Birds and The Knight
「鳥が襲う?」
評議会室で次の任務の内容を聞いた、ジェダイマスター・クワイ=ガン・ジンの眉が怪訝そうにひそめられた。

 うむ、と褐色の肌の評議員メイス・ウィンドゥが肯く。
「数え切れない鳥の大群が人を襲ってくる。惑星政府も考えられる限りの手を打ったが、どうにもお手上げ状態だそうだ。このままでは多数の人命に係わる」

 平和な惑星ローマンに突如起こった不思議な事件。セキュリティの為、人里はなれた静かな海岸に作られた政府のエネルギー研究所。岩礁にあるため、満潮の時は孤島と化す。

 一月ほど前、突如そこへ出入りする者を野鳥の群れが襲ってくるようになった。
始めは、なんとか銃等で威嚇して追い払っていたが、日ごとに数が増え、建物や辺り一帯がびっしりと鳥の姿でおおい尽くされる有様となった。

 飛行艇の発着場のわずかな隙にも入りこみ、乗物のドアを開けようものなら鋭い嘴で攻撃してくる。
身の危険を感じた職員達は脱出を試みたが、すでに手遅れだった。それ以来、軟禁状態になった。幸い宿泊設備や物資の備えはあったが、いつ終るともしれない恐怖に緊張が続き、内部はパニック状態になっていた。


「これに詳細なホロやデータが入っている」
クワイ=ガンはメイスから渡されだディスクを、後ろに控えていた弟子のオビ=ワンに手渡した。
「準備が出来次第、明日にでも出発しよう」
「うむ。鳥達は人工のドロイドや飼育されている種類では無く、まったくの野鳥だそうだ。一度砲撃したが数羽しか落とせなくてな。それらを調べたら、絶滅に瀕してる貴重な種も混じっていた」
「ほお」
「鳥類保護の立場からも関係者は頭を痛めている。要は、鳥達が襲う原因を探り、危険がなくなればいいのだ」

「クワイ=ガンよ」
メイスの背後で椅子に座していたヨーダが呼びかけた。
「この依頼を聞いた時、思ったのじゃがな」
「何です?」
「秀でた者が適任と思うたのじゃ。リビング・フォースにな」
「……」
「おぬしならできそうじゃの」



 あれから数日後、師弟は研究所近くの海岸にいた。データから、一定の距離以内に近寄らなければ安全ということは判っていた。近くのコテージに滞在し、昼は海岸に簡易テントを設けた。

「数にしたら何万、いや何十万でしょうね。確かに何種類も混ざっている」
高倍率のスコープで群れを観察しながら、オビ=ワンが言う。

「通常なら通り過ぎてしまう渡り鳥の群れが、皆ここに集まったらしいな」
「そういう訳ですね」
「原因を探るには、人為的に操られているか、鳥の生態系に何らかの刺激を受けて襲うのか。両方の可能性を調べる必要がある」
「人為的でいえば、超音波などが考えられますが」
「そっちの進み具合はどうだ?」
「今、レーダーのリポートを分析中です。このあたりはけっこういろんな電波を受信できますね。少し時間がかかりそうです」
「もう一つの可能性は、と」

 クワイ=ガンは専門家から提供された膨大なデータに目をやった。
「時間がないんだ。いちいち検証してもいられん。いっそ――」
「何です?」
「鳥に聞いたほうが早いだろうな」
「マスター!?」
「冗談だ」
 

 夕暮れ、師弟は波打ち際を歩いていた。日中は鳴き交わしながら、餌を取るためか忙しく辺りを飛び回っていた鳥達も、今は次第に研究所の周辺に羽を休めていた。が、ひとたび近づこうものなら、どんなに慎重にしても、察して襲って来るのだった。


「普段は静かできれいな海岸なのに」
オビ=ワンは、鳥の群れに埋ったように見える研究所に目をやった。
あの中では多くの人たちが恐怖に震えながら、救出を待っている。

「進み具合はどうだ?」
「一応済んだんですが、気になる点を専門家に送って問い合わせ中です。通常見られないパターンなんです」
「そうか。ところで、この件で利益を得る者がいると思うか?」
「そうですね。実はデータに内部告発の記録があって――マスターッ!!」
オビ=ガンはすばやく身体の向きを変え、腰のライトセーバーに手を掛けた。

