The Light     

 光が飛び込んできた!目を開けたクワイ=ガンは、自分の寝ていた寝台に、現実に明るい光が射しこんで来たことに気付いた。光の方向に目をやると、窓を覆っていた長いカーテンが少し引かれ、外の景色が見えた。オビ=ワンか。

 頭を起こそうとした途端、鋭い痛みが走り、クワイ=ガンは額を押さえた。このズキズキする頭痛は稀に覚えがある。――おそらくは、夕べの地酒が効いたのだろう。口当たりはいいが、実はかなり強い酒を、長老達にすすめられるまま、飲んだ。

 クワイ=ガンは呼吸を整え、再び枕に頭をつけて仰向けになり、目を閉じた。息を吐き、静かに弟子の気配を探る。今ではもう自分の一部とさえ言えるオビ=ワンのフォースはすぐ感じられた。同じ建物の中、いやここはワンフロアに近い造りで、オビ=ワンは同じ室内といえるクワイ=ガンの寝台の、やや下の方向のリビングにいた。
 

 任務で滞在している建物は一戸建てのログハウスだった。ほぼワンフロアの間取りでキッチンとダイニング、リビングスペースがあり、ベッドルームはないが、階段を昇った先のロフトに寝台が設えてあった。

 寝台には手摺りが廻らされ、上半身をおこせば、下の様子が見えた。寝台はゆったりとした二人用のダブルサイズだったが、任務中はクワイ=ガンがそれを使い、弟子のオビ=ワンはリビングのソファベッドで寝ていた。


 今回の任務は風変わりなものだった。この惑星の大陸は南北の極に近いため気候が厳しい。深い森に被われ、森林資源を主産業にしている住民は勤勉で寡黙だった。が、長い冬が終りに近づき、春の兆しが見えると、一気に気分が高揚する時期が訪れる。

 大陸最大の大河は冬の間凍りつき、遠く隔たった対岸同士が陸続きになる。それほど厳しい冬でも春が近づくと厚い氷に亀裂が出来、やがて、ある一瞬をさかいに、凍っていた河の水が再び流れ出す。人々はその一瞬を待ち焦がれ、春が訪れた時を祝う盛大な祭りとなる。

 メインはその一瞬の時刻を賭け、当たれば、大金を手に出来る。単純といえばそれまでだが、その一瞬の時刻の見極めをめぐって騒乱になり、警察まで出動する騒ぎになる。

 誰が言い出したか、公明正大で知られるジェダイに、河が流れ出す時の立会いになって欲しいとの依頼で、師弟はこの惑星にやって来た。
 

 大河を見下ろす丘の上に、ジェダイの滞在用のログハウスはあった。広く取られた窓から河の様子が良く見える、が、別に人が常に見張る必要はない。氷の厚みを測る機器やセンサーが取り付けてある。いよいよ近くなれば、側に行ってその瞬間に立会い、クロノメーターが示す時刻を衆人の前で発表すれば良かった。

 二人が到着してから3日後に『その時』は訪れ、ジェダイは使命を果たし、賭けに当った者は歓喜にむせび、そうでなかった大部分の住民は、本来の目的の春の訪れを祝って盛大な祝宴となった。



 夕べは己の酒量を超えるほど飲みすぎた、わけではない。ただ。さかんに勧められた地酒がとてつもなく度数が高かったのは確かだ。何杯飲んだか正確には覚えていない――。頭痛はそのせいだ。弟子にまたやんわりと皮肉か嫌味を言われるかもしれない。胸の内で苦笑する。昼過ぎに迎えが来て宇宙港へ送ってくれる事になっていた。それまでに、二日酔いを治さねば。

 水の音が微かに聞こえる。オビ=ワンがシャワーを浴びているのだ。クワイ=ガンは弟子の姿を思い浮かべ、我知らず顔が綻んだ。若木のようなしなやかな肢体。サテンのようになめらかで光沢のある肌。微かにその肌に触れるだけで、腕の中で身を振るわせる若者。弟子であり恋人でもあり、誰よりも深い絆を感じる。

 オビ=ワンのことを思うと、不思議に頭痛が引いた気がする。クワイ=ガンはごくゆっくりと頭を起こした。さっきより、具合がいい。

 水の音が止み、ドアの開け閉めの音がする。クワイ=ガンは頭を起こした後、肘を立てて上半身を起こした。ロフトの寝台の手摺りの間から下を見ると、オビ=ワンがバスルームから出てくるのが見えた。

