White-out ― 雪くらみ ― 雪の乱反射で方向や距離がわからなくなる現象
 
 突風が吹いたと思うと、視界は真っ白になった。何一つ形がない一面の白。危険を感じてとっさにスピードを緩めた。その瞬間鈍い音がし、スピーダが衝撃で揺れた。気付いた時には、オビ=ワンの体は雪の中に投げ出されていた。

 雪中から沈んだ身を起こし、あい変わらず視界の悪い中で、雪に斜めに突っ込んでいるスピーダに近づく。エンジンを止め、あたりを見回す。横殴りに吹きつける雪に覆われて白くなった岩が連なっている。吹雪は続いている。

 風が収まるまで待ったほうがいい、とオビ=ワンは判断する。この状態ではまた白い岩に追突するばかりだ。快適とはいえないスピーダの椅子で身体を丸め、ローブをすっぽりと身体に巻きつけた。

 気温はマイナス以下だが、それよりも、風にさらされれば、さらに体感温度はマイナス何十℃にもなって体は凍り付いてしまう。風さえ避けられれば、大丈夫だ。嵐が止むまで体力を保ちさえすれば。

 こういう時は、フォースを集中し身体の中に熱を保つ、と教えられた。あれは、いつだったか。オビ=ワンは目を閉じ、意識を集中させながら、そう教えてくれた師を思い出していた―。

 何かのぬくもりを感じ、意識が目覚めた。額を、頬を暖かい手がなでている。これは、マスターの大きな手だ。マスターと薄く目を開けて見る。少し離れたところに、穏やかな顔でこちらを見ているクワイ=ガンの姿があった。何度も夢に見た。忘れ得ないその姿。

 迎えに、来てくれたんですか?と言おうとした。が声にならない。 クワイ=ガンは笑みを浮かべて何かを言った。何ですか、マスター。

 ―次の瞬間、耳に大声が飛び込んできた。
「マスターって!?マスター、気が付いたんだね」
身体を揺さぶられ、今度こそ、はっきりと意識が戻った。

「ナ…、アナキン」
「まあったく。一人で帰ってくるなんて。あの後、すぐ隊の人が見つけてくれなかったら危なかったんだから」
「ここはどこだ?」
「あなたが僕を置いてった基地の医務室。危険だからと一人でキャンプまで出かけて、戻ってくる途中、吹雪にあったんだよ」
「そうか、面倒をかけたな」
「まったくだよ」
アナキン、スカイウォーカーは言い放つと、青い瞳に力を込めてオビ=ワンを見つめた。
とたんに、その表情がくずれ、泣き笑いのようになった。

 まだ13歳の弟子がどんなに師を心配し、目を覚ますまで緊張していたがわかる。不遜に聞こえる物言いも彼なりの精一杯の愛情表現だ。オビ=ワンは弟子に笑いかけながら、すまなかった、と小声で言う。
「もう、大丈夫だ」
「まだ、顔色がよくないみたいだ。暖かい飲み物をもってくるから」

 部屋を出て行くアナキンを見ながら、オビ=ワンはベッドの枕に頭を沈めた。極寒のこの惑星でも、室内は充分暖かくしてある。心地良い温かさに包まれながら、ぼんやりと考えをめぐらす。とにかく、今回の任務は終了した。この後はコルサントに戻ることになっている。

 マスター、と先ほどのクワイ=ガンの面影を浮かべてみる。一瞬、あの世から迎えに来てくれたと思ったのに。やっぱり、生残るようにと言われたんですか。少し恨めしく思っていることに気付く。そうですね。あなたが残したあの子をナイトにするまでは、私は勝手にあなたの側にいくことはできませんね。

「オビ=ワン、寝ちゃったの?」
アナキンが湯気の立つカップを持ち立っていた。
「マスターと呼べ、といつも言ってるだろう」
オビ=ワンは目をあけ、ベッドに上半身をおこしてカップを受け取った。

 アナキンは師がゆっくりとカップを口に運び、飲み物を味わっている姿をベッドサイドの椅子でおとなしく眺めていたが、思いついたように口を開いた。
「さっき、マスターがマスターって言ったのは、クワイ=ガンの事?」
「クワイ=ガンじゃなくて、マスター、ジンと言いなさい」
「じゃあ、マスターがマスターって言ったのは、マスター、ジンの事?ああ、ややこしい!マスター・ジンが出てきたときはオビ=ワンでいい?」
オビ=ワンが苦笑して頷く。師の表情を見ながら、アナキンが少し言葉使いを改める。
「ええと、オビ=ワンがマスターって言ったのは、マスター、ジンの事ですか?」
「そうだ」
「何か、夢でも見てたんですか?」
「―ずいぶん前だが、マスター・ジンと私も雪の中に閉じ込められたことがあった」

 オビ=ワンはじっと見つめる弟子に気付かれないよう、少しずつシールドをはる。まだまだ未熟でとうてい自分に及ばないが、アナキンのカンは鋭い。クワイ=ガンを懐かしく思い出すときも、愛し合った記憶が呼び覚まされそうな時は、思考を読まれるのを事前に防ぐことにしていた。

