A Devil Food Cake | ― 悪魔のケーキ ― |
クワイ=ガンとオビ=ワンが任務を終え、テンプルに戻ったのは2月も中旬に差し掛かった時だった。報告を終え、住まいへの途中、師弟は顔見知りに会い軽く言葉を交わす。 すると、二人の姿を見かけて、駆け寄ってきたパダワンになりたての数人の少年・少女が、うれしそうにオビ=ワンに話し掛けた。 「オビ=ワン、今戻っていらしたんですか?」 「ああ」 「テンプルにはいつまでいらっしゃいますか」 「次は決まっていないし、少し離れていたから、しばらくいると思うよ」 「では、訓練にもいらっしゃいますね」 「勿論」 「楽しみにしています」 彼らは顔を輝かせた。そして、クワイ=ガンにも礼儀正しく挨拶して離れていった。 二人は再び歩き出した。 「年下に人気があるようだな」 「人気かどうかは…。ライトセーバーの模範試合をしたことがあるので、覚えられたようです」 「お前のことだ。ついでに教えてやってるんだろう」 「まあ、聞かれれば教える程度です」 数日後、訓練を終えて帰ってきたオビ=ワンは手に大きな荷物を抱えていた。 「マスター、只今戻りました」 「おかえり、何だそれは?」 「少し買い物をしてきました。すぐに夕食の支度をします」 オビ=ワンはそそくさとキッチンに向かおうとする。 「未だ早いじゃないか」 いえ、今日はちょっと、と、弟子はそのままキッチンのドアに手を掛け中に入っていく。 「手伝おうか」 「一人で大丈夫です」 顔だけ出してそう言うと、オビ=ワンはキッチンのドアを閉めた。 何か作るつもりかなと思案をめぐらしたクワイ=ガンは、今日が2月14日だったと気付いた。 何年か前オビ=ワンが15、6の頃、友達にもらったと言って、チョコレートを見せたのを思い出した。バレンタインデーというのがあるのは知っていたが、テンプルにまで及んでいるとは知らなかった。 「愛の告白をされたのか」 「いいえ、バンドは友情のしるしで、シーリーは、義理、だそうです」 おやおやという表情のクワイ=ガンにも勧めながら、オビ=ワンはチョコをかじる。 「それはいいとして、一月後のホワイトデーにはお返ししなくちゃいけないんです」 「お返し?」 「もらったチョコの、最低倍以上の物をあげなきゃならないんですよ」 オビ=ワンは溜息をついた。 そんなことを思い出したクワイ=ガンは、先ほどのオビ=ワンの様子がおかしかったと気付く。チョコをもらってきたのを隠していたのか?だとすれば、恋人の自分に遠慮しているのだ。パダワン同士の他愛も無いことに自分は気にもならないが、真面目なオビ=ワンらしい。 ころあいを見て、そっとキッチンへ行ってみた。 オビ=ワンは真剣にレシピを見ながら、ボールにマヨネーズを搾り出していた。 「何が出来るんだ?」 「えっ、うわっマスター!」 「そんなに驚かなくてもいいだろう」 「人が悪い。気配を消さないで下さい」 「してないぞ。お前が集中していたからだろう」 話しながら、クワイ=ガンの視線はキッチン中に注がれる。 オーブンから肉の焼ける香ばしい匂いがしている。出来上がったサラダに、付け合せらしい温野菜、鍋にはスープ。調理台の上には、ケーキの型や粉が乗っていた。 「デザートも手作りか?」 オビ=ワンは手にボールとマヨネーズを持ったまま突っ立っていたが、あわてて、それらを台に置き、手で師の体を押し留めた。 「もうすぐ出来ます。お願いですから、あちらで待っててください」 背を押されてキッチンを出ながら、クワイ=ガンの目は、隅に置かれた袋からのぞくリボンが付いたカラフルな包みを見逃さなかった。 間も無く、オビ=ワンが出来ましたと言って料理を運んできた。 「これは、うまそうだな。バレンタインだから特別メニューか」 クワイ=ガンの賛辞に、ご存知だったのなら、とオビ=ワンは軽くクワイ=ガンを睨む。 「女性ではありませんが、マスターに何かしたいと思いまして。それにあなたは甘いものはあまり好きじゃありませんから」 グラスにワインを注ぐ。 「いいパダワンを持って幸せだ」 クワイ=ガンはうれしそうにグラスに口を付けた。 なごやかに食事が進み、やがて、オビ=ワンがデザートですと言って運んできたのは、飾りのない円い黒っぽいケーキだった。 「チョコレートケーキか」 片眉を上げた師を眺めながら、オビ=ワンは悪戯っぽい目でケーキを大きく切り分ける。 「私の気持ちです。召し上がって下さい」 苦笑しながら、一口すくって口にいれたクワイ=ガンは、驚いたように声を上げた。 「あまり、甘くないな。それに、スパイスが効いている」 「お気に召していただけました?」 「うまい、てっきり甘いかと思ったが」 「チョコが少々と、マヨネーズも入っています」 「珍しい。なんと言うケーキだ?」 「実は、デビルフードと言います。バレンタイン向きではありませんが」 オビ=ワンも嬉しそうにケーキをほおばっている。 最後にコーヒーが出て、ソファですっかりくつろいだクワイ=ガンがオビ=ワンに言う。 「私は満足だったが、お前は物足りないんじゃないか」 「充分です」 「いや、甘いものが欲しいかと思ってな。チョコを贈られたのじゃないか」 オビ=ワンは苦笑しながら立ち上がると、キッチンから紙袋を持ってきて、テーブルに中身を出した。どれも可愛らしくラッピングされた小箱が10個余り。 「バンドとシーリー以外は誰だ?」 「二人とも任務でテンプルにいません。これは、今日訓練にいったら年少のパダワン達から贈られたんです」 「ほう!?」 「それに、もう二人とも子供じゃないからいてもくれるかどうか。私達もここ何年かこの時期は任務でテンプルを空けていましたしね。もう、子供の頃のバレンタインは卒業したと思っていたんですが」 オビ=ワンは包みの一つをあけ、小さなハート型チョコを取り出して口に入れ、甘さを味わっていたが、飲み込んで口を開いた。 「やっぱり、お返しはしなきゃならないかな。それともマスター、任務を入れてくれませんか。出来たら容易に帰れない辺境あたりに」 それもいいが、とクワイ=ガンはオビ=ワンのブレイドを指で引き寄せながら、目を見て話し掛ける。 「私からのお返しは期待していないのか」 「本来は、そういったものはなかったようですよ」 欲の無い物言いに、クワイ=ガンは笑いながらオビ=ワンに軽く口付けた。 オビ=ワンは目を閉じ、誘うように薄く口を開けるとクワイ=ガンの舌が割り込んでくる。 「甘いな」 すぐ顔を上げたクワイ=ガンは、オビ=ワンの背を引き寄せ、抱きしめながら囁く。 「だが、たまにはじっくりと味わうのも悪くない」 そうして、オビ=ワンを優しくソファに横たえた。 End いつも甘々なクワオビ師弟。オビがマスターの為に腕をふるいます。料理のできる男の子っていいな〜。ほんと、マスターがうらやましい。あれ、バレンタインの主旨とずれてきた…。 |
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