Gifts of A Month Later | ― 1ヶ月後のお楽しみ ― |
任務を終えた師弟がテンプルに到着した頃は、既に黄昏が迫っていた。もっとも、巨大都市惑星コルサントは不夜城であり、すでに、そこここに地上の星座のようなネオンが輝き始めていた。 宇宙船の発着場から聖堂内に入り、係りに帰りの報告をする。いつもの手馴れた事とはいえ、久方ぶりの帰還には事務処理やさまざまな雑務が付いてまわる。 一通りの用事を済ませ、食堂で食事をとった二人が自分達の住いにたどり着いた時には、すっかり夜になっていた。 「やっと帰ってきたな」 クワイ=ガンがリビングに入ってローブを脱ぎながら言う。 「そうですね」 弟子は相槌をうちながらも、慣れたしぐさで師の脱いだローブを受け取り、ハンガーに掛けた。 「評議会への報告は明日でいいから、今日は何もしなくていい。少しゆっくりしよう」 「はい。マスターバスを使います?それともお茶をいれましょうか」 「そうだな。シャワーを浴びるか。お前はどうする?」 クワイ=ガンはオビ=ワンにさりげなく声を掛ける。 「お先にどうぞ、マスター。荷物を部屋に入れてしまいます」 オビ=ワンはバスルームに向かう師の姿を目で見送り、荷物を持って自分の部屋に行った。久しぶりの部屋は、出発したときのまま整然と片付いている。 データパッドを机の上に置き、無意識にスィッチを入れようとして手を止めた。疲れているし、今晩くらいはいいだろう。何気なく机の上のカレンダーをみる。任務に出発したのが2月の20日、今日は3月13日、一ヶ月はかからなかったな。 突然、オビ=ワンはあることに気付いた。明日は3月14日だ! クワイ=ガンがバスルームから出ると、オビ=ワンが待ちかねたように茶を入れたカップを運んでテーブルに置いた。そのまま、椅子に掛けた師の側に立っている。 「どうした、パダワン」 「マスター、急用を思い出しました。ちょっと出かけてきていいですか?」 「何事だ?」 「その、プライベートな事で、買い物にいってきたいのです」 今から、と眉を上げて目で問う師にオビ=ワンは肯いた。 「一番近いショップに行って必要な物を買ったらすぐ戻ります。時間はかかりません」 「一体、何を買いにいくんだ?」 「クッキーの材料とラップング用品です。30人分もあれば間に合うと思います」 「?」 「明日はホワイトデーです。今日中に材料をそろえないと間に合いません。すっかり忘れてました」 ローブを着てドアに向かいながら、寄りによってこんな時に帰ってくるなんて、とオビ=ワンは小声でぼやきながら、あわただしく出かけていった。 翌朝、クワイ=ガンが目覚めて自室からリビングにいくと、キッチンで物音がする。のぞくとオビ=ワンがエプロン姿で大量の小麦粉を練ったかたまり、クッキーのタネと格闘していた。 「マスター、おはようございます。すみません、朝食のしたくはまだなんですが」 「いや、かまわん。お前の仕事を続けてくれ。何時に起きたんだ?」 「5時ごろですか。午前中に準備して昼に食堂に持っていこうと思います」 その間もオビ=ワンの手は休むことなく動いている。 「――大変そうだな。私に手伝えることがあるか?」 とんでもない、と弟子は粉だらけの手を振った。 「お騒がせするだけでもマスターには申し訳ないのに。それにもう少しで型抜きが終わりますから、あとは焼くだけです。あ、できれば味見していただけます」 クワイ=ガンがリビングでお茶を飲んでいると、オビ=ワンが出来ましたと言いながら、小皿に焼き立てのクッキーをのせて運んできた。焼きたての甘い香りを漂わせたクッキーは、星型、ハート型、花形など。表面にはそれぞれナッツやレーズンなど飾りが乗せてある。 弟子は師の前に立ち、一つをつまんで口に運ぶ師を心配そうに見つめている。 「上出来だ。パダワン」 とたんにオビ=ワンの顔がうれしそうに輝いた。 「ありがとうございます、マスター。あとは焼くだけです。出来た順から包めば、何とか間に合いそうです」 「しかしお前、市販の品物もあるのに、わざわざ手作りしたのか」 クッキーをオーブンに入れ、待ち時間にようやく一息入れてお茶を飲んでいる弟子に師は問う。 「――以前、試しに作ったクッキーをバントにあげたら、バントがそれを他の人にもあげて評判になったらしくて……。どうも、小さい子達が私のクッキーを楽しみにしているようなんですよ」 オビ=ワンは溜息をついた。 「まあ、私だってチョコをいただいたんだし、年に一度のことですからね」 出来上がった大量のクッキーを前に置き、テーブルの上にずらりと小箱を並べる。異なる種類をどれも同じ数になるよう詰め、包装紙で包み、リボンを掛ける。まるで仕事のように黙々と作業する弟子を師は傍らで眺めていた。 が、つい口を挟まずにはいられない。 「店が開けそうだな。パダワン」 オビ=ワンは手を動かしながら、ちらとクワイ=ガンを見上げた。 「そうですね。ジェダイを引退したら悪くないかもしれません」 「老後の楽しみか」 「今だって気分転換に作るのはいいですよ。