 腰にタオルを巻き、もう一枚のタオルで頭を両手で拭きながら歩いてきた。ごしごしと数回ぬぐえば、短く刈ってある頭髪はそれで充分間に合うらしい。次いでオビ=ワンは解いたブレイドをタオルで拭き始めた。

 濡れて濃い茶色のそれはまるで細紐のように見える。オビ=ワンはタオルに包んで上から下へと拭いている。水気がとれると、真直ぐだった長い髪は自然なウェーブがかかってくる。ジェダイパダワンの証、一筋の長い編下げ髪ブレイド。オビ=ワンは13歳の直前にクワイ=ガンの弟子になってから、あまり切る事無くずっと伸ばし続けていた。

 通常は細く編んで紐で結んで止め、小さな飾り玉を付けたりしている。ブレイドの長さは背中の下ぐらいだが、解いた髪の長さは、腰の下まで届くほどの長さがあった。

 いつでも好きなだけ引っ張っていいのはマスターの特権だ、とクワイ=ガンは日頃冗談めかして言うが、その実、ブレイドを引く時は、オビ=ワンの金褐色の房に愛しげに口付ける事が多い。

 寛いで愛し合う夜、互いの解いた髪に触れ合う事がある。オビ=ワンは師の亜麻色の長髪を始めは優しくなで、興奮が高まると指でかき乱したり、強く引いたりもする。クワイ=ガンはお返しとばかりに、オビ=ワンの長い房を手に絡めて引っ張ったりする事もある。
 
 水気を吸われた細い髪の束が、差し込む光を受け、明るく金色に輝いている。そういえば、あれの髪は茶色と金色の髪が混じっている。短く刈っているから濃い色にみえるが、伸ばしたらむしろ金髪になるかも知れない。クワイ=ガンはふと思った。


 オビ=ワンは髪を拭きながら、さっき細めに引いたカーテンの隙間から外を見ていた。拭き終えたブレイドの先を手に取り、乾き具合を確かめるように両手で目より高い位置に持ち上げた。クワイ=ガンに背を向けて立っているオビ=ワンの、金色の細い髪の房は、青年の頭上で黄金色に輝き、まるで円環のように見えた。
 ――光の天使。クワイ=ガンの口元が綻ぶ。

 が、それはほんの短い間で、オビ=ワンはすぐに手を離した。長い金色の髪は、こんどは裸のなめらかな背に流れるように波打っている。次いで、オビ=ワンはためらいもせずに腰に巻いていたタオルをはずすと、傍らの椅子の背に掛け、側に置いてあった白いシャツを取り上げ、袖を通した。

 指先が袖の先から出た瞬間、オビ=ワンの動きが止まる。袖丈は青年の腕には長すぎた。オビ=ワンの顔には驚きと、しまったという表情が浮かぶ。しかし、すぐに口元に笑みが浮かび、もう片方の腕を袖に通した。

 弟子より何サイズか大きい師匠のシャツを着てみると、手を伸ばしても、カフスの先からはやっと指先がのぞくくらいだった。当然、肩幅丈も広く、オビ=ワンの細身の肩先よりはかなりずり落ちている。そして裾丈は、何も身につけていないひきしまった腰をすっかり覆い、それよりずっと下まであった。

 オビ=ワンは、子供が面白い物でも見つけたような、うれしそうな表情で袖口のカフスを折り返し、前のボタンをいくつかはめた。

 それからオビ=ワンは窓辺により、先ほど細めに開けたカーテンに両手を掛け、いっぱいに開いた。その瞬間、差し込む陽光に、青年の肢体が光りを浴びて浮かび上がった。

薄布を通して、光を集めた淡い肌色のシルエットが白いシャツに透け、眩しいほどに輝いて見えた。

その光景に、先ほどから弟子の様子に目を奪われていたクワイ=ガンは息を呑んだ。

 寝台から起きて、階下へ降りようとしていたクワイ=ガンは、再び寝台に腰を下ろさずにはいられなかった。

 ――目の保養だな。いや、むしろ目の毒というべきか。歴戦の勇士たる経歴を持つジェダイマスターの表情に微苦笑が浮かぶ。

 日頃は己の身の回りも無頓着だし、弟子の容姿や美醜など気に掛けたこともない。が、こうして若さの只中にある、弟子で恋人でもあるオビ=ワンの魅力を目の当たりに見せられては、平静でいられない。現に身体の中心に、意志とは関係なく熱い疼きが沸きあがっている。クワイ=ガンは苦笑を浮かべたまま、深く息を吐き出した。



