A Trap | ― 罠 ― |
カウンシルのジェダイテンプルは、銀河中に散らばり、過酷で危険な任務をこなすたいていのジェダイにとっては、安らげる場所である。 が、時には思わぬ落とし穴が待ち受けていることもある。 「本当に、単位が取れないんですか?」 はい、と係りの声が返る。 オビ=ワンは教務係りに呼び出され、規定を満たしていないのである科目の単位が認められないと告げられた。 「提出物を出せば、出席日数が足りない代わりになるはずですが」 「この科目は提出物だけではだめで、人前で実際に発表する必要があります。すぐにやっていただければいいですよ」 「私は明日任務でテンプルを出発するんです」 オビ=ワンが悲痛な声をあげる。 「今日中にどこで発表できるんですか。今回取れなければ、あとは来年ですか」 その様子を気の毒に思ったか、係りはどこかと連絡を取っていたが、やがて、肯くとオビ=ワンを振り向いた。 「許可が出ました。すぐいって発表してきてください」 「本当ですか。ありがとうございます。どこへ伺えばいいんですか」 「マスター・ヨーダのところです。テーマはそこで言われるそうです」 クワイ=ガンの通信機が鳴った。 「マスター、今よろしいですか」 「ああ、部屋だからかまわん。どうした?」 オビ=ワンの安堵した吐息。だが、同時に不安が感じとれる。 「マスター・ヨーダの部屋の近くです。実は―」 弟子は事の次第を話す。パダワンの教科の進み具合はマスターの責任もあるから、ヨーダの元へはマスターが付き添ってもいいと言われたという。 「マスター、確か会議の予定でしたね」 「ちょうど出かけるところだった。残念ながら、はずすわけにはいかん」 「―そう、ですよね。すみません。私がちゃんとしていないせいです」 「パダワン。大丈夫だ」 安心させるように言う。 「マスター・ヨーダの前だろうと、お前はやれるとも。いつも通りに落ち着いていけ。そうだな、キャベツの前で発表していると思えばいい」 「キャベツ!?」 「マスターと思わないで、キャベツと思えば大丈夫だ」 弟子は、大きく息をついた。 「やってみます。ありがとうございます」 小柄な偉大なるジェダイマスターは空中に浮いた椅子にすわり、視線の高さを同程度に合わせ、大きな目でオビ=ワンを見つめる。 確かに、緑の肌色はキャベツに似ているかもしれない…。 オビ=ワンは一瞬過ぎった思考を、ここにくる前に念入りに張ったシールドに押し込めた。 「そう硬くならんでもいい。久しぶりじゃな。オビ=ワン、ケノービ」 「はい。マスター・ヨーダ」 「それで、"プレゼンテーション"科目の規定が足らんとな」 「はい。マスター・ヨーダの前で与えられたテーマを発表できたらいいと言うことです」 「ふむ。では、そうじゃな。先ごろの任務のことでお前達が評議会に呼ばれたじゃろう」 「はい」 「あれは、クワイ=ガンが答えたが、お前からも言いたい事があればいうがよい」 このテーマならいける。オビ=ワンは、しばし気持ちを集中して考えをまとめ、話し出した。 ある惑星の開発をめぐる政府側と地元原住民の紛争だった。ジェダイが出て説得すれば解決すると要請され、赴いた。 しかし、政府側の言い分だけでなく、実際に地元に行ってみると様子はだいぶ違っていた。原住民の聖地をも含む広大な地域は自然に恵まれ、開発の必然性はなかったし、地元も望んではいなかった。 調査するうちに、開発推進派と民間業者との癒着が見えてきた。さらに、川の近くにある業者関連の工場では汚染対策をしておらず、表沙汰にならないうちに開発を進めたがっていた。二人は政府の開発推進派と民間業者の癒着の証拠を突き詰めた。それを知った政府は結局開発を断念した。 「報告書には開発が中止になった、としか書いていなかった。