でも大量に作るのは、楽しみってわけじゃありませんからね」 「とかいいながら、わざわざ手作りか。私の弟子は律義者だな」 「マスター!人の不幸を――。いえ、私のすることを面白がってるだけなら、かまわないでいただけますか。あぁもう、リボンがからまって」 クワイ=ガンはこれ以上弟子をからかうのは止めにして、自室に引き上げた。 昼時、オビ=ワンはクッキーの包みを入れた山のような荷物を持って出掛けていった。 午後、師弟は評議員室で任務の報告にのぞんだ。事前に詳細な報告書を提出してあるので、報告は無難に済んだ。 退出してリフトを待ちながら、いかにもホッとした様子の弟子の肩にクワイ=ガンは手を乗せた。 「これで、今日の仕事は全部終わった。ようやく休めそうだな。パダワン」 「マスター」 「私とすごす時間をとれそうか」 オビ=ワンが笑顔で師を見上げた時、背後から声が掛かった。 「ああ、間に合ったわ。クワイ=ガン。オビ=ワン」 評議員室を抜け出してきたらしいマスター・アディ・ガリアが立っていた。 「何か用かね。アディ」 「クワイ=ガン。この前ついでがあればと頼まれた物だけど、今日とどいたの。後でドロイドに持たせるわ」 「それは良かった。すまない」 それと、と美貌の評議員はオビ=ワンに笑顔を向けた。 「クッキーとてもおいしかったわ。オビ=ワン、又腕を上げたわね」 「え、いや。どういたしまして。シーリーがマスターに」 「勿論」 マスター・ガリアがにっこりと肯く。 「ところでお願いがあるのだけど。今度女性マスターの集まりがあるので、その時、気の聞いたお茶菓子を出したいと思っているの」 「アディ」 クワイ=ガンがすばやく口を挟んだ。 「私のパダワンに頼み事なら、私を通してくれないか」 「ああそうね、クワイ=ガン。でも、レシピを欲しいという事なら、改まって頼むというほどでもないでしょう」 アディ・ガリアに挨拶してから師弟はリフトに乗り込んだ。 クワイ=ガンは無言でリフトに乗っていたが、到着すると、自分達の居住区とは違う方向に歩き出した。 「マスター、どちらへ行かれるんですか?」 「今日は外で食事しよう」 はい、と答え師の後を歩みながら、弟子はやはり聞かずにはいられない。 「どこも予約は入れていませんよね」 クワイ=ガンが肯く。 「多分大丈夫でしょうけど、急に思い立ったんですか」 「オビ=ワン」 クワイ=ガンが足を止め、オビ=ワンを振り向いた。 「部屋や食堂では、又どんな用が降ってくるかわからん。やっとテンプルに戻ったのに休む暇もない」 外へ食事に出た二人が戻って来たのは、夜になってからだった。 「部屋のドアの前にあるのは、荷物配送用のドロイドですね」 「アディが先ほど入っていた物だろう」 クワイ=ガンが片手では手に余る程の大きさの荷物を受け取り、師弟は部屋に入った。荷物を持ったままクワイ=ガンはリビングに入り、テーブルにそれを置いた。オビ=ワンはいつものように、自然な仕種で師のローブを受け取る。 「お茶でもいれましょうか。それともバスが先ですか?」 「いや、その前にこの包みを開けてくれるか」 「私が?」 「ちょうど今日届いて良かった。オビ=ワン、私からお前へホワイトデーの贈物だ」 「え!」 驚く弟子を見ながら、クワイ=ガンはやはりという表情で笑みを浮かべる。 「期待してなかったんだろう」 「マスターがそんなことしてくださるなんて。ありがとうございます!」 「開けてみろ」 促され、包みを開けたオビ=ワンの目が嬉しそうに輝いた。 「フルーツの詰め合わせですか。すごい!」 オレンジ、グレープ、マンゴー、パパイヤ、メロン、苺などの目にも鮮やかな果物が、甘い香りを漂わせて現われた。 「迷ってしまいますね。マスターどれがいいですか?」 「お前のものだ。好きなものから食べればいいだろう」 では、と言ってオビ=ワンは一粒の苺を手に取った。つやつやと輝く赤い大粒の果物を口に含み、これ以上の喜びはないという笑顔で味わっている。 「甘くて、こんなうまい苺は初めてです。マスターも召し上がってください」 差し出す果物の代わりに、クワイ=ガンはそのまま手首ごとオビ=ワンの手を引き寄せた。顔を近づけ、苺を持った指ごと口に持っていく。 「確かに、アディに頼んで取り寄せただけのことはある」 果物を飲み込んでも、弟子の手は握ったままで言う。 次いで、オビ=ワンの指先を軽く口に含みながら続けた。 「だが、私の一番の好物はお前の唇だな」 「――今は苺の味がしますよ」 オビ=ワンが上目遣いで師を見上げる。 「いいさ。一度に両方あじわえる」 クワイ=ガンは握っていた手を離し、オビ=ワンの背を優しく引き寄せた。 End 毎度のラブラブバカップル話。オビは常にマスターにつくしてますが、クワ師匠もけっこうオビにサービスしてるみたいです。釣った魚に餌をやらないどっかの男性陣とは一味違うようです。 |
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