A Train Trip ― 列車で行こう ― 
「マスターッ、マスターッてば!」
弟子が声を荒げて、コックピットに飛び込んできた。コンソールパネルをチェックしていたオビ=ワンは己の弟子を振り返った。

 身長と体格は大人並みに成長したアナキンだが、端正な顔を歪め、いかにも不満そうに下唇を突き出した表情は、わがままな子供そのままだ。

「なんだ、パダワン。そんな大声を出さずとも聞こえる」
「だって、これから行く惑星ジェイアールは移動にスピーダーや飛行船を使わないで、ほぼ鉄道なんて、冗談でしょう」
「いや、惑星全体がそういうシステムなんだ。お前、テンプルを出る前に調べたはずだろう。何で今頃騒いでいるんだ」
「任務でいくつもの惑星を回るんですから、下調べも手が回りませんよ。前の任務が終わって、やっとこれから行く星を調べ始めたんですから」

 オビ=ワンは自分の準備不足を棚に上げ、いいわけすらしない弟子を見ながら、溜息を吐いた。

「惑星ジェイアールは気流と地形が複雑なんで、飛行船輸送がしにくいんだ。大陸が一つだし、鉄道網が発達してるから住民は特に不便もない。空港は主に他の惑星間用だ。それに今回の任務は首都だけだから関係ないだろう」
「だからと言って、空港からトロトロした地を這う乗物に長時間乗れっていうんですか。勘弁してくださいよ」
「空港と首都間の最新型のリニアは確か時速500キロぐらいだったな」
「え――と、とにかく、僕らじゃなくても、誰か他のジェダイでいいじゃないですか」
「今さらそんな理由で変更できるか」
押さえつけるように言い切られ、弟子は口をつぐんだ。

 オビ=ワンは操縦席を立ち、宇宙船のラウンジに向かった。テーブル上のデータパッドのアナキンが見ていた画面に眼をやる。
「この蒸気機関車は今は走っていないはずだぞ」
「え、だって最新の情報ですよ」
オビ=ワンはデータパッドを操作し、情報を確認する。

「ああ、イベント用の期間限定特別列車だ。SLは今だに根強い人気があるので時々運行されている」
「そうだったんですか。それにしても煙を吐く機関車のどこがいいんですかね」
「その力強さとボディのクラシックな形態、走行中のリズミカルな響きがなんともいえんそうだ。ホロにしても絵になる、とある」
「ふうん。では、今普通に走っているのはどの列車ですか」
「移動の主力は新幹線だな。初めて走った時は超特急とうたわれ画期的は速さといわれたが、改良が重ねされて、いまは当初の倍近い速度がでる。路線も随時延長されてる」

 オビ=ワンは画面を操作し、いくつかの画像を表示させた。

「これが初期の車両。列車名は『HIKARI』や『KODAMA』。これから次第に改良が加えられた」
「確かに始めよりはラインがシャープでスピードが出そうですね」
「長距離用に、より高速の『NOZOMI』も出た。最近は初期に比べてずいぶん形が変わっている」
「何ですか、この変てこな形。全然スマートじゃない」
「先頭車両のフォルムが一新したんだ。工学的にはスピードが出て走りも安定するラインだそうだ。カモノハシと言われている」
「――なるほど」
「現在の主流はこれだな。客車には2階建て車両もある。ローカルでは『KOMACHI』『TUBASA』『HAYATE』など地方ゆかりの名前が付けられている」
「乗り心地はどうですか。確かに車内は広そうですけど」
「座席は人間工学的にデザインされたリクライニングシートだから楽だろう。特別車両だともっと装備が良くなる」

 ふんふん、といつの間にかアナキンは身を乗り出し、師の横から画面を覗き込むように見ている。
「確かに座席の材質も違いますね。フットレストも付いてる。車内の物品販売サービスなんてあるんですか。有料だけと、ドリンク、軽食、菓子と。土産もある」
気付くとデータパッドの操作はオビ=ワンからアナキンに変わっていた。熱中する弟子を見遣りながら、オビ=ワンは横に席をずらした。

 さっきまでの不満はどこへやら、アナキンは列車に魅入られている。スピード狂には違いないが、どうやら乗物全般に興味があるらしい。オビ=ワンはそんな弟子がほほえましくななった。

 ひと通り見終わると、アナキンは椅子をテーブルから引き、背もたれに寄りかかって大きく伸びをした。
「惑星の自然条件や乗物発達の経緯から、鉄道が発達したのは無理からぬことのようですね」
「下調べ終了か、パダワン。あと20時間で到着だから一眠りしたほうがいいぞ」
「はいはい。あ、ところでこんどの任務は何ですか?」
オビ=ワンの眉がぴくりと上がる。
「バックナンバーのついたファイルがあるだろう」
アナキンがあわてて画面に飛びついた。

