Moonlight ― 月光 ―
 
 郊外の山荘に人質と共に立てこもっていたゲリラ達を逮捕し、数名の人質を無事救出した。クワイ=ガンとオビ=ワン師弟がこの惑星に到着してからわずか3日目に、一月以上も政府の要人達を人質にし、過激な要求を突き付けていた誘拐事件は解決した。

 これ以上の篭城は人質の生命にかかわると、惑星政府の緊急の依頼に応じてジェダイの師弟は、直接現場に近い基地の空港に到着して、任務の遂行にあたった。 

 人質と負傷者を病院へ送り、行動を共にした惑星の特殊部隊が現場の残務をすることになり、二人の任務は終了した。

 惑星政府からは強く引きとめられたが、次の任務が決まっているため時間も無い。このまま、到着した基地の空港から乗って来た宇宙船で飛び立つことにした。山荘から基地までは数キロ、着いた時は基地の隊員に送ってもらった。


 夜になり、月が昇っていた。この惑星の衛星である月の周期は約30日。今宵は満月で、澄みわたった空から月光が辺りを照らしていた。クワイ=ガンは夜空にほの白く輝く満月を眺めていたが、ふいに、歩いて戻ろう、と言い出した。弟子と隊員は驚きあわてたが、クワイ=ガンは本気だ、と言う。

「この惑星の月は美しいことで有名だ。あわただしく去る前に、せめてせっかくの満月を楽しんでいこう」
オビ=ワンは内心あきれたが、数キロの徒歩は苦にもならない。師に同意した。
急遽乗り物を用意してきた隊員に丁寧に断りと礼を告げ、二人は歩き出した。

 山荘の周りは低い丘陵で森と農地になっていた。道は緩い下りになっている。この惑星の今の季節は初秋で、ときおり吹く微風に芳しい花の香りが漂う心地良い晩だった。

「あの月に人は住んでいるのですか?」
「大気が薄く、水もないので開発されなかったそうだ」
「では、本当に眺めるだけですか」
「惑星間の飛行が出来なかった昔の人は、月を眺めていろいろ想像した。多くの惑星に月の伝説があるだろう」

 上背のあるクワイ=ガンの歩き方は速い。オビ=ワンも今では師にあわせてかなりの早足で歩む。月を眺めるとは言いながら、普段の常でゆっくりした足取りではないが、二人で語り合いながら進む。

「満月の晩に獣に変身する男の話を聞いたことがありますが」
「それは、フィクションじゃないか?」
「そうだったかな」
「特に満月時は月の引力が強くなり、生物に影響を及ばす。気分が高揚したり興奮し易くなるとも言われる」
「それで、変身するのは満月の晩ですか」
「まあ、そういうわけだろうな。海のある惑星では月の引力で潮の干満を引き起こす。生物の誕生や死も月の影響を受けるという説さえある」
「中々神秘的ですね…」
相槌をうちながら聞いていたオビ=ワンが、急に立ち止まり、目を凝らした。

 「何だ?」
オビ=ワンはそっと顎で暗がりを指す。
数組の赤い光がこちらを見ている。
立ち止まったクワイ=ガンも、小声でいう。
「鹿か、いやきつねか」
その時、草むらで音がし、小さい白い影が奥に逃げていくのが見えた。
赤い瞳の獣はすぐさま跡を追って闇に消えた。
「兎でも追っていたんでしょうか」
「ああ、獣の目は暗闇で光るからな」

 再び、二人は歩き出した。
「兎といえば、どこかの惑星の伝説で、月に料理をする兎が住んでいるというを聞きました」
「料理をする兎?」
「月の女神に仕えている兎が円いケーキのようなものを作るんです」
「お前が興味を持ちそうな話だな」
「これを聞いた時は、どんなケーキかいろいろ想像しましたけど」
「―ときどき、思うのだが、我パダワンには少々ロマンが欠けているようだ」
「それは自覚してますが、でもマスターも特にロマンチックというわけでもないでしょう」
「まあ、お前よりはマシで、多少引き出しがあるという程度だがな」

