An Eventful Day | ― お騒がわせな一日 ― |
今日はマスターの誕生日だ。朝目覚めると自然と笑みが浮かぶ。オビ=ワンは軽やかにベッドを飛び出した。と言っても、特別オビ=ワンが忙しいわけではなかった。 ジェダイナイトとて誕生日は特別には違いないが、大抵の者は格別なお祝いはしない。パダワンならマスターや友達からプレゼントを贈られたり、マスターが御馳走してくれたりするが、それもない。ジェダイにとって誕生日は己を見つめる為、静かに瞑想する日になっていた。 オビ=ワンは師から13歳の誕生日に石を贈られた以外、特に物を欲しがらなかったので、お祝いはたいてい外食になっていた。クワイ=ガンは弟子に好きな物を好きなだけ食べていいという形でお祝いしてくれた。 二人の、師弟の絆が落ち着いてからオビ=ワンはマスターの誕生日を知ったが、何も特別なことはしないと言われた。それでも、最近はオビ=ワンからささやかな物、髪を結う紐とか、好みのお茶などを贈り、いっしょに瞑想したり、二人でくつろいで食事したりしていた。 オビ=ワンは美しい炎が灯る小さなキャンドルを用意していた。夕食はクワイ=ガンの好物を作り、その灯かりの元で静かにとろうと思っていた。 訓練を終えて出来るだけ早く住まいに戻ると、師も今ほど帰ったところだと言いながら、額をおさえ疲れきった表情をしている。 「何かあったんですか」 「元老院に呼ばれて惑星バグの議員にあったんだが、とにかく落ち着きの無い人種でな。のべつ幕なし喋りまくり動き回る。やっと逃げ出して入ったカフェでボヤ騒ぎに遇った。テンプルに戻ったら技術部に捕まって、新しい警報音のサンプルを何種類も聞かされた。何ヶ月分もの騒音を一日で聞かされた思いだ」 「――それは大変でしたね。お茶をいれましょう」 クワイ=ガンは椅子の背にもたれ、弟子がていねいに煎れたお茶を飲んで、大きく息を吐いた。 「やっと生き返った気がする」 「今日は静かに瞑想するつもりでいたんでしょう」 「そうだな、漸く落ち着いた。これからやれそうだ」 「私もいっしょに瞑想します」 「無理に長時間つきあうことはない。30分もすれば充分だろう」 「さすがに私だってそれくらいはやれますよ」 クワイ=ガンは自室に行った。片付けを終えてリビングに戻ると、姿を見ずとも師のフォースが静かになり、オビ=ワンはクワイ=ガンが瞑想を始めたことがわかった。 ちゃんと瞑想するなら自分の部屋に行ったほうが良いが、長時間ではないのでリビングですることにした。 ソファに座って足を組み、手も前で軽く組んで目を閉じ、呼吸を整える。身体をリラックスさせながら、徐々に意識を集中させていく。フォースが回りを取り巻くのを感じる。やがて次第に意識をフォースに溶け込ませていく。無になってフォースと一体化するのだ――。 何か、とても暖かい思いに包まれる感じがした。これはなじみのある師のフォースだ。しかしそればかりではなく、水のように風の様に、懐かしさを感じる流れが自分を取り巻いている。ふいに、ビジョンが頭を過ぎった。目を閉じているため眼に見えるわけではない。だが、フィルムのようなビジョンが頭に浮かぶのだ。 子供、テンプルの庭を走り回る子供達。オビ=ワンの知らない子供達。ふいに、それがメイス・ウィンドゥとタールということがわかった。すぐ次のビジョンが浮かぶ。パダワン達の訓練の様子。成長していくメイスとタール。大きな男はクワイ=ガンの師、マスター・ドゥークゥー。そしてヨーダもいる。 オビ=ワンは何故クワイ=ガンがいないのかと思った。が、すぐ気付いた。このビジョンはクワイ=ガンが見ていた世界だ。今自分はクワイ=ガンと同じ眼になっているのだ。 ナイトになって初めて行った任地。長い間に訪れたさまざまな惑星や出会った住人。エキゾチックな街並、遺跡、巨大なドーム、地下通路。操縦席からみる宇宙空間。 何も考えず、オビ=ワンは只ひたすら師の見てきたビジョンを追っていた。 クワイ=ガンは、フォースを加減しながら出来るだけゆっくり瞑想を解き、目を開けた。静かな室内、瞑想に入る前と同じ何も変化は無い。 音をさせずに立ち上がり扉を開けリビングに入った。 