 弟子はファイルを開けて、真面目な表情にもどり画面を目で追う。
「了解しました。旧来からの政治形態を固守する保守派政治家と、経済政策を重視する改革派内閣との確執による、軍隊とテロ組織との武力抗争の調停ですね」
オビ=ワンは重々しく肯いた。
「わかればよろしい」 

「役職と顔を覚えておきますよ。あれ、この大臣は鉄道省の長官も兼務してるんですか?」
「ああ、そうだ。今回のキーマンの一人だ。前はこんなに白髪じゃなかったな」
「前っていつ、任務で来たんですか?」
「私がナイトになる前だ。惑星全体の一斉選挙があって、監視を頼まれた。その時、鉄道省の担当官で私達の世話をしてくれた」
「ふうん。じゃあ、マスターのことを覚えているでしょうね」
「どうかな。20年も前のことだ」
 

 オビ=ワンはふと遠くを見る目つきになった。
「任務が終わった後、せっかくだからと寝台車の特別室のチケットをとってくれた。『トワイライト・エクスプレス』と言って、後で知ったんだが人気があって、かなり入手困難なのに工面してくれたようだ」
「何でそんなに人気があったんですか」
「夕暮れから夜にかけて風光明媚な海岸沿いを通るリゾート列車で、設備やサービスがホテル並みなんだ。特別室は展望タイプで眺めは最高だったな」

「トワイライトと、あった」
モニターに現われた画像を見たアナキンがヒューッと口笛を吹いた。
「さすがにごきげんな列車みたいですね。その頃とデザインは変わってます?」
オビ=ワンもモニターを覗いた。

「以前より洗練されてスマートになってるが、基本型はあまり変わらないな」
「すごいや。普通個室でも予約はほとんど満杯。特別室なんて、1年先まで予約待ちだって」
「今でもそんなものなのか」
「マスターのパダワン時には珍しく、偶にはおいしい思いをしたんですね。」
お前、とオビ=ワンは苦笑いを浮かべた。 

「選挙妨害の列車爆破を私達が未然に防いだので、御礼のつもりだったんだろう」
列車内の様子が表示されている画面を見ながら、オビ=ワンは椅子から立ちあがった。
「確かに良い旅だった。一晩だけどな。――さて、私は休むぞ」
師は弟子に背を向けて自分の船室に入った。
 


 トワイライト、夕暮れ時海に沈む夕日を見た。師弟はちょうど食堂車で高級レストラン並みのディナーを楽しんでいる最中だった。炎の色をした太陽は辺り一面を茜色に染め、空も海も燃えているかのようだった。オビ=ワンは手を止め、しばしぽかんとその光景に見とれた。クワイ=ガンもまた、弟子と同じに手を休めて見ていた。

 食事を終えて、広い窓がパノラマになっている特別室に戻る頃には、星が出始めていた。
二人はベッドの上で窓辺を向き、星空を眺めていた。肘枕をした師の胸に背中を預けた少年は、大きなクワイ=ガンのふところに抱かれるように横たわっていた。

「――さっきの燃えるような夕日が嘘のようですね。マスター」
「ああ」
「珍しい景色でもないのに、列車から見る景色が特別に思えるのは何故でしょう」
「特別?」
「息を呑むほどきれいで、きっと忘れられない」

 それに、と少年は顔を少し上に向けて、広く取られた窓から見える星が瞬く夜空を見上げた。
「列車の中なのに、こうしていると宙を飛んでいるような気がします。宇宙空間を旅する列車なんてないのに……」

「パダワン」
クワイ=ガンの大きな手がオビ=ワンの短い髪を優しくなでた。
「私の弟子に詩人の素質があるとは思わないが、自然に感動する気持ちや自由な想像力があれば、それでじゅうぶんだ」

 師の温かいフォースが自分を取り巻いているのを感じる。オビ=ワンは頭をクワイ=ガンの胸に付け、心地良い居場所を得て安心した子犬のように、満足気な息を漏らしてより添った。
眠りに落ちるとき、そっと額にキスされた、ような気がした。

 あの時は恋人になる前だったから、ゆったりしたダブルべッドに二人で寝ても、当然ながら只一緒に眠っただけ、だったが。


 オビ=ワンはベルトをはずそうとして、ライトセーバー触れた。今な亡き、師の形見。
あの列車の旅は今も覚えていますよ、マスター。そして、あの惑星に今度は私が弟子を連れて行きます。

握ったライトセーバーの柄は、金属の筈なのに、気のせいか微かな温もりが感じられた。



END


 宇宙空間を旅する列車。昔、ありましたよね。『銀河鉄道999』。
ところで「鉄っちゃん」ってご存知ですか?鉄道大好き人間、の事です。旅に出る目的が列車に乗る事。いろんな人がいるもんです。
 アニーはスピード狂ですが、乗物全般好きそうですよね。オビは?――何でもいいんじゃないですか。マスターと一緒なら。

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