 弟子の返答に苦笑しながら、そうだな、と話し出す。
「月からきた美女の伝説がある。ある夫婦が森の中で女の赤ん坊を見つけ、子供にして育てた。美しく成長した娘に多くの男が求婚したが、誰にもうんと言わない」
「どうしてですか?」
「自分は月の者でいずれ迎えが来て月に帰っていくので結婚できないというんだ。それでもあきらめない男達へ、かなりの難題を言い渡し、適えてくれたら妻になるという」
「意地悪そうに思えますが、どんな難題ですか?」
「たいていは、最高の宝物を手に入れて来いというものだ」
「どうなりました」
「身分も富もある男達が財を傾けて努力したが、ことごとく失敗した。終いには、国の王までも娘を求めたが、結局、月からの迎えが来て、美女は月に帰っていった」
「男としては割り切れない思いもしますが」
「それだけの価値がある光り輝く美女だったというわけだ」
「確かに、兎よりは美女のほうがロマンがありますね」


 いつしか森を抜け、平地になった。人家の明かりが見える。街外れの基地がそろそろ見えてくるころだ。
月は先ほどより高い位置にある。
「ロマンとは程遠い話なんですが」
オビ=ワンが話し出す。

「ある村で月がないため夜が暗くて困っていた。そこで、四人の男が相談して、月を買ってきて村で一番高い木の枝に掛けたんです」
「月が買えるのか?」
「どこかで売っていたんでしょうね。手ごろな値段で。で、村は夜も明るくなって喜んだんですが、四人の男達が年取って次々と死んでしまい、その度に4分の1ずつ月を切って、一緒に墓に埋めたんです」
「ほう」
「いろいろと不可解な伝説なんですが、とにかく、最後の男が死んで、村はまた元の暗い夜に戻った。ところが、墓地の地下では、死人が月のせい明るくて眠れないと起き出してきた。村は死者が甦ったので大騒ぎ」
「パニックだな」
「ところが、地下で4つの破片が合わさり、満月になった月が地下から飛び出して空に昇り、こんどは永遠に地上を照らすようになったという話です」
「月は誰も所有することはできないさ」


 見覚えのある基地の高い塀が遠くに見えてきた。道の一帯は草原で、頂き近く昇った月は煌々と辺りを照らす。月明かりに互いの表情も見える。クワイ=ガンは少し歩調を緩めた。
伝説ではないが、と話し出す。

「どこかの惑星で、栄華を極めた自分を満月にたとえた男がいた。娘達を次々と王に嫁がせ、生まれた子が次の王になった。自分は王の祖父として権力を握った時にそう言い放ったんだ。この世を手中にした自分の権力は、満月のように完璧でこの先も変わることがないと。だが…」
「どうしたのですか?」
「満ちた月は必ず欠けるものだ。男も栄華を極めたが、そのため多くの恨みを買い、最後には病気になって己の罪におののきながら、死んでいったそうだ」
「…」
「人間の欲望など、月には預り知らぬことだ。まして我々の人生など、宇宙では一瞬に過ぎない」


 いつしか基地の入口が見えてきた。
クワイ=ガンは木立の側で立ち止まり、オビ=ワンを振り向かせた。
「ラブソングで、たしか愛しい者のためなら、罪も犯そう。月も取ってこよう。というのがあった」
「過激ですね」
そうだな、といって月光にオビ=ワンの顔を向け、白い顔がよく見えるようにした。

 口元に笑みを浮かべ、月明かりに冴えた蒼い瞳がクワイ=ガンを見上げる。
「お前を見てると、その気持ちがわからんでもない。月を取ってこいと言われれば、かなえてやりたくなる」
「私がそれを望むとでも?」
いいや、と軽く髪に口づける。
「お前の望みは、私を喜ばせたいということだろう」
オビ=ワンはちょっと困ったように目をそらす。
「だから、私もいつもこうしたくなってしまう」
やさしく抱き寄せて、唇を重ねた。



End


 満月のお月見、季節はずれのようですが、空が澄んでいるおかげで真冬の月もきれいです。少しほのぼのと二人で散歩する師弟。うちのオビがロマンに欠けているってことは前からわかっていたんですがねぇ。マスターの情操教育もどうも方向が違うんでは…。
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