1羽のカモメが低く飛びながら、ゆっくりとこちらへ近づいてきたのだ。

その白い鳥は襲うというより、力なく飛んできたように見えた。クワイ=ガンは鳥に向かって腕を伸ばした。

 オビ=ワンが驚いて身構えるより速く、カモメは長身の男が差し伸べた腕に足を付き、次いで羽を下ろした。


「大丈夫ですか?」

「ああ、私のほうが進路妨害したかもしれんな」
クワイ=ガンは腕に止まったカモメの黒い目を見つめた。

 キョトキョトと警戒するように視線を動かしていたカモメは、危険はないと判断したのか、長い翼をたたんで胴にぴったりと付けた。

「いい子だ」

 クワイ=ガンはもう一方の手の平でカモメの背をやさしくなでた。

「やすむ場所を探していたのか?」
怪我などしていないか、慎重に鳥の様子を調べたクワイ=ガンは、それが済むと、すっかりおとなしくしているカモメをローブでくるんだ。

「どうするつもりですか?」
「怪我はないが、元気がない。腹をすかしてるらしいな」
「拾い物、いえ、保護するんですか?」
「暖めてやって餌をやれば、良くなるだろう」
クワイ=ガンはカモメをローブに包みこんで、歩き出した。


 二人はコテージに戻った。オビ=ワンが鳥の餌を用意している間、クワイ=ガンは、念のため備えておいたケージにカモメを入れ、暖かくしてやった。オビ=ワンが整えた簡単な食事を食べ終わる事には、カモメも餌を食べ終え、すっかり安心したように身体を丸めていた。

「体力が回復すれば大丈夫だろう」
「この鳥は、どうして襲わなかったんでしょうね」
「疲れて群れからはぐれたようだな。今は北へ渡る時期だから」
「――マスターはずいぶん、鳥に詳しいですね。データを全部覚えたんですか?」
「いや、何となくわかるんだ」
その時、オビ=ワンの通信機が鳴った。



 先ほど問い合わせた電波の専門家からの返答だった。肯きながら聞いていたオビ=ワンの表情に序々に緊張が増していく。
やがて、礼を言って通信を終えたオビ=ワンはデータパッドを取り上げ、操作し始めた。

「何だ?」
「今の内容をファイルで送ってくれるそうです、ああ、届いた」
つまり、と開いたデータを示しながら話し出した。
「非常にキャッチしにくい特殊な超音波が見られたのですが、鳥類が感知する範囲の周波数なんです」
「何者かがこの周辺にその超音波を流しているというわけか?」
「可能性はあります。現在、急遽、鳥類研究所でその超音波を使った実験を始めたところです」
「鳥が攻撃的になると証明されたら、大きく前進だな。あとは発信元の特定か――」

 突然、鋭い鳴き声が上がり、ケージの中のカモメが飛び上がった。羽を広げようとして狭いケージに遮られ、もがく。それでも羽を激しくばたつかせ暴れ続ける。目つきは鋭くなり、嘴をさかんに動かしている。

「どうした!」
 駆け寄ったクワイ=ガンが何かに気付いたかのように、動きを止めた。が、すぐにフォースで壁に掛けてあった自分のローブを引き寄せ、ケージの上からすっぱりと覆った。それでもカモメはしばらく暴れていたが、やがて、次第におとなしくなっていった。

 驚いて様子を見ていたオビ=ワンが、静かになったケージを指して、クワイ=ガンを振り返った。
「覆いを取って、様子を見ましょうか?」
「いや。もうしばらくそのままにしておこう。今は落ち着いたので大丈夫だ。それより、鳥類研究所と連絡をとろう。実験の結果が出たはずだ」

 クワイ=ガンの言葉通り、鳥が攻撃的になる特殊な超音波と実証された。
「発信元を突き止めれば、解決するかもしれません。マスター」
「出来るだけ早くしたいものだ。鳥たちには何の罪もない」


 次の日、超音波の発信元の場所が判明した。が、それは何ヶ所もの海上基地を経由した手の込んだものだった。数日後、ジェダイの助言と専門家達の努力で場所が特定された。なんと、惑星の首都の中心地にある民間のエネルギー供給会社だった。急遽師弟はそこへ向かい、警察と共に、たいした抵抗もなしに該当者を逮捕した。

 エネルギー供給で多大な利益を上げているその会社は、研究所の最新研究を手にするため、賄賂を使っていた。研究所の内部告発で明るみになることを恐れ、又、研究の妨害のため、エネルギー研究所の壊滅を企んだのだった。


慎重に電波が停止されると、研究所を取り巻いていた膨大は鳥たちは人を襲うのを止めた。そして、次第に同種類ごとに鳴き交わしながら、群れをなして空へ舞い上がった。やがて、空を一面に染めた鳥の群れは、静かに北を目指して飛び去っていった。

長い間、堅く閉じらていたエネルギー研究所の扉が開けられ、おそるおそる人々が姿を現した。不安そうな眼で辺りを見回し、襲ってくる鳥の姿が見えないことを確かめ、一斉に歓喜の声があがる。待ち受けた家族や関係者と抱き合い、喜びに浸った。


