で宇宙船を乗り換え……。いえ、こんな事どうでも、あ、そこ上が低いですから気をつけて」
話をそらしたオビ=ワンにクワイ=ガンは軽く片眉をあげたが、黙って言われるまま低い天井を避ける為頭をかがめた。


 狭くて急な石段を登り切る手前でオビ=ワンはふいに足を止め、壁に身体を貼り付けた。
空を切って目の前に電動斧が振り下ろされた。オビ=ワンは身を低くして一撃をやり過ごしたかと思うと、すばやく石段に続く通路に飛び出していった。
クワイ=ガンに待っていてくださいと早口で言い残して。

 炸裂するブラスター音と、電動斧の振動、オビ=ワンの動きにつれてライトセーバーの青い光がすばやく軌跡を描くのが下からの視界に入る。

 クワイ=ガンは先ほどオビ=ワンがいた位置で同じように壁に脇を付け、己のライトセーバーの柄を握ったまま、姿を見なくてもオビ=ワンの鮮烈な戦いのフォースを感じていた。


 時間にすればものの数分。静かになった気配にクワイ=ガンが通路に出て行くと、オビ=ワンはちょうどライトセーバーを腰に戻したところだった。
「警備兵が二人とドロイドが3体か」
足元に転がっている気絶した姿と、破壊されたドロイドの残骸を目にしてクワイ=ガンが呟く。オビ=ワンは黙って肯いた。
「――このままで差し支えないでしょう。多分この上の階に行くと地上にでられます」
 

その言葉通り、二人はすぐに建物の出入り口にたどりついた。破壊された厚いゲートをくぐり戸外に出る。建物の周囲は深い木々に囲まれた森だった。
一瞬たちどまって周囲を確かめたオビ=ワンは、クワイ=ガンを振り返り、大丈夫というように小さく笑みを浮かべた。
「乗物はこちらです」

 うっそうとした木々の間を通り抜けたところに、スピーダーが目立たぬように停まっていた。
クワイ=ガンが乗り込むとオビ=ワンはすぐに発進させた。
「宇宙港へ向かいます」
「待て、大統領府へ行くんじゃないのか」
「あなたをヒーラーに見せるほうが先です」
「オビ=ワン!」
「ムランと連絡をとります」


 ややあって、通信を終えたオビ=ワンはクワイ=ガンに告げた。
「政府は調停に応じると約束しました。テンプルから共和国元老院の親書を送っておいたのが効いたんですね。ムランもよく交渉してくれました。3時間後に会談が始まるので、あなたを送った後、私もそちらへ行きます」
「――私はおいてけぼりか」
オビ=ワンは溜め息をついた。

「少しはご自分の身体を考えてください。今あなたに必要なのは、ちゃんとした治療と充分な休息です。フォースもいつものようではありません」
「――はっきり言ったらどうだ。弱った怪我人だと」
マスターッとオビ=ワンは声をあげた。

「お願いですから、おとなしくしてて下さい。あなたを救出するのに私は――」
言いよどんだ元弟子をクワイ=ガンが促す。
「さっきも言いかけたな。もう、私は無事に救い出されたから言ってもいいんじゃないか」
オビ=ワンは口の中で小さく悪態をつき、しゃべりだした。

「とにかくですね。テンプルへ帰る途中の船へ緊急の連絡が入り、到着してまっすぐ評議会へ駆けつけてあなたが拘束されたと聞き、そのままこの惑星に向かう宇宙船に乗り込んで、途中で詳細を聞き、対策を協議し、調停案をまとめあげ、あなたの監禁場所を調べて図面を手に入れ、アナキンは遠くにいて間に合わないので、ナイトになったばかりのムランとチームを組んで、彼に指示して兵を向こうに集めさせ、こちらを手薄にさせたんです」
「けっこうな手順だ」
「元の師の仕込みがいいですからね」
オビ=ワンは皮肉っぽく口元を歪めて返すと、挑むようにクワイ=ガンの目をみた。

「ヒーラーの言うとおりにしてくれますね」
そのブルーグリーンの瞳に浮かぶ決意におされ、クワイ=ガンも苦笑しながら肯いていた。
クワイ=ガンの承諾を確かめたオビ=ワンは、うって変わった明るい笑顔を満面に浮かべた。

  つられるように顔をほころばせたクワイ=ガンは元弟子に小声で言う。
「心配をかけたな」
「マスター」
「ありがとう。オビ=ワン」
「――どういたしまして。いや、そんな素直に言われると」
「なんだ。いつも私はよほどひねくれているみたいじゃないか」
「もう、勘弁してください」

 先ほどは強気だったオビ=ワンが困ったような声を出す。その表情を見たクワイ=ガンがおかしそうに笑い出した。オビ=ワンも又はじけるような笑い声をたてた。

 ひとしきり声をあげて笑ったあと、目が合った二人は優しい笑みを交わす。
「――髭がのびているぞ。オビ=ワン」
「少し前から伸ばしてるんですよ。あなたを見習って少し貫禄をつけようと」
「お前が髭を」
クワイ=ガンの肩が小さく震えた。
「笑いましたね」
オビ=ワンも目元に笑いを滲ませ、そっとクワイ=ガンの乱れた長い髪に手を触れた。