しかも、当初1週間の予定が半月かかっておる。惑星政府からは不満もないが、評議会とて詳しく知りたいところじゃ」 「はい。マスター・ヨーダ。私のマスターの説明で評議会も納得されたので、その経緯を報告書に追加して提出いたしました」 「この追加分はお前が作ったのじゃろう。今のお前の言った事同様、わかり易い」 「いえ、マスターが作られたのを少し手伝ったくらいです」 あわてるオビ=ワンにヨーダはふん、と鼻を鳴らす。 「まあよい。ところで、反対派の妨害があったというのは」 「調査しているとき、一度攻撃型ドロイドに襲われました」 「どのくらいいた」 「8体。確かマスターが5体、私が2体倒しまして、1体は私がセーバーで腕を落とした後マスターが蹴ったら倒れて、そのまま動かなくなりました」 「なるほど」 ヨーダは杖をトンと鳴らした。 「パダワン、ケノービ。発表はよくできた」 「ありがとうございます。マスター・ヨーダ。それでは―」 「そうじゃな。だが、お前のマスターの指導ぶりについて少し聞かせてもらおうかの。クワイ=ガンとお前の関係と、日頃の様子についてじゃ」 瞬間、オビ=ワンは硬直した。ベッドをともにする仲になってから半年余り。他人に、ましてマスター・ヨーダに知られたら。 あらん限りの集中力を振り絞ってキャベツを思い浮かべる。 「マスター、ヨーダ。失礼します」 褐色の肌の沈着な評議員、メイス・ウィンドゥが入ってきた。 「会議は終わったようじゃの。何か用か」 「パダワンの単位許可にはマスター・ヨーダの許可と評議員1名の立会いが必要と連絡がありました」 「オビ=ワンの発表は良かったぞ。これからマスターの指導振りについて聞こうとしたところじゃ」 それでは私も、とメイスは傍らの椅子に腰掛けた。 オビ=ワンは思わぬ展開に戸惑ったが、それでも、落ち着く時間が与えられたことに感謝して一心にシールドを固めた。 「さて、任務の他にテンプルではどうじゃな」 実はテンプルでのほうが一緒の時間は少ない。パダワンは勉強や訓練に忙しく、マスターはいろいろと用事がある。夜は自由時間だが、宿題や付き合いに時間をとられる。 「マスターは課題に助言してくれますし、色々な事を教えてくださいます」 「食事はどうしている」 と、これはメイスが聞いてくる。 「昼は食堂で、朝と夜はだいたい部屋で取ります」 「マスターが作るのか」 「いえ、教えていただきましたから私もできます。もう19ですから、家事や雑用をするのはパダワンの勤めです」 「それでは、マスターは時間があるだろうな」 「マスターは任務中は大変ですから、テンプルに戻った時は自由になさっていただきたいと思います」 オビ=ワンはブルーグレーの眼を見張り、緊張した面持ちで質問に答える。 表情を変えずにそれを聞いていたメイスの視線は、行儀良く立っているオビ=ワンの足元の、よく磨き込んだブーツに注がれる。 「ジェダイは身嗜みも大切だが、お前はよく気が付くようだな。マスターの面倒も見ているのか」 「私のマスターは、どちらかと言えば自分ではあまり気にされないほうですので、身の回りの世話をするのはパダワンの勤めです」 「見上げたパダワンだ」 「クワイ=ガンはだいぶ楽をしておるようじゃな」 ヨーダが小さく笑う。 「オビ=ワン、お前のマスターが頑固で自分の考えを通してしまうことはわかっている。お前だって苦労が耐えないだろう。何か思っていることがあれば、遠慮しないで、私達に話してくれないか」 オビ=ワンの緊張が少し緩み、微笑が浮かぶ。 「ありがとうございます。マスター・ウィンドゥ。確かに私のマスターはおっしゃる通りかもしれませんが、私も至らない所がたくさんあります。それに、もう慣れました」 「なるほど。