オビ=ワンがソファで目を閉じ瞑想している姿が目に入った。 「オビ=ワン……?」 突然、驚愕に襲われ表情が変わる。 弟子の様子は通常の瞑想の状態ではない。これは、今までになく深層に入り込んでいる。オビ=ワンの訓練はまだこれまで達していないはずだ。果たして自分で元に戻ってこられるか。 やはり自分が先ほどの瞑想中に感じた、オビ=ワンが自分の意識に入り込み一体化した同調は現実に起こっていた。二人は同じ意識でそれぞれの過去を追っていた。クワイ=ガンはオビ=ワンが自分と共に感じているのがわかったし、自分もオビ=ワンの過去、彼がかすかに覚えている家族の様子や、幼い頃の友達、バントやガレンを見ていた。 訓練を積んだジェダイ同士が同意の上、共に瞑想に入らなければ起こりえない一体化、同調。今さらながら、自分達の絆はこれほどまでに強いのかと思う。しかし、準備もないオビ=ワンにはまだ早い。むしろ危険だった。 遠慮がちなノックがした。ドアに寄って開けるとオビ=ワンの友人バントが立っていた。 小柄なカラマリアンの少女は礼儀正しく挨拶した。 「こんにちは、マスター・クワイ=ガン。オビ=ワンはいますか」 「ああバント。いるんだが、瞑想中でまだ覚めないんだ」 あら、とバントは少し身を乗り出しオビ=ワンを認めた。 「まあ珍しい、でも無理に起こさないほうがいいですね」 バントは小さな袋をクワイ=ガンに渡した。 「これを渡していただけます。ミネラル入りソルトとスパイスです」 「ありがとう。オビ=ワンにはよく言っておく」 「今日はマスターの誕生日だから好物を作るといっていたんです。それで思い出して」 「そんなことを」 「ええ、私からもお祝いを言わせていただけますか。クワイ=ガン」 「勿論だとも」 「誕生日おめでとうございます。いい一日を」 バントは爪先立ち、身を屈めたクワイ=ガンの頬にそっと口づけした。 「私もオビ=ワンもいい友達を持って幸せだ」 バントは微笑んで、去っていった。 クワイ=ガンは袋を持って戻りテーブルに置いた。 オビ=ワンはまだ、目覚める様子はない。 軽くドアをノックする音がし、返事を待たずにメイス・ウィンドゥが部屋に入ってきた。もっとも、姿を見ずとも近くにいれば互いのフィースはすぐわかる。 「今時分何の用だ。まあ、入ってくれ」 「いや、このあと用がある。すぐに失礼する」 言いながら、部屋の中に目をやったメイスは、オビ=ワンの姿に気付いた。 「何があった…?」 「どうも瞑想中に、偶然私の瞑想に同調してしまったらしい。私は先ほど瞑想を終えたんだが、オビ=ワンは覚めない」 めったなことでは表情を出すことのない冷静な男は、目を見張った。 「それは、偶然にしてもきわめて珍しいことだな」 「ああ、互いに普段通りに始めた。それがどうも途中で同調したのを感じた。良くない兆候は何もなかったのでしばらく続けて、私は慎重に解いたんだが」 「オビ=ワンは同調したまま深層レベルで瞑想が続いてるのか」 「そうらしい。様子を見て自然に覚めればいいが、さもなければ、もう一度私が同調して一緒に覚まさせるか」 「慎重にする必要があるぞ。絶対無理をしてはいかん。駄目だと思ったらヒーラーに頼め」 「ああ、そうしよう」 クワイ=ガンは親友の懸念と気遣いを感じ、メイスの肩に手を置いた。 「すまんな。ところで何の用だ」 メイスは懐から小さな包みを出した。 「惑星ガイアのチャイ高原の茶が手に入ったんでな。少しばかりだが飲んでくれ」 「ありがたい。私の好みを知るお前ならではだな」 「長い付き合いだ。しかし、お前には未だに驚かされる。お前とオビ=ワンは――」 メイスはオビ=ワンに目をやった。 「並の師弟と違うことは充分承知しているつもりだったが、こうまで絆が強いとはな」 「そうらしい」 「訓練を積んだヒーラー以外、親友や師弟でも、始めから互いにその気で瞑想に入らなければ普通同調は起きない。それも互いの深層を知る必要がなければめったに行なわないぞ」 「わかっている。私も驚いた」 「生れた日の瞑想が思いがけないことになったな。もっともお前にはいつも騒ぎがついてくる」 「メイス」 「さて、私は行かねばならない。後で様子を教えてくれ」 「わかった。