「その時に、フォースを集中し、体内に熱を蓄え、体温と体力を保てと教えられた」
「二人だったんですか」
「ああ、身体を寄せ合って、互いのフォースを集中したんだ」

 身をぴったり寄せて、師の腕の中にいた。
クワイ=ガンはオビ=ワンの頭に顎を付け、低い声で囁く。
「眠ってはいけない。パダワン。フォースを集中させるんだ」
「マスター」
「こんなふうにしてると、愛し合いたくなるが、今はそんな状況じゃない」
オビ=ワンの顔に手を掛けて上向かせ、ブルーグレーの瞳をじっと見つめる
「今は、お前も私も生きのびるんだ」
大きな指がやさしく額を頬をなで、そっと触れるだけの口づけをした。
「いいな」
「はい」

 目を閉じ、意識を集中する。同時に師の温かいフォースを感じる。深く、身体の奥深く意識を沈めていく。やがて青く輝く光が深いところから湧き出し、身体を満たしていくのを感じる。すると、温かい緑の光が青い光に流れ込んでくる。二つのフォースが一緒になっているのだ。

 オビ=ワンは深く息をした。師も同じことを感じているのがわかる。今、自分達はひとつだ…。身体を重ねて一つになったときの激しさとは違うが、互いに一体感を感じる、あの素晴らしさに似た感覚が持続している。いつまでも、こうしていたい…。


「朝になったら嵐が止んでいたので、雪の中から乗り物を掘り出して返れたんだ」
「一晩中、雪の中にいたんですか」
「ああ」
「信じられない。でも二人だから助かったのかも知れないし」
アナキンはちらとオビ=ワンの表情を見て言う。
「マスターが一人で雪だるまになって死んでたなんて、やですからね!」
「雪だるま!?」
 弟子の言葉にあっけにとられたオビ=ワンは、やがて、肩を震わせて笑い出した。

「かっこ悪いじゃないですか。マスター・ジンみたいに戦って死んだのならともかく、あなたが勝手に雪だるまになって死んじゃったら、僕はどんな顔してテンプルにもどればいいんですか」
オビ=ワンは笑いが止まらない。腹をかかえて笑い転げた。
「僕もいっしょならまだいいけど、あなただけ雪だるまなんて」
いつまでも笑い続ける師に、アナキンは拗ねたようにオビ=ワンの肩を揺さぶった。

「もう、何がおかしいんですか」
すまない、と言いながら、オビ=ワンは指で目尻をぬぐった。
「心配かけたな」
「まったくです」
「今度はお前も連れて行こう」
アナキンはうれしそうに頷いた。


 その晩、二人に用意された部屋でオビ=ワンがベッドで眠りにつこうとすると、隣りのベッドのアナキンが起き出してきた。
「マスター、もう寝た?」
「いや、どうした」
「寒くないかと思って」
大丈夫だ、と言って弟子の不安そうな様子に気付く。
「アナキン、寒いのか」
弟子は薄暗がりの中で黙って立っている。
「おいで」
オビ=ワンは身体をずらして毛布の裾をめくった。
アナキンがベッドに上って来る。

 毛布を弟子の肩に回して覆ってやりながら、話し掛ける。
「お前、13にもなって、寂しいのか」
「オビ=ワンはどうだったのさ」
私のマスターはあまり、と言いかけて気付く。

「マスター・ジンが爆発に巻き込まれたことがあって、無事がわかるまで心配で、ずいぶんとショックを受けたことがあった」
「それで」
「すぐ無事とわかって怪我も軽かったんだが、私のほうが堪えたようで、夜もよく眠れないことがあった。マスターは―」
アナキンのまだ薄い少年の肩を抱き寄せる。

「ある晩、こうして添い寝してくれた。それからは、私も眠れるようになった」
「オビ=ワンがいくつの時?」
「18、だったかな…」
アナキンが笑い声を上げた。
「そうだな、私もお前のことは言えないな」
オビ=ワンも笑いながら、アナキンの額にやさしく口づけした。
「私はお前を残しては死なないから」
「うん」
「お休み、マイパダワン」
弟子は安心したように師の腕の中で目を閉じた。

 間も無く、規則正しい寝息が聞こえてきた。マスター、と、オビ=ワンは心の中で呼びかける。
あなたが私を守ってくれたように、もうしばらくこの子を守ります。そして、立派なナイトにしてみせます。

 アナキンが弟子になりたてのころは、ときどき添い寝したことがある。だが、最近は無かった。久しぶりの他人の温もりの心地よさを感じながら、オビ=ワンも眠りに落ちて行った。



End

 私はクワオビ専門です〜。それなのに、なぜか少年アナキンが突然侵入してきました。決して今後アナオビに進むことはありません!!(断言)これは回想クワオビ+オビ&アナです。裏の「Deep blue 1」とリンクしてます。
今、雪が降ってます。雪はときに恐ろしい自然の脅威にもなります。旧SWでも雪原でルークとソロが苦労してました。ジェダイの労働環境は苛酷そうです。
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