Our Little Angles  ― 天使の微笑み ―
 
  オビ=ワンがすごく機嫌がいい、それもいつになく、とアナキンはすぐ気がついた。
「さあ、起きろパダワン。今日も気持ちのいい朝だぞ!」
やけに朗らかな声で起こされたのは、いつもより30分も早い時間だった。
眠い目をこすりながらも時計を見て文句をいう弟子に、普段ならいやおうなく毛布をはぎ取るところが、今朝は違った。

「今日は、マスター、ソアラのライトセーバーの訓練がある日だろう。余裕を持って朝ごはんを食べていくといい」
「朝ごはん?」
すでに師の姿はアナキンの部屋には無く、そうだ、という声がキッチンでした。同時においしそうな香りがアナキンの鼻をくすぐる。

 匂いに誘われ、すばやく服を着てダイニングに現れたアナキンは、歓声を上げた。
「すごいや」
テーブルの上にはこんがり焼けたトースト。カリカリに焼けたベーコン。カッテージチーズをちらしたトマトとチコリのサラダ。きっと中はとろとろの、ふんわりと焼けた黄金色のオムレツ。ミルクティー。ベリージャムをのせたヨーグルト。

「お前、このまえの訓練の時は、腹が減って死にそうだ、とか言って帰ってきただろう。しっかり食べていかないとな」
「マスター、ライトセーバーの訓練は午後なんですけど」
「そうだっけ」
「でも、最高だ。いただきます」
いうなり早くぱくつき始めた弟子を、普段なら落ち着いて食べろ、とか小言が出るところだが、今日はそれもない。
自分はゆっくりお茶を飲みながら、アナキンをほほえましそうに眺めている。

 やがて、満腹になったアナキンは、ヨーグルトを食べながら、師の顔を伺う。絶対、何かいいことがあった。それも夕べか今朝、それとも―。
「オビ、じゃない。マスター、今日は僕やマスターの誕生日じゃないですよね」
「ああ」
「何かの記念日でしたっけ」
「いや」
じゃあ、何で、と言いかけたアナキンは思いつく。

「いい夢でも見たんですか」
オビ=ワンが柔らかく微笑む。
やっぱり、とアナキンは思う。
「マスター、クワイ=ガン、ジンが出てきたんですか?」
オビ=ワンはちょっと首を傾げて微妙な表情になった。
「お前、今私とマスター、ジンをいっしょに言っただろう」
「じゃあ、オビ=ワンでいい?夢にオビ=ワンのマスターが出てきたの」
「半分あってる」
「あと、半分は」
オビ=ワンは飲んでいたカップをおき、手をテーブルの上にのせて軽く指をくんだ。
「2、3日前、知り合いから子供が生まれたと知らせがあったから、そのせいだと思うんだが、赤ん坊の夢を見た」
「赤ん坊、ベビィ!?」
「それも二人、双子なんだ」
「誰の子供?」
「それが、わからないんだ。どうもジェダイの誰かの子には違いないが、親がはっきりしない。私の、マスターと、私と、お前もいたんだが…」

 オビ=ワンが私の、マスターとか、マスター、ジンとか言う時に、必ず、一拍間をおいて続けることをアナキンは気付いている。パダワンになりたての時、新たにアナキンの師となったオビ=ワンは、師のクワイ=ガンを失った直後だった。

 他からクワイ=ガンの事を言われる時は、気持ちをコントロールしていたが、自分の口からその名をいうときに、―ほんの、つかの間であったが―、波のように悲しみが広がるのを、まだフォースが未熟であったアナキンにも、感じ取れた。

 あれから何年も経た今はそんなことはない。が、代わりにその名を呼ぶ時に、尊敬とも懐かしさとも違う、アナキンが母を想う時の甘酸っぱさに少し似たような、甘やかな響きがともなう。そして、師はあの一拍の間で心に覆いをかける。

 僕にはわからない。あの師弟が特別な絆だったことは、幾人にも聞いた。始めからうまくいっていた訳ではないことも。だからこそ、終いには絆が強くなったんだろうか。僕とオビ=ワンは、まあ、うまくいってる。だけど、なんか、クワイ=ガンとオビ=ワンとの関係とは違うような気がする。

「とにかく、すごくかわいいベビィで、皆で面倒を見てるんだ」
「どんな」
「一人は青い目。マスター、ジンやお前より薄い、きれいな空色の大きな瞳で、髪は薄いふわふわした金髪。お前の小さい時よりもっと薄い色だ」
「僕だってベビィのときはそうだってママが言ってましたよ。もう一人はどこか違ってるんですか」
「黒髪で、瞳はたしか茶色だった」
「双子なら同じじゃないんですか?」
「ヒューマノイドの双子は一卵性は容姿が似ているが、二卵性は他の兄弟同様違う。両親の遺伝子がそれぞれに出るんだろうな」
「僕達三人が出てきたってことは、誰かが父親だってこと」
「それは、はっきりしないが、まあ、生物学的には可能性はあるだろう。お前だってもう15だし」
ヨーグルトのスプーンを加えたまま、アナキンの動きが止まった。