 気配を感じて、オビ=ワンは振り返った。
ロフトから階下へ降りてきたクワイ=ガンはすぐ目の前にいた。

「おはようございます。マスター」
弟子は笑顔で手を差し伸べた。師はその背を引き寄せ、やさしく額に口づける。次いで少し身体を離したクワイ=ガンは、弟子が今しがた器用に編んだばかりのブレイド、大きめの白いシャツに上半身をすっぽりと包まれたオビ=ワンに目を走らす。

 その視線を感じて、オビ=ワンは少しうろたえた。
「あの、すみません。シャツを間違えてしまいました。今脱ぎます」
あわててボタンに手を掛けた弟子を止める。
「急がなくていい。私もシャワーを使ってくる」

 マスター、と見上げたオビ=ワンは師の顔色をみて僅かに眉をひそめた。
「加減が良くないんですか?」
「察しの通り、二日酔いだ」
「あの酒はとんでもなく強かったですよ。どれぐらい飲まれたんですか?」
「覚えていないからこうなった。前をあけてくれるか」
オビ=ワンは素早く身を引きクワイ=ガンを通した。
「薬を用意しておきます。食事は?」
「いらん」
クワイ=ガンはゆっくりした足取りでバスルームへ向かった。冷たいシャワーを浴びる為に。



 数時間後、師弟は住民に見送られ、宇宙船に乗り込んだ。別れの挨拶に丁寧に返礼するクワイ=ガンは、すっかりジェダイマスターとしての威厳を取り戻していた。オビ=ワンもにこやかに挨拶を返す。

 離陸やその後の操縦も順調に進み、クワイ=ガンの様子もいつも通りだった。
「マスター、チェック終了しました。すべて異常ありません。操縦席を離れる前にテンプルに連絡を入れますか」
クワイ=ガンは軽く眉をひそめ、あぁと肯いた。

 通信を開始すると、モニターに見慣れた評議員の姿が現れた。
「任務終了。これよりテンプルに帰還する」
「ご苦労だった。帰還は了解した。ところでクワイ=ガン――」
「メイス」
クワイ=ガンが遮る。

「私達はお前が言うところのついでの任務で、テンプルへ戻るのが遅れたうえ、回り道になった。緊急でない用件なら戻ってから聞こう」
「わかった。戻りの予定は」
「銀河標準時で5日後です」
マスターの側のパダワンが答える。
「コルサント近くなったら連絡する。それまで通信は受け付けない」
「よかろう。回り道になってすまなかったな。クワイ=ガン」

 鷹揚に肯いたクワイ=ガンは通信を切ろうとして、ふと思いついたように言った。
「ところでメイス」
「何だ?」
「回り道で退屈な任務だったが、そう悪いもんでもなかったぞ。けっこうな地酒も堪能したし、パダワンも貴重な体験をした」
「ほう」
「冬から春に変わる瞬間、水や光の変化する様を目の当たりにできた」
「それは良かったな。オビ=ワン」
「――あ、はい。マスター・ウィンドゥ」


 通信を終え、クワイ=ガンは操縦席から立ち上がった。オビ=ワンもラウンジに向かう師に続く。
「マスター、食欲がおありなら食事の用意をしますが」
そうだな、とクワイ=ガンが振り返る。
「食べたいものはあるが、ここの食糧庫にはなさそうだな」
「何ですか。捜してみます」
「いや、普通の食事でいい。あとで、ゆっくり話そう」

 クワイ=ガンはオビ=ワンのブレイドを手に取った。長い金褐色の編み下げ髪を指にからめ、意味ありげな視線で弟子の眼を見つめた。そうして眼を合わせながら房の先にゆっくりと口づける。
と、その仕種と、眼で語る意味を悟ったオビ=ワンの頬が、見る間に朱に染まっていった。



END


 オビに首ったけで、つい、のぞき見(?)なんかしてしまうマスター。でもオビの前では、師の威厳を保たねばとか思ってる、そんなへたれなマスターもけっこう好きです。
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