だがいつでも相談してくれ。お前が言わないで欲しければ、もちろんマスターには黙っている」 クワイ=ガンになんの不満もないオビ=ワンは、つい、マスターを弁護してしまう。 「マスターは、指導は厳しいことが多いですが、時には、とても優しくしてくださる事もあります」 「ほう」 オビ=ワンはうっかり漏らした言葉に、自分で自分を踏んづけたくなった。 「怪我をした時とか―」 愛し合う時のクワイ=ガンの優しさを打ち消して、必死にキャべツと、メイスのイメージからじゃがいもを思い浮かべる。 「よくわかった。オビ=ワン。お前達がうまくいっているようでわし達も安心じゃ」 「ありがとうございます。マスター・ヨーダ」 「単位は許可。メイスが立会った」 メイスが傍らのデータパッドを取り上げヨーダに差し出した。ヨーダはキーを押し、メイスも同じようにした。 見ていたオビ=ワンがホーッと大きな息を付く。 メイス・ウィンドゥの通信機が鳴った。 「私だ。ああ、お前か」 マスターだ。オビ=ワンの顔が輝く。 「ちょうど済んだところだ。許可した。わかった。すぐ返す」 フォッ、フォッとヨーダが笑う。 「クワイ=ガンも心配していたようじゃな。オビ=ワン、すぐ帰ってやるが良い」 オビ=ワンは丁重に礼をして部屋を出て行った。 「どうじゃな。メイス」 「問題は何もないようですな」 「思い過ごしかの」 「というか、その、あいつがこの所おとなし過ぎる。任務でもテンプルでも、以前なら厄介事を持ち込んでいたのが」 メイスは立ち上がって、部屋を歩き出した。 「やつも、あの年で落ち着いたというか、帰るべき所ができたというか、まるで―」 「結婚して落ち着いた男みたいじゃということか?」 「マスター、ヨーダ!」 「ものの例えじゃよ」 「ああ、いや、例えとしてはそんなものでしょう」 「あの二人がな」 ヨーダはいかにもおかしそうに、再びフォッ、フォッと笑い出す。 「ついこの間まで、パダワンは必死であれの後を追いかけておったがの」 「今では、片腕と言ってもいい。それどころかフォローして回っている」 「仕事もできるが、問題もおこす。偶におとなしいとかえって気になるか。メイス」 「何かたくらんでいるか。それともそ知らぬふりで何か隠しているか」 大きな目を細め、気が付いたか、とヨーダが言う 「何か聞かれて動揺するたびに、オビ=ワンの頭の中でキャベツとじゃがいもが飛び交っていたわ」 メイスが怪訝な顔でヨーダを見返した。 「見守る事じゃ」 椅子に身体をうめたヨーダは杖をつき、耳を垂れ、瞼を閉じた。 「あの二人の絆はフォースの導くところだと思うておる」 「そうですな」 そのころ、飛ぶように住まいに戻ったオビ=ワンは、師の腕の中で溢れるような笑みを浮かべて、顛末を語っていた。 「と、いうわけです」 「ふむ」 よかったな、と口ではいいながら引っかかるものを感じる。 何か探りでもいれてきたか。だが、すぐにテンプルを離れる。しばらく遠ざかったほうがいいかもしれない。 「明日出発したら、当分戻れないかも知れんな」 「テンプルでなくても、勉強は時間があれば、ちゃんとやります」 それに、と目を上げて言う。 「どこにでもお供しますよ。あなたの側が私のいる場所ですから」 その眼差しに頬がゆるむ。クワイ=ガンは弟子のブレイドを持ち上げて恭しく口づけた。 「そして、私が帰るのはお前のところだ」 End マスターとの事をつっこまれて狼狽するオビ!さあ、どう切り抜ける、というほどの危機的状況でも何でもありませんでした…。 逆バージョンもありかな。でもマスターはとぼけるのうまそうだから、ダメですかね。 |
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