 翌日、早朝の海辺に師弟はやってきた。オビ=ワンが下げたケージには元気になったあのカモメがいた。
「あの騒ぎが嘘のようですね。マスター」
話し掛けながら、弟子はケージを砂の上に置いた。

 クワイ=ガンが扉をあけ、うずくまる鳥をそっと両手で包み、外に出した。そのまま立ち上がり、腕に止まらせた。

 さて、とクワイ=ガンが優しくカモメの背をなでた。
「長旅だ。元気でな」
「マスター、最後に少しだけ、餌をやってもいいですか?」

 クワイ=ガンが肯くのを見たオビ=ワンは、餌を取り出し、カモメに与え始めた。

 すると、いつの間にか寄ってきた数羽のカモメが、あきらかに食べ物を求めてオビ=ワンに飛び掛ってきた。

 驚いたオビ=ワンが餌を一かたまり握って放り上げると、一斉に飛び立ち、われ先にと餌をとりにいく。

「悪いけど、そんなにたくさんはないんだよ」

 オビ=ワンは何度か餌を高く飛ばし、そのたびに鳥たちが飛び回る。
 クワイ=ガンは目を細めてその様子を見ていた。

 程なくして、食べ物がつきたことを察したカモメ達は高く飛び始め、師弟に保護されたカモメも翼を羽ばたかせて飛び上がった。二人を見下ろすかのように何度か羽ばたいて、短く一声鳴き、やがて高く飛んで、仲間の群れに溶け込んでいった。

「礼を言ってたんですか?」
「そうだ」
断言した師の言葉に、弟子はもう驚かなかった。

 

 オビ=ワンはカモメ達が飛び立っていた空を見上げ、両手を高く差し伸べ、大きく潮風を吸い込んだ。
空を見上げたまま、マスター、と言ったオビ=ワンは一旦間を置き、次の言葉を口に出した。
「セラスィが言ってたんです。今度生まれたら鳥になりたいって」
「セラスィが?」

 弟子の口から出た思いがけない名前に、クワイ=ガンは驚いた。
かしこくて勇気ある優しい少女、誰よりも平和を願いながらも、惑星メリダ/ダーンの戦いの犠牲となった若い命。オビ=ワンは、いわば彼女の為に、一旦はクワイ=ガンを、いや、ジェダイになる道を捨てた……。

「鳥のように飛んで空から下を見たら、きっと、みんな戦いなんてしたくなくなるって言ったんです。そうして、豊かな緑の大地を作りたくなるに違いないって」


――それは飛行船じゃできないの。オビ=ワン。鳥になって自分の翼で飛ぶの。風を感じ、木陰で休み、澄んだ泉の水を飲む。人間も鳥も、私たちは皆自然の一部だって感じられる。決して、故意に人や生き物を傷つけたりしない――。


「セラスィはとても大切なことを教えてくれました。自分の生きる道がジェダイしか無いとはっきり自覚したのも、彼女のおかげです。マスターの元に戻れるはずが無いと言ったら、セラスィは言ったんです。その気持ちをマスターにはっきり告げなさい。未来は決っていないんだからって」


「パダワン」
クワイ=ガンはオビ=ワンの肩に手を掛け、自分の方を向かせた。
「セラスィを愛していたんだろう?」

 深い青の瞳に見つめられ、オビ=ワンは思わず息を呑んだ。
「彼女はお前に大切な事を教えてくれ、命の一部を託して、私のもとに返してくれたんだ。とても、感謝している」
クワイ=ガンは手を伸ばしてオビ=ワンを引き寄せ、そして優しく胸に抱きしめた。

「マスター……」
「愛している。いつか、命がつきても、私はお前の中で生き続ける」
見上げるオビ=ワンの胸に、暖かいものが溢れてくる。
オビ=ワンは黙って、クワイ=ガンのふところに頬を埋めた。
ありったけの想いを込めて。
――愛しています。マイマスター――



End
 アリさまのサイトの素晴らしいイラスト。マスター決ってるわ!!と興奮していたのですが、いざ話を付けようとしたらこれが結構思い浮かばない。
 鳥話(?)う〜ん、師弟の日常等はたいていすぐ妄想が膨らむのに。カモメとクワオビの接点、なんだろう……。海辺で楽しくたわむれる、という雰囲気より、マスターが素適でしたので、いつの間にか動物好きで鳥の気持ちがわかる(?)マスターということに。そんな気、しませんか。
 セラスィの事はJAのネタばれです。この頃のオビはとってもかわいそうでした。意固地マスターと中々仲直り出来なくて、読んでてやきもきしました。セラスィは少年オビの淡い初恋だったかも。彼女が鳥になりたいと言ったのは、捏造です〜。

アリさま、こんな話でよかったでしょうか…。本当にありがとうございました。

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