「ヒューマノイドは単体生殖はできないから、男性は精子を提供できても、出産はできない。試験管ベビィじゃなければ、女性が産む」
オビ=ワンの口調は淡々としているが、アナキンを見る目は悪戯っぽい。
「マスター、それって、誰か女性がその、ベビィの母親だった可能性があるってことを言ってるんですか」
アナキンが、上目遣いに言う。

 日頃は背伸びしたがる弟子だが、こういう話題はまだ照れ臭いらしい、とオビ=ワンは愉快になった。
「母親は全然わからなかった。まぁ、夢の中の事だからな。本当に天使のようなベビィだったんだ。お前のアイエゴの月の天使も確か黒髪じゃなかったか」
「…」
「とにかく、小さくて柔らかくて、頬がばら色っていうのかな。すべすべの肌。指は小さくてもちゃんと全部揃ってて、その手を握ったり、開いたりして動かすんだ。それで、声をあげて笑ったんだ」
「笑った」
「声をたてて、本当に嬉しそうにこちらを見て笑うんだ。腕の中でベビィが笑うなんて始めてなんだが、とてもリアルでね。今でも、声やあの天使のような顔が目に浮ぶ」

 オビ=ワンは片手で頬杖をつき、口元に笑みを浮かべて目を外に向ける。窓の外は明るい空が広がっている。
「それで、きょうはご機嫌なんですか」
まあな、と少し照れ臭そうに弟子に向けた笑顔が、あまりに魅力的でアナキンは眼を見張る。

 日頃はしかつめらしい顔のオビ=ワンがめったに見せない極上の笑顔だ。今日の機嫌は本物だ。いやしかし、何度あの笑顔の直後に怒声が降ってきたことか。それにしても、オビ=ワンは弟子には笑顔を出し惜しみするくせに、任務の交渉事や社交とあれば、いくらでもあの笑顔を振りまく。

 どれほどわかってるんだろうか。ご婦人方がオビ=ワンを見る目がハート型になってることを。いや、わかってやるのならいやらしいが、本人は絶対自覚していないから、かえって始末が悪い。

 瞬時にそこまで考えた弟子の思考は冷静さを取り戻した。
「よかったですね。で、それからどうしたんですか」
「そこで、眼が覚めたんだ」
なんだ、といいたげにアナキンは肩を竦めて立ちあがった。
「ごちそう様でした。じゃあ、いってきます」

 弟子のそっけなさにオビ=ワンは心の内で苦笑しながらも、口に出す。
「今、思い出したが、金髪のベビィはたしか男の子で、黒髪の子は女の子だった。着てるものが違っていたな」
「金髪が男で黒髪が女の子…」
立ち上がり、テーブルから離れようとしたアナキンの足が止まる。

「たしかに僕は金髪で青い眼、パドメは黒髪だけど」
アナキンの顔がうっすらと赤くなっていく。
「どうした、パダワン」
師の明らかにからかう様な口調にも返事はない。
「さて、何かお祝いを贈らねばな。お前は帰りはいつも通りだろう。私もミーティングがあるが、遅くはならない」
「わかりました。いってきます」
弟子は、いつになくおとなしく出掛けて行った。


 弟子が出て行った後、オビ=ワンは一人で朝食をとりながら、つぶやく。
「変なやつだ…」
興味の有る無しがはっきりしているアナキンは、予想通りというか、ベビィの話にはあまりのってこなかった。それなのに、パドメの事を思い出したとたん、あれだ。

 15歳か。想像だけはたくましくなる年頃だ。パダワンはまあ、実践の機会はごく乏しいだろう。いや、あの弟子のことだから、目を離すと何をしでかすかわからない。
自分が15のころは、マスターの後を付いていくだけで精一杯で、女の子のことなど気にしたことが無かった。

 だが、リアルな夢だったなと、又、思い出す。双子のベビィか。何かの暗示だろうか。いや、子供の誕生の知らせを受けたからあんな夢を見ただけだ。

 マスター、とオビ=ワンは心の中でクワイ=ガンの名を呼んだ。私は腕の中にベビィを抱いていた。柔らかくて、少しミルクッぽい甘い香りのするすべすべの頬。小さい小さい手足。

 ベビィに見入る私にマスターは耳元で囁いた。オビ=ワンは思わず手を耳たぶに触れてみる。ここにあの人の吐息が残っている。確かに聞いた。
「私たちの赤ん坊だ」
と、オビ=ワンの頬は見る間に染まり、先ほどの弟子の顔よりも赤くなっていった。



End


  * * * プリンセス(女の子)を出産された“Promise”のkikiさまに贈った話です * * * 

 再び、健全オビ&アナ師弟。内容はどうも、師弟のお料理シリーズのようになってしまいました。
映画やJAで食べるシーンはあっても自炊するところなんてなかったはず。でもパタオビはけっこうお腹すかしてたようなので、仕方なくて自分でするようになった、と妄想。 あ、でもリアム氏もユアンもちゃんと他の映画で料理してました。

戻る
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送