「長髪は回りからあなたのようには似合わないといわれ、あきらめました」
クワイ=ガンは己の肩に伸ばされたオビ=ワンの手をとり、口に持っていった。そのまま指先にひとつひとつ口づける。

「マスター……」
「久しぶりだな。ナイト・ケノービ」
「あなたの前ではいつでもオビ=ワンですよ」
「いいや、お前はとっくに他を指導できるジェダイになった」
「あなたの教え通りにしているだけです」
オビ=ワンの手を離したクワイ=ガンは、次いで元弟子の頬をやさしく手で包み込んだ。

「髭の伸ばすようになど教えなかったぞ。それにお前ときどき文句を言ってたじゃないか」
「え?」
「ちくちくしてくすぐったいとか痛いとか」
二人は見つめあいながら、頬がふれそうなほど近づいていた。

「ああ、確かに」
オビ=ワンは囁きながら、そっとクワイ=ガンの口元についばむように口づけた。
「ここ以外はね」
少し顔を離し、瞼を伏せたオビ=ワンに今度はクワイ=ガンが口づける。
そのまま軽く触れあわせたまま久々の互いの唇の感触を楽しんでいたが、僅かに開かれたオビ=ワンの唇にクワイ=ガンの舌がしのびこんでいく。二人はしっかりと抱きあい、長い口づけになっていった。

 やがて、顔を上げたオビ=ワンは息をしながら静かにクワイ=ガンの胴のあたりをさすった。
「傷にさわりませんでしたか?」
「いや」
「――あなたが、無事でよかった」
囁くように紡がれたその一言が、クワイ=ガンの心に染み渡る。
「見事な救出だった」
オビ=ワンは照れたような表情を浮かべると、体の向きを変え、自動操縦になっていた計器に目を走らす。

「もうすぐ着きます。何とか無事あなたを連れて帰れそうです。――もし、又こんな状況になったら、姿を見つけたら絶対に最後まで離れないと決めていました。以前は未熟でそれが出来ませんでしたから」
「どういうことだ?」
「パダワンだった頃にあなたが拉致された事がありましたね。あのときは監禁された場所もわからず、只やみくもに動き回って、やっと見つけたのに敵に見つかって出直し。救い出した後も弱っているマスターは任務遂行の為動き回りましたね」
「そんなこともあったが、ずいぶん前だな」
「自分の未熟さに歯噛みする思いでした。あなたがなんと言っても、救出したらそのまま連れ帰るつもりでいました。だから今回は、万全を期しました」
「オビ=ワン……」
「宇宙港が見えてきました」


 半日後、オビ=ワンはテンプルでも評価の高い卓越した交渉手腕で政府との調印をまとめあげ、その日のうちにこの惑星を後にした。

 オビ=ワンは静かにクワイ=ガンの船室に入ってきた。
ヒーラーも引き上げ、長身の男はスリーピングカウチに身を横たえていた。

「バクタタンクをすぐ出てしまわれたようですが、よくヒーラーが許可しましたね」
「傷が案外軽かったんでな。今さら跡が残るのを防ぐ為タンクに長時間入る必要もないだろう」
オビ=ワンは意志の強さが伺える元の師の横顔を見ながら、苦笑を浮かべた。
「あなたらしい。ただ、体力が回復するまでしばらく安静、というのだけは聞いてくださるでしょうね」
「――テンプルに戻ったら療養に努めよう」
「本当ですか?」
「ああ、私ももう年だからな」
「にわかには信用できませんが――」
「少し休暇をとってもいいな。どこか静かなところで」
「けっこうですね」
「お前も一緒にいかないか」
クワイ=ガンは上半身を起こし、傍らのオビ=ワンにさりげなく話し掛けた。

 え、と目を見開いたオビ=ワンは少し考える仕種をし、すぐにうれしそうに微笑んだ。
「評議会との交渉しだいですが、最近私も長い休みをとってないので、お供したいですね」
「加勢してやろうか」
クワイ=ガンの目が楽しそうに笑っている。
ええ、と答えながらオビ=ワンはそばに寄ってカウチに浅く腰かけた。
かつてのように上目遣いで元の師に囁く。

「あなたには誰もかないませんよ。マイマスター」
クワイ=ガンは黙ってオビ=ワンを抱きよせた。

END

 ドリーム設定ですが、ナイトになっていくらか(?)たくましくなったオビと変わらないマスター。――バカップルぶりは健在なようで(笑)
尊敬して止まない「越後屋サイト」最強メンバーズ様につつしんで献上奉ります。あちらさまのAUは本当に素適です。で、私もつい…


越後屋の最強用心棒 俵さまが何と、このSSにイラストをつけてくださいました。マスターの横顔の何て素適なこと!そして見詰め合う二人の視線……。、もう、もう、もう、言葉なんていらな〜い。感涙にむせぶのみです!!
本当に本当にありがとうございました。

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