お茶をありがとう」 ドアが閉まり、メイスのフォースが遠ざかっていく。 クワイ=ガンはお茶をテーブルに置き、ソファに腰掛けた。 互いに誕生日はわかっている。が、今さらお祝いの言葉など口に出しもしない。メイスとはそういう仲だ。 微かな息づかいが聞こえ、クワイ=ガンはオビ=ワンを振り返った。 結ばれていた口元が小さく開き、息を吐きながら胸が上下している。 目覚めそうな気配に、静かに側に寄る。急な刺激を与えないように細心の注意を払いフォースで呼びかける。 「オビ=ワン……」 聞こえたかのように、心持ちオビ=ワンの顔が上を向き、薄く口が開いた。クワイ=ガンは己の肩に掛かる長髪を手で払い、顔を傾けて、そっとオビ=ワンの唇に口づけた。 やさしく唇に触れる柔らかく暖かい感触。これは、よく知っているマスターの唇。 啄ばむように触れ、やがてそれが去るなごり惜しさに、オビ=ワンはまぶたを開けた。 ブルーグレーの瞳がぽっかりと開く。その眼に映るのは深い青の瞳。 「マスター……」 「静かに、そのままで」 クワイ=ガンはオビ=ワンの手を取った。 師の暖かいフォースが流れてくるのを感じる。オビ=ワンは何度か呼吸を繰り返し、息を整えた。 「もう大丈夫そうだな。気分はどうだ」 「――はい。有り難うございます。何だか、不思議な気分です」 「思いがけず瞑想が同調してしまった。お前が自然に目覚めてくれて良かった」 「どういうことですか」 「注意深くやらねばならん訓練の一つだ。急な刺激を与えると障害が残る場合もある」 「あれが、同調ですか。初めて見るビジョンがほとんどでしたが、マスターが感じていた事ですね」 「ああ、私もお前のビジョンを感じた。家族の思い出とか、幼い頃とか」 オビ=ワンは肯いた。 「まったく、こんな事がおこるとは。今後は気を付けねばな。さて、もう夕方だ。食事に行くか」 オビ=ワンはあわてて立ち上がった。 「今日は私が作ります」 「いや、まだあまり動かないほうがいい」 でも、とオビ=ワンが言いかけたとき、クワイ=ガンの通信機が鳴った。 「わしじゃ。オビ=ワンも側にいるじゃろう」 「何の用ですか」 「二人で食堂まで来てくれんか。夕食は済んだかの」 「まだです。これから出るところです」 「それは好都合じゃ。もっとも食事が済んでいても、呼ぶつもりじゃったがの」 「何ですか」 「任務に持っていく携帯食糧の試食会をやるんじゃよ」 「私達の今晩の食事はそれにしろと」 「お前たちは使用頻度が高いじゃろう。現場の意見も参考にして改良したんじゃ。中々うまいぞ。オビ=ワン」 「はいっ、マスター・ヨーダ」 「できれば全種類味見して、お前の意見を聞かせてくれるかの」 「はい…」 「ではクワイ=ガン、待っているぞ」 通信が切れると、師弟は顔を見合わせて小さく溜息を吐いた。 「行くしかなさそうだな」 「小さいけど、キャンドルを用意したんです。食事しながら灯そうと思っていたんですが」 オビ=ワンが肩を落とす。 「今日はマスターの特別な日ですから……」 「メイスからいいお茶を貰ったんだ。もどってからお茶を飲みながら灯してもいいだろう」 オビ=ワンの顔がぱっと明るくなった。 「はい。あの、さしつかえなければビジョンで見たマスターの昔の話を聞かせていただけますか」 「そうだな」 ローブを取り、身支度しながら、同じく支度をしているオビ=ワンのローブの肩を引き上げてやる。 「私の昔話は長くなるかも知れんぞ」 ブレイドを軽く引きながら言う。 「望むところです」 「長話なら、ベッドの中でのほうがいいかな」 弟子の顔にサッと朱がさした。 「マスター……」 クワイ=ガンは口元を緩め、さて、と促す。 「では行こうか、パダワン。今日は最後まで、特別な一日になってしまったな」 End あれですね「眠りの森の美女」キスして目を覚まさせる方法。ジェダイはよく瞑想するようなんですが、具体的な事は知らないので捏造です。 旧SWでヨーダ様がルークの食料を勝手に食べてました。うまいとか言ってたような。あれは反乱軍特製でしたっけ。でもテンプルでも